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チート1武道会  作者: Zyuka
3/8

第1回戦第1試合-2

 その世界において、女性用下着はまさに芸術品であった――


 その世界で、女性がはく下着としてパンティとブラジャーが作られたのは、今より四十年ほど前――何処かより現れたと言われている女性がそれらを作り上げたと言われている――


 現れた時点ですでに初老の域に達していたと言われていた女性が、召喚者であったか……もしくは転生者であったのかどうかは、今となってはわからない――


 彼女の作り上げた女性用下着は、一流以上の芸術品として評価されることとなった――


 そして彼女亡き後も、様々な人たちが――主に芸術家と呼ばれる人たちが試行錯誤を繰り返していったがため、もはやひとつの文化と呼んでいいほどのものとなっていった――


 やがて、ある風習が生まれる――それは、高位な女性が婚姻相手を選ぶ際、みずからの下着を相手に送るというものだ――


 なぜそんな文化生まれたか……理由として、男性に自分の秘密を差し上げますと言う意味になるらしい――え、? 秘密って何? って?

 それは、お父さんかお母さんに聞いてみよう。


 でもって、勇者のパーティーの僧侶であるパティ――彼女は実はさる王家の子女、つまりは王族の娘である。


 現国王の娘ではなく、王の弟の娘、つまりは姪っ子であるらしい――いずれ他国に嫁ぐか、それとも公爵として貴族家を立ち上げるかはまだ決まっていない――

 もし、貴族家を立ち上げるのであれば、彼女の旦那がまずその地位を得ることになるだろう――


 そして、勇者クラストは当然下心込で、その地位を狙っていた――


 勇者クラストはその世界に転生して十数年――もともとの世界での常識を忘れていたとしてもまあ、仕方がないことだった――



   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ 



 ――選手控え室――


 無論、それぞれに個室を与えられている。そして、個室ではモニターで試合の様子を観覧することができた。


 その気になれば観客席の手前に行って、直に観戦することもできる。


 ゴジットやユージ・トドロキなどの血の気の多い選手は直に観戦しているし、また気のあいそうな他の選手のところに行って一緒に観戦している者もいる――


 魔王ヴェルバーンの所には、旧知の仲である吸血鬼グアがやって来ていた。


「……ヴェルバーン。もしお前と俺が戦うことになったならば、お前のパンティをかける気はないか?」

「……本気で言ってるのグア?」

「俺はいつでも大真面目だが?」


 ヴェルバーンは半眼でグアをにらむ。が、長の付き合いから、本気だということがわかっていた。


「第一、私とグアが試合で当たる可能性は低いと思うけど?」

「だが、可能性がないとはいえない。しかし、お前は本気で戦わないかもしれない――ならば賭けをしよう――お前も、自分のパンティが奪われるかもしれないとわかれば、本気を出すだろう」


 グアはいかにもおかしそうに、クックックと笑う――


「じゃあ、あなたのほうは賭けの景品として何をくれるわけ? いっとくけどあなたの何百年も使い古したパンツなんてほしくもなんともないけど……そうね、あなたの配下の吸血鬼、ベル・クラシカルちゃんを……」

「ベルのパンティか!?」

「ちっがーう!! ベル・クラシカルをうちの魔王城にくれって言ってるの!!」

「魔王城って……お前のところは下克上で魔王城を乗っ取られたんじゃなかったっけ?」


「今にとりかえすわよ!!」


 ヴェルバーン、人に好かれるというチートは持ち合わせていなかった。


「で、ベルをくれるの? くれないの?」

「ほう、ベルで、か……いいぜ。お前のパンティと俺の配下ベル……それで賭けは成立だな。お前との戦いが楽しみだ!」


「…………軽いわね。あなたも部下に対して薄情なのかしら? まぁ、いいわ。じゃあ、試合の観戦に集中しましょうか」

 グアの態度に少々呆れつつ、ヴェルバーンはモニターに視線を戻した。



   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ 



「まったく、異世界には変わった習慣もあるものでござるな」


 君広も呆れているようだ。


『で、どうなんですか? パティさん! 勇者クラストにパンティを送るんですか?』

『ノーコメントです!!』


 アニスにマイクを向けながらそう叫ぶパティ――


『あ、私ならクラストにパンティを送ってもいいな――』

 独り言でいったリリーの声を、マイクはバッチリ拾っていた。


「とりあえず、そういうことだ!! さっきは伝説のシルバーアイズゴールデンドラゴンに似たドラゴンを見たことで瞬間的に我を忘れて自己の欲望に走ってしまったが、俺にはこの戦いに優勝しなければいけないという使命がある!!」


 今までの行動は茶番だった!! 本当にそうなのだが、仕切り直しだというようにクラストは君広を指差す!!


「だから俺の剣を返せ!!」


 そういえば、未だにクラストの使っていた装飾過多な長剣は、君広の足の下にあった。


「これでござるか?」


 君広は、腰帯に自らの持っていた忍者刀をさし、足の下にあった長剣を軽く蹴り上げるとパシッと両手で掴み取る――


「え?」


『嘘!? あの長剣に使われている宝石の一部には所有者限定の魔法がかかっていて勇者クラスト以外使えないはずよ!?』

『私ですら使えないはずなのに! なぜ!?』

『魔王軍に奪われぬよう、魔法省が開発した魔法がかかっているはず……』


 勇者パーティーの三人娘も驚いている。


『丁寧な解説ありがとうございます』


 アニスはクラストは何かをするたびに三人娘に聞けばいいと思い、そこを定位置にしている。


「何を言っているでござるか? それは異世界での話でござろう? 日本人である拙者には、異世界のルールなど何の意味もござらぬ!!」


 ブオオオオオン!!


 君広は、長剣を勢いよく振り回す!!


「この程よい重量……! 異世界の武器というのもなかなかいいものかもしれぬでござるな!!」


 そのまま君広はクラストの長剣をかまえると、クラストに向かって走り出す!!


「くっ!! マジカルソード!!」


 ヴォン!!


 キイイイイイン!!


 君広の物つ長剣と、クラストの生み出した魔法の剣が交錯する――!!


「――借刀殺人――これも戦術のひとつでござる!!」


 君広の顔下半分は覆面に覆われていて見えないが笑っているようだ!


「――――剣よ! 俺の魔力よ!!」


 ヴォン……


「――!?」


 クラストの魔力で作られた剣が、君広の持つ長剣に浸透してゆく……




『パンティさん! あれは一体何が起こっているのかわかりますか!?』

『私はパティよ!! あれは……クラストと剣の魔力が呼応……!?』


 アニスは三人娘にマイクを向けている。


『クラストの長剣に埋め込まれている魔法石を消費することによって発動させる彼の必殺技――それの前段階!!』


『必殺技!? それは楽しみですね!!』


『何言っているの!? 本来は魔王級くらいの強敵ように習得した必殺技なのよ! それをこんな大会で、それも人間相手に使うなんて……!!』


『しかも、一度使うとかなりの量の魔法石を失うから、お金がむちゃくちゃかかるのよ……!!』


 それぞれの反応がマイクを通して会場内に広がっていく――




「俺の剣よ! 俺の魔力よ! 俺と共に今ここに敵を撃つ!!」


 パリン! パリン! パリン!


「――っ!?」


 装飾のためと思われていた長剣に付いている宝石がパリパリと割れていく、そして長剣が光り輝く――!!


「クッ――!!」


 君広は慌てて長剣から手を離してしまう、すかさず長剣を奪い取るクラスト!!


「喰らえ――グラビエンドスラッシュ――!!」


 シュイン――ズガガガガン!!


 長剣と一体化し、光をまとったクラストが、凄まじい勢いで君広を吹き飛ばす――――!!


 それは、ごく普通の振り下ろしだった。シンプルな動作が勇者の魔力と剣の魔力を纏い、必殺の一撃となる!!



   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ 



 ―――――検索終了・ワード『グラビエンドスラッシュ』―――――


 魔法剣技の集大成の一角とも言われている大技――

 本人の持つ魔力と、剣に込められている魔力を同時解放し、全属性を持って相手を打ち砕く極限剣技――

 対処法は………


「クス……これなら問題なさそうね……」


 試合を観戦していたチサメ・オータムマウンテンは、満足気にマジカルネットワークを終了する――どんな強力な魔法の技でも、彼女の持つ能力の前にはあっさりと丸裸だ。


「勇者クラスト、その名の通りかなりの実力を持っているみたいだけど、あまりにも手の内を見せすぎ……まぁ、相手が強敵だったってのもあるでしょうけどんね……もし、次の相手が私なら、簡単に勝てるでしょう――」


 魔女と呼ばれし少女……人に見られているときは仏頂面や無表情で過ごすことが多いが、人は見ていないときには笑顔を見せることもある。偶然見たことがある人によると、その笑顔は天使の微笑み近いと言われている――


「うん……?」


 だが彼女の笑みはすぐに消えてしまう。試合がまだ終わっていなかったからだ。



   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ 



『君広選手、ギブアップ?』


 ファロが、クラストの必殺技を受け、倒れた君広に駆け寄りそう聞く――


 君広は着ていた黒装束を赤く血に染めてはいる。


「ま、まだまだでござるよ……この程度では皇賀忍軍に敗北はない……クッ……」


 たまたま吹き飛ばされた場所の近くに落ちていた、忍者刀の鞘を拾い、それを杖がわりに起き上がる君広――その覆面が外れ、精悍な顔が露になる。


『おっと、君の選手がまだ戦えるようです――試合続行!!』


 ファロはそう宣言するが、本当に試合は続けられるのか君広の状態を見ている会場全体の誰もがそう思う――


「やめておけ!! これ以上は無理だ!!」


 クラストはボロボロの君広に向かって歩き出す――とりあえず戦闘意思を示す相手に対しポーズをとっておけば審判であるファロが止めるだろう――これはゲームだ殺し合いじゃない――そう思いながら……


「――」


 君広はそれで最後の抵抗でもするのか、刀の鞘をクラストに向ける。

 左手は、腰に刺した忍者刀に触れているが、かなり弱々しい――


「どうしても、とどめを刺せと言うのか?」


 クラストは長剣をかまえながら君広に近づく――と――


 プシュー!


『へ?』


 突如、君広の持つ鞘から淡い色の煙が吹き出し、クラストに吹きかかる!!


「油断大敵でござる――忍者刀の鞘には様々な仕掛けがあるのでござるよ……」


 君広は、背筋を伸ばして立ち上がる――弱々しく見せていたのは、演技だと言わんばかりに!!


「な? ゲホゲホゲホ!! ……これは!!」


 グラァ――ッ!


「!!!???」


 煙を吸い込んでしまったクラストは、自分の体に異変を感じる!!

 グラグラと揺れて立っていられない――急激に目の前が暗くなり、体に力が入らなくなる!!


「―――――これは、毒か!? く、く、リフレッシュ!!」


 素早く判断し解毒の魔法を自分にかけるクラスト――だが、


「残念でござるな。これは毒ではござらん。薬でござる」


 クラストには見えてはいないが、君広は腰にあった忍者刀の柄と鞘を紐で結びつけ武器の長さを変化させる。


「拙者は、忍者でありそして医師でもある――さっき吹きかけた煙は麻酔薬の一種でござる!」


 君広はもうフラフラだろう――そう思い、安易に近づいたのがこのピンチを招いた。反省しなければ、次の戦いにこれを生かさなければ――クラストはそう思う――


 ガチャン、ガチャン、ガチャガチャ、ガチャン!!


 しかし、君広は歩いてくるだけだと言うのに派手な音を立てる――


『君広選手、いったい服の下にどれだけの武器を持っているの!?』


 ファロの声が耳に届く――


『とんでもない数の武器……うっわ、重そう……』


 たくさんの武器を持っていた!? そしてこの、ガチャガチャと言う大きな音は――!? それを、外している……!!


 クラストはあわてて顔を上げるが、視界は薬のせいで暗いまま――!!


「先ほどの剣技、見事でござった――ならば拙者もお見せしよう……」


「何をする気だ・……く、くう……毒であれば、解毒の魔法が効くのに……」


 クラストは口がしびれてものがうまく言えていない……!!


「毒と薬は表裏一体――優れた毒はまた、優れた薬になるし、薬の使い方間違えれば毒と化す――人を殺す事に長けた忍者が、人を生かすことを生業とする医者として生活するのと同じでござる」


 ガチャン!!


 君広のまとっていた衣の下にあるセラミック製合金できた網目の細かい鎖帷子が地面に落ちる――


「――拙者たち皇賀忍軍は戦乱の時代よりそうして生き長らえてきた――医者というものが呪術師や祈祷師と同じようなものだった時代にも、人を殺すための技術や薬学を持ち、それを反転させて生かすために使った皇賀忍軍は重宝されたでござるよ」


 淡々と説明しながらも、何かの準備をしている君広。満身創痍――傷だらけながら、忍者刀以外の武器を全て外した君広は、体の調子を確かめるようにピョンピョンとその場ではねてみる。クラストの必殺技を喰らったダメージを差し引いても、君広の体のスペックは落ちていない!!


「くうう……」


 薬で痺れる体を叱咤激励し、自らを長剣を頼りに立ち上がるクラスト――


 君広はそれを見て、鞘に結ばれた忍者刀をかまえる――


「過去するがよい勇者殿――皇賀流忍術閃技・烈風争覇斬!!」


 キュオン!! ザンザンザン!!


 乱気流――そういう風に表現した方が良いのかもしれない――君広の放った剣技は、まさにそれだった――

 四方八方から繰り出される必殺の連撃――! クラストの必殺技のように魔力を持たないぶん、スピードと数の多さで相手を仕留める!!


「うぐ!!」


 薬で痺れた体に抱き込まれた連続攻撃――それをうけてクラストはついに、白目をむいて倒れてしまった――!!




「きゃあああああ!! クラスト!!」

「まさか、そんなことが!?」

「クラスト……」


 クラストの仲間の三人娘も悲壮な声を上げる。


『あーあ、これは決まってみたいですね』


 その横で、アニスがのんきにいう。





『クラスト選手、ギブアップ?』


 ファロは先ほど君広にいった質問をクラストに向ける――が、クラストからの返事はない――


『これは決まったようね……勝者、皇君広選手!!』



「「「「「おおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」



 観客が歓声を上げる――こうして1回戦第1試合の勝者は君広に決まった――!!




『ラインだよ! ラインだよ!』

「うん? またスタンプでござるか?」


 君広は、スマホを取り出し確認する。


「――なになに、『勝利オメデトウ、さすが忍者きたない』……?」


 そのラインを送ってきたのは君広の許嫁だった。


「きたない、でござるが。まあ勝利がいつもきれいなものだったら、争いなんて起こりはしないでござるよ――」


 そして彼はスマホにメッセージを打ち込んだ――




「ありがとうでござる桃香。優勝したら結婚しようでござる」


『おや、それは死亡フラグですか?』


「ファロ殿、そなたは一言多いでござるな」


 ニヤニヤと笑うファロからスマホを隠し、君広は落ちていた数々の武器を拾いあげる――


『早くしてくださいよ第2試合、はじめますんで』


 ゴーレムを召喚し、気を失っているクラストと彼の長剣を運びながらファロはそういった――

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