第1回戦第2試合-4
「あれって……不良がよく着る特攻服……?」
「え……ってことはあずちゃんって……スケバン……!?」
「今時、あんなわかりやすいヤンキーがいるのかしら?」
ユージ、ミナ、チサメの召喚組3人は、今の梓の格好にそれぞれ感想を漏らす――
「いやいや、あれはたぶんコスプレの一種なんじゃないか?」
「そういえばあずちゃん、瞬間的に着替えられる技を持っていたわね」
「あれ、どういう仕組みなのかしら? 今度教えてもらおう!」
やがて、3人の考えは今の梓の特攻服は異世界のコスプレだと結論づけようとしていた。
「何を言っているんだ? お前らは……」
そんな3人に、ごつい男が後ろから声をかけてくる――
「あなたは――?」
ミナはその男が大会参加者の一人であることに気づく――
「確か、なんとか番長の――」
「その通り! 俺ちゃんこそその名も高きお祭り番長!! 性は赤菱名は空牙!! 赤菱空牙とは俺ちゃんの事!!」
「「「………………」」」
召喚組の内、ユージとミナは無言で空牙を見つめる――その目は明らかに空牙を見下している――
それはそうだろう、異世界に召喚されそこで勇者として、または聖女として戦い続けていたのだ――番長なんて呼ばれている人間がどれほどの戦力になるというのか?
「あの白倉梓は異界獣を狩るレディースチーム『帝流範馬』のリーダー、あの特攻服は彼女の勝負服だ――!」
「――とうるはんま……? 帝流範馬……? それって、西の学院の? あれ? でも確かそこって壊滅したって前に聞いたけど?」
「え?」
「知っているの? チサメちゃん?」
いきなり現れて訳のわからない事を言っているだけだと思っていた空牙に対し、真剣な表情で答えを返すチサメを驚きの表情で見るトージとミナ。
「ほう、それを知っているって事はあんたは……チサメ・オータムマウンテン……オータムマウンテン……」
空牙は少し考えて、答えを出す――
「なるほど、南の学院にあるチーム『出門図鯨賭』に……たしか、秋山千雨っていう女生徒がいたはずだ――今は行方不明になっているって話だが、もしかしてあんたが?」
「そう、私が秋山千雨よ」
「おう! 確か、異界獣の襲撃で行方不明になっていたと聞いていたが異世界に召喚されていたのか――!!」
「……あなたのことも聞いたことがあるわ、空牙。確か北の学院のチーム『暴螢之』のリーダだったっけ? ただし、戦闘以外にお祭り好きということで有名……?」
「でもんずげいと? ぼるけいの?」
ユージがなにそれ? といった表情で聞いてくる――
「それぞれ、北と南の学院では有名なチームだったはずだけど? 知らなかったの?」
チサメが、一般常識だろそんなもん、という表情で返してくる。
「ええっと、チサメちゃん、あなたも……異世界に召喚された日本人、なんだよね?」
ミナが聞く。
「そうだけど? あなた達も同じ日本からの召喚者って事で」
「異界獣って? 何?」
「異世界で危険な獣や何かなどを召喚魔法の応用で別世界に捨てられたものた日本に現れたもの――東西南北よっつ存在する武道学院に所属する討伐チームや日本防衛軍、または警察軍などが対処に当たっている――」
「まあ、学徒による討伐チームはアイドルみたいに扱われことが多いけど――」
「……」
ユージとミナは顔を見合わせる――二人には聞いたことも無い話だった――だって、彼らがいた日本にはそんな話なかったのだから――
「だけど、西の学院――あそこはたしか、異世界からの大量召喚被害が発生して一クラスまるまる生徒が消えてしまったって聞いていたけど――? たしか、『帝流範馬』もその被害者の」
「そう、その被害を唯一逃れることができたのが、彼女、白倉梓なのだ――戦闘力特化の女生徒で占められた『帝流範馬』など多数のランキング上位チームが召喚被害で異世界へと連れ去られた――彼女はそれを取り戻すために戦っている……あの時手に入れた、あの鍵の剣を手に……」
「……私のマジカルネットワークでも、あの鍵の剣はわからないと出たけど、あれは一体何なの? 空牙、あなたは知っているの?」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「いくぜ!!」
梓はこれまでとは比べ物にならないほどスピードでエミリアに肉薄する――!!
「くっ!!」
ガキン!!
エミリアもレイピアで応戦する!! しかし、
ドゴ!!
「令嬢のお上品な戦い方と違い、こちとら喧嘩殺方も使えんだよ!!」
梓の蹴りでよろめいたところにくる剣撃の応酬!! すべてをさばききれず、エミリアの高価なドレスがあちこちちぎれ試合場に舞う!!
ただでさえエミリアが落とした何本もの槍のせいで戦える範囲が狭まっている!!
「完全に自業自得だな!!」
バキ!!
「ク……!!」
尻餅をついた形になったエミリアの眼前に梓の鍵の剣が突きつけられる!!
「……くっ!! 殺しなさい!!」
「いや、そういうのはあたいじゃなくてでかいオークとかに言うべき言葉なんじゃないか? あたいはこのままあんたが負けを認めてくれればそれでいいと思ってるけど!」
「……優しいのですね……戦場ではそういうのが命取りになりますの――」
「それはお互い様だろ!! それにあたいはそこまで優しくない!!」
ズン!!
梓はエミリアの胸に鍵の剣を差し込む!!
「ぐ……!!」
「あたいのこれはこんなこともできるんだぜ! トラウマの扉開錠!!」
ガチャ!!
「――なっ!!」
グルン!!
エミリアの胸に開いた扉から何かが飛び出してくる!!
「なっ!?」
エミリアの胸から飛び出したのは一人の黒髪黒目の青年だった――!!
『これは……人!? ファロちゃん、助っ人ってルールで認められたって?』
審判のアニスは反則をとるかどうか迷って相方のファロに聞く――
『アニスちゃん、ルールブックちゃんと読んでなかったの? アイテム扱いになるんだったら生物を呼んでも構わないはずよ、それが人間でもね――』
「……タツヒコ・イチガヤ――!?」
エミリアは呆然とその青年、タツヒコを見る――
「あんたのトラウマとなる人物を擬似的に呼び出したって感じだな――」
「あなたは、召喚者のくせに召喚術を使えるというわけですか――?」
通常、異世界から呼び出された召喚者は、さらに別のものを呼び出すという事は考えられない、とされている――だが、
「あたいは召喚者じゃない、来訪者だ! 召喚者の理は通じない――!!」
そう言って梓はタツヒコの肩に手をかける――
「これは、鍵の剣を刺した相手のトラウマとなる人物を呼び出すという裏技使えるんだ!!」
『うわっ、結構卑怯ですね――さすがヤンキー』
『いや、そういうチートって意外とありかもね』
「なんかずっこい」
「まあ、できるならおれもやる」
「召喚者って、召喚術使える奴いなかったっけ?」
ファロとアニス、そして観客たちも肯定あるいは否定のする――
「見たところ、同じ日本人みたいだけど……あたいのいうことがわかるか? 一緒に戦ってこいつを倒そう!」
「――!!」
素早く身構えるエミリア、天敵を相手に油断することは無いはずだ――!!
「……ああ、すまん!! 残念だけど、このような場所での俺の行動はマスター権限で規制されているんだ……悪役令嬢を目の前にいる状況で悪いんだけどさぁ、俺は今戦えない……」
タツヒコははにかみながらそう言う――
「あ……なるほど、あんた奴属状態なのか?」
しばしタツヒコを眺めた梓は確信してそういった。
「奴属状態――ですって!?」
エミリアも驚いたようにタツヒコを見る――!
「よう、悪役令嬢! 悪いな! 俺は今戦えないんだ――!」
「悪い悪い、それだったら、今回これは無しな!!」
梓はそう言ってタツヒコを鍵の剣で元の場所に返そうとする――
「ちょっと待ちなさい!! 奴属状態って、どういう意味なのですか!?」
『つまり、この男はどっかの国かどっかの魔法使いとか何かに行動を制限されてるって事――よくあるよ、ちなみにこのチート1武道会ではそう言う状態になっている人間は出場資格がありません!』
ファロが解説してくれている。
「奴属状態の人間は、マスター権限を持つものが命令しない限り共に戦ってくれることも無い――すまない、今のやりとり、なかったことにしてくれ!!」
梓は再び空間に扉を開け、そこにタツヒコを押し込んだ――
「さて、仕切り直しだ!!」
梓は鍵の剣を再び構える――だがエミリアは何かを考え込むようにしている――
「奴属状態を解除する方法も確か禁術にあったはず――」
「やる気あるのあんた!!」
シュン!!
考え事中のエミリアに対し襲いかかる梓!!
「――確かに、今の敵はあなたでしたわね!!」
梓に対しレイピアをかまえ直すエミリア――
キン! カン! カキン!! シュッ! ガン!!
鍵の剣とレイピアの打ち合い――――しかし、エミリアの動きが鈍い!!
キイン!!
梓の一撃が決定打となりレイピアがエミリアの手から外れる――魔法で生み出されていたレイピアは、地面に落ちる前にその姿を光へと変えて消滅していく――
「……イゴニサボノクゼアイロト……グッ!!」
「悪いけど、これ以上魔法を使わせる気は無いわ――!!」
エミリアの口を左手で防いだ梓はその首元に剣を突きつけた――
「…………!」
『そこまで!! 勝者白倉梓!!』
ファロはその状態を見て、勝敗は決したと判断する!!
「……なんか、あっけない終わり方だったな。あんた、最後何を考えていた?」
鍵の剣を元の大きさに戻し、梓はエミリアに尋ねる――
「……仇敵を助ける方法ですわね――」
エミリアはそう言うと優雅に頭を下げる――
「わたくし、所用ができましたので、いったん元の世界に帰らせていただきます――」
「あ、待てよ! それならあたいの能力で送っていく――!!」
梓はとりあえず鍵で空間に扉を作った――