幕間-1
『それでは、会場整理のため、十分間の休憩タイムをとります!!』
『試合開始、選手発表ははアナウンスでお知らせしますのでお手洗いなどに行かれる方は今のうちにおすませください!』
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「剣に魔力を込めて、全身の魔力と同調させる――そして振り落とす!!」
シュイ――スコン!!
ユージ・トドロキの前にある石は彼の剣に弾かれてスコーンと飛んでいく……
「くそっ! 難しいなぁ、グラビエンドスラッシュ……」
「他人の必殺技を見ただけで再現しようとするなんて、やっぱり無茶なんじゃない? ユージ……」
勇者と聖女の違いはあれど、同じ召喚者ということで仲の良いミナ・ミツルギがあきれたように言う。
「なかなか良さそうな技だったから俺の技に加えようと思ったけど、こいつはあのクラストが持っていた長剣がなければうまくできないみたいだな……盗んでくるか?」
「うわ、悪党」
「でもあの武器、一回あの必殺技を使ったらかなりの量の魔石を消耗するみたいだから、かなりお金がないと何回も使えないみたいよ?」
同じ召喚者ではあるが、他者とあまり関わり合いたくないと思っているチサメ・オータムマウンテンは少し離れた位置でそういった。
「それよりも、あの忍者の技は再現できないの? もし、あの忍者とあたることになったらどうするの?」
「う~~ん、あの高速剣技、か……厄介だな。ただ、攻略法がないわけじゃない」
「――例えば?」
ユージは少し考えるポーズを取り、答える――
「全身鉄鉄塊化、バリア、または、相手の乱気流に対して逆方向の風を使う――とかかな?」
イメージトレーニングでもしているのだろう。ユージの顔に笑みが浮かんでくる。
「バッカじゃないの? あんた、さっきの戦いで気がついていなかった?」
「――? 何のことだ、チサメ?」
チサメは持っていたマジカルネットワークの端末をしまいながら言う。
「あの忍者、確か金色の龍を出したとき、五遁の一つ金遁って言っていたでしょ? 五遁っていうのは、火遁、水遁、木遁、金遁そして土遁の五つの事――そしてあの忍者は金遁しか使っていない!」
「――それって、どういう事……?」
ミナがチサメの言う事が分からないという顔で質問をする――
「つまり、あの忍者他にも技を隠していたの!! でも、私のマジカルネットワークでも、それがどんな技なのか検索できなかった――多分あの忍者、私たちが知っている日本とは違う別世界の日本の出身者なんでしょうけど、能力の大半が分からないっていうのは結構ヤバイことなんだよ!!」
「ふぇ~~、強敵勇者クラストに対し、力を隠したまま勝利するなんて、やるね! 忍者皇君広!」
「確かに、優勝は俺に決まっているが、能力が分からなくて苦戦する、っていう展開は避けたいな――何かわかることあるのか?」
「次の戦いであの忍者と当たらないことを願っておくべきね。次の戦いで相手の情報が集まれば勝率は上がるわ。まあ、魔法使いが相手なら私は負ける気は無いけどね――」
チサメのマジカルネットワークは、魔法に関する事なら何でもわかる。
「チサメちゃんの能力って羨ましい。ねえ、私にその能力くれないかなぁ?」
「ダメに決まってるでしょ!!」
ミナの懇願を、チサメはばっさり切り捨てた。
住んでいた世界から、全く知らない世界へ召喚された経験を持つ三人――それぞれ違った世界で、違った能力を振るいながら戦ってきた。
だからこそ、それぞれの苦労が分かる――それぞれの苦悩も理解できる――
別々の世界に召喚されていた三人だが、何時の間にか仲良くなっていた。
……実はチサメは内心嫌々だったというのはナイショではあるが……
そんな、召喚組三人の所へ一人の少女が近づいてきた――
――白倉梓――
召喚組と同じ黒髪黒目の日本人だが、まるでコスプレのように変わった異世界の格好をしている召喚組と違って日本の服飾店――○I○Iとか――で売っているようなごく普通のカジュアルな格好した少女だ――
もちろん、彼女もこのチート1武道会の出場選手の一人である。
「――何か用ですか?」
近づいてくる梓に気づいたミナが、声をかける。
梓は召喚組の一人一人に顔を向け、そしておもむろに手を動かして喉に当てると……
「ワレワレハニホンジンダ」
喉を軽く叩きながら、そう言った。
「は?」
「何?」
「……」
三者三様の反応を見せる召喚者組――
「キミタチニキキタイコトガアル」
「……私たちも日本人なんで日本語、ちゃんとわかるわよ?」
ミナがそう言うと、梓は”え”と言う表情をする。
「あ、いや、すまない。アタイは召喚者じゃないんで言語理解の異能を持たないだ。だから、他の異世界出身の連中の言葉はわからなくてね。あんたらには、どうやら言葉が通じるみたいだね」
喉から手を離し、しっかりと召喚組を見据えて――見た目とは違い、ずいぶんとスレた感じの言葉遣いで話を始める梓。
「日本人なのか……そうか、あんたらは召喚者ってやつなのかい? だったら、ちょっと教えてもらいたいことがあるんだよ」
可愛らしい顔だが、目つきが鋭い――本人はすごんでいるつもりらしい――
が、異世界に召喚され、全く日本とは違う環境でバケモノやなんやかやとやりあっているユージ、ミナ、チサメには、何の効果もなかった――
「教えて欲しいことって?」
三人を代表してミナが梓に一歩近づく。
「ああ、あんたらが今いる世界であんたらの他に召喚された日本人っていうのはどれくらい――」
そんな時だった――
『第1回戦第2試合の出場選手が決まりました!! 白倉梓選手とエミリア・トゥ・カッチェ選手!!』
『参加選手のお二人は、会場へお願いします!!』
ファロとアニスのアナウンスが鳴り響いた――
「ああ、もう、タイミングわりい!!」
出場選手に選ばれてしまった梓は召喚組との話もそこそこに会場へ向かって走り出すであった!!
それを召喚組三人は、ポカーンと眺めていた……