第1回戦第1試合-1
『それでは、第1回戦第1試合の出場選手を発表します!!』
『組み合わせは、組み合わせ抽選マシーンによって決定されます――ここだけの話、コレ、幸運系のチートや裏取引とかで結果が左右されことがあります!!』
『アニスちゃん、そういうことは言わなくていいの』
『それでは組み合わせ抽選マシーン起動!!』
テロテロテロテロ…………チ~~ン!
気の抜けるような音とともに、マシーンが二人の選手を選び出す!!
『転生勇者クラスト・デュルクvs忍者皇君広!!』
マシーンにはその二人の名前が表示されている。
『ではでは、そのお二人以外の出場選手は控え室の方へ移動してください!!』
ぞろぞろと、出場選手たちは控室の方へ向かっていく。
「おい!」
「――?」
そんな出場選手たちの中から一人が、ファロたちの方へ歩み寄って来る。
「えっと……セディウス……選手? 何の用でしょうか?」
個人的な話をするような感じだから、マイクのスイッチは切っている。
(……なんだろ? もしかして、告白? そりゃあ私は可愛いし、セディウス選手は今大会屈指のイケメンだし、これってロマンスが生まれる予感? 審判と出場選手のイケナイ恋の始まり……?)
アニスが、頬を赤らめてそんな妄想をする――が、セディウスから出た言葉はそんなタイプの話ではなかった――
「その機械が自由に対戦相手を決められるなら、ぜひとも破壊したいやつがいる! 組み合わせでそいつとやらせてくれ!」
セディウスは静かに言う。その整った容姿を歪ませ、怒気を隠そうともしない――
「……すいません、誰と戦いたいと思っているのかはわかりませんが、始まったばかりでルール破りはご遠慮ください!」
ファロとアニスはセディウスを控え室に押し込む!!
「おいコラ!! あいつらは放っておいて良い奴らじゃない!! 俺にやらせろ!! 完膚無きまでに破壊してやる!!」
チート云々というよりも、本人がめんどくさい人間は遠慮してほしい――
『それでは気を取りなおして第1回戦第1試合の出場選手を紹介します!!』
『元は日本人――だけど、どこの誰だったかまでは覚えてはいない!! 転生した先で新たなる名前――クラストの名前をもらい、そして、新たに得た強大な魔力と強靭な肉体とで、勇者となった!! 転生勇者クラスト・デュルク!! 資料によりますと、もともとはオタクの高校生だったとあります』
「ちょっと!! それオフレコにしもらえないかな!」
ファロの説明に抗議の声を上げるクラスト!
「……せっかく、ミステリアスな雰囲気つくりに成功しているんだから……」
『対するは生粋の日本人!! その源流はなんと飛鳥時代までさかのぼるとかなんとか! 異世界人の私たちにとってはすごいのかどうかよくわからない歴史を持つ忍者集団皇賀忍軍の次期首領、そして皇総合病院の若先生という、真っ当な表の顔をを持つ現代の忍者、皇君広!!』
「丁寧な紹介いたみいるが、拙者これでも表の顔と裏の顔を分けているでござるから、あまり、堂々と宣言しないでほしいでござるよ……」
やれやれといった雰囲気で肩をすくめる君広――
『拙者とござるの侍口調で忍者をアピールしております君広選手!』
『なお、試合の様子は会場8箇所に備え付けられた固定カメラと上空に5台旋回させておりますドローンにて撮影しております――』
静かな高性能モーターを使っているのだろう。5台のドローンは音もなく上空に舞い上がり、決められたプログラム通りに旋回する――舞台で起こる動きを、何一つ残さず録画しようとスタンバイする――
ヒュッ! カンカンカンカンカン!!
『――!?』
突然の風を切る音とともに、ドローンに何かが突き刺さる――!!
『こ、これはクナイ!! 忍者の武器クナイって事は……君広選手!?』
何かが刺さったドローンを側に引き寄せたファロは驚いてそう叫ぶ!!
「ああ、すまぬでござる――幼少の頃からドローンに向けて手裏剣や投げクナイの修練をしていたので、つい条件反射で……」
『これはターゲット・ドローンではないんでそういうことやめてよね!!』
ファロの突っ込みに観客席から苦笑が漏れる。
「……ドローンって、なんだ?」
クラストが空を飛ぶドローンを眺めて聞く。
ドローン ―― マルチコプターの事。操縦士の乗らない無人飛行機。英語の「雄ミツバチ」から転じた言葉。
「飛び道具の的でござるよ」
『マルチコプターのことです!! 自由自在に空を飛んでいるラジコンのようなものだと思ってください! 最近じゃ空中での撮影や、物を運ぶのに使われているんですよ! 断じて飛び道具の的なんかじゃありません! いい加減な事は言わないください!!』
『アニスちゃん、もともとターゲット・ドローンていうのはアメリカ軍で兵士の射撃訓練で使われていたものだからあながち間違っていないんだよ』
『ファロちゃんもそう言う豆知識はいらないから!!』
「ふ~~ん、初めて見る機械だな……こんなの日本に昔からあったっけ?』
クラストは興味深そうにドローンを見る。
『……ターゲット・ドローンはアメリカでそれこそ数十年前から軍の射撃訓練の的として使われていたものよ。ま、一般に普及するようになったのはここ最近かもしれないけど』
「そうか、日本の近くに来るのも十数年ぶりだからな、最近のものはよくわからない――」
クラストは見た目、十代後半――もし、異世界の時間が現実と同じで、クラストに生まれ変わる時の時間が一瞬だったとしても、彼が日本にいた時代は二十世紀末ということになる――
「ノストラダムスの大予言では、世界が滅びていたはずなんだけどな――……」
『はいはい、転生者の長くなりそうな話はとりあえず放っておきましょう! それでは試合開始です!!』
ドォ~~ン!!
銅鑼の音が鳴り響き、クラストは派手な装飾が施された長剣を抜き、かまえる!!
それに合わせて、君広は短い忍者刀を抜くと鞘を背後に投げ捨てた!!
「皇君広――敗れたり!!」
『おおっと、勇者クラスト、いきなりの勝利宣言!!』
「は? なぜでござる?」
「鞘を投げ捨てるという事は、勝って再び剣を鞘に戻すということがないと言うことだ!!」
ビシッ!! と、長剣を君広に突きつけそう叫ぶクラスト!!
「きゃ~~~~!! ク・ラ・ス・ト!! 決まったわ!!」
「クラストのいつもの勝利宣言!! 頑張ってぇ!!」
「勇者なら、必勝は当たり前だ! 勝利を見せてくれ!」
クラストの堂の入った姿に、観客席から黄色い声が上がる――特に最前列にいる三人の少女たちからの声が大きい――!
「……悪いござるが、勝って刀を鞘に戻すなんて事はほぼ無理な話でござるよ」
ぼそっと、君広は言う。
「人間の骨はかなり硬く、それに対して斬撃を加えようものなら、間違いなく刀は欠ける、もしくは曲がる――最悪折れる――そんなことになろうものなら鞘に戻す事はまずできないでござる」
が、誰も聞いていない――
「ありがとう!! 我がうるわしの乙女たち!! 勝利の栄光を君たちに!!」
最前列で、クラストに声援を送っている少女たちに向けて、どこからともなく取り出した一輪の花を投げて答える!!
「「「きゃ~~~!!」」」
三人の少女たちはその花をめぐってほんの少しばかり争いを起こしてしまう!
「おや、もしかしてあそこにいるのはそなたの恋人たちでござるか? 三人もいるとは豪気なことでござるな」
シュッ!
そのスキを突き、君広は瞬間的にクラストとの間合いを詰め、刀を振るう!!
「いや違う! 彼女達は俺の旅の仲間たちだ!! 僧侶のパティに剣士のリズ、そして魔法使いのリリー!! みんな俺の大切なパートナー!! この大会にも応援に駆けつけてくれた!!」
キン!
君広の刃を、長剣ではじきかえす!!
「羨ましいでござるな、なぜか拙者の許嫁は全く応援に来てくれないござる――せっかくさっきラインで試合開始、応援よろしくとメッセージ送ったのに……」
キンキン!! ザシュ!!
二撃、三撃と、連続してクラストに攻撃を加える君広!!
「ライン? なんだそれ!?」
カカカッ!
君広の連続攻撃を長剣で防御し、攻撃の隙を伺うクラスト!!
「返って来たのはこのフレーフレーってやっているスタンプ一個でござる」
カキン!!
左手で、スタンプが表示されたスマホをクラストに見せながら痛烈な一撃を放つ君広!!
「メール? じゃないよな、しかし変わった形の携帯電話だな……」
ドゴ!!
剣撃の隙をついて、打撃を叩き込むクラスト、だが左足でガードされしまう!!
「ラインというのはスマホのアプリでござる」
ザシュ!!
「―――っく!!」
ガランガラン……
一段階早く動いた君広の刀がクラストの右手の甲に、十字の傷をつける――!! その痛みに耐えかねて長剣を落としてしまうクラスト!!
ダンッ!!
「まあ、返ってきたのがスタンプ一個とは言え、既読スルーみたいな悲しいことをされるよりはマシでござるな」
クラストが落とした長剣を左足で踏みつけ封じ込める君広!!
『なぜか、世間話をしているかのような雰囲気の中で、ハイレベルな攻防が繰り広げられていました!! 勇者vs忍者!! だが、剣を失った勇者の方が不利となったか!?』
攻防が止まったと見て、アナウンスを入れるアニス!!
『アニスちゃん、静かに――! クラスト選手が何かをしてるよ――!!』
「癒しの光よ――ヒーリング!」
ホワッ……
クラストの手の傷が消える――
「魔法、でござるか……」
「ああ、俺はまだ、負けるわけにはいかないんだ……!!」
そう言ってクラストは複雑な印を両手で形作る――!!
「あれは……まさか勇者の魔法!?」
「クラスト様……相手を殺す気!?」
「勇者の稲妻魔法、いつ見ても素晴らしい……」
観客席で、勇者クラストの仲間の三人娘が思い思いのことを口に出す――
「稲妻よ!! 俺の声に応えて顕現しやがれ!! サンダー!!」
ゴロゴロゴロ!! ピッシャ~~~~ン!!
クラストの呼び出した雷雲から放たれた稲妻よる攻撃が、会場を一瞬にして白く染めあげた!!
『クラスト選手の攻撃魔法が炸裂!! 果たして!!』
どこからともなく取り出したサングラスで目を守ったファロが君広の方を見て叫ぶ!!
「もったいぶっていたわりには、サンダーってごく普通の魔法だな……」
「本当に勇者の魔法?」
「サンダーぐらいだったらわらわにも使えるでありんす」
観客席からそういった声が上がる――
「ちょっと! 何言ってるんですか!? サンダーの魔法は勇者クラスト以外使うことができない魔法なんですよ!!」
そう叫んだのは、勇者クラストの仲間――確か魔法使いのリリーとか言う少女だ。
『それはどういうことでしょうか? リリーさん、説明をお願いします!』
アニスが、凄まじい勢いでリリーたちのそばまで移動し、マイクを突きつける。
『え? ええ~~っと……魔法っていうのは……ああ、私達の世界での話なんだけど、自らの魔力とイメージを持って自然現象を再現するものって、言われているの……』
マイクを通した自分の声が会場全体に響き渡るのに驚きを隠せない様子で、恐る恐るしゃべりだすリリー――
『そのため、魔法の習得には実際にその自然現象を体験してイメージを確固たるものにする必要があるの――例えば、何かが燃え盛る様子をつぶさに観察してその熱を感じ取りファイヤーの魔法を習得する、雨の中にじっと佇みレインの魔法を習得する、風や雪や光を存分に浴びてウィンドウ、スノウ、フラッシュなどの魔法を習得する――』
『あれ? ヒーリングなどの回復魔法はどうやって習得するんですか?』
先ほど勇者クラストが使用した魔法の中に、回復魔法のヒーリングあったことを見たアニスはその疑問を口にする。
『ヒーリングは、自らの体に傷をつけそれが治る様子をじっと観察すると言う必要があるの……マゾなパティならいざ知らず、私では無理だったわ』
『ちょっとリリー、それって私が変態だって言いたいの!?』
『でも稲妻の魔法だけは違う――』
抗議の声を上げたパティを無視して、リリーは話を続ける。
『溶岩魔法のボルケーノなんかもそうだけど、高等な魔法の習得には、命の危険が伴う……なのに、勇者クラストはやすやすとそれを習得してみせた――そして最強の自然現象であり、何人たりとも修得不可能とまで言われていた稲妻の魔法を……瞬間的に大木をなぎ倒し人々の命を奪う光の魔法さえも、習得してみせた――』
『なるほど、前世が日本人なら自然現象のメカニズムくらい知っていて当然という訳ね。異世界人にはわからない、火山の爆発や稲妻の発生条件を知ってるからこそその魔法が使える――』
ファロはウンウンとうなずく。
「そういうことでござるか」
「「「「「ええええええええええ!?」」」」」
やっと見えてきたステージ上に、会場全体がどよめく――!!
『―――あれは……!?』
君広は普通に立っていた――いや、一匹の金色に輝く龍に守られている、と言うべきか……!?
「――皇賀流忍術五遁ヶ一ッ――金遁・金龍図――! 悪いでござるが、魔法には最大限の警戒をさせてもらったでござる……」
金色の龍はかすかに透けていて、中に君広の姿が見える――
クラストは呆然とそれを見ている――
「金色の龍、まさか、呼び出した人間の願いを叶えるといわれている――伝説のシルバーアイズゴールデンドラゴンなのか!?」
なぜか自分の住んでいる世界の伝説をブツブツと言い出すクラスト――
『いや、違うでしょ!』
ファロは冷静に突っ込みを入れる。が、クラストは聞いていない……
「この瞬間を待っていた。俺は勇者クラスト!! シルバーアイズゴールデンドラゴンよ!! お前に叶えてもらいたい願いがある!!」
クラストは君広を無視し、声高らかに叫ぶ!!
「パティのパンティお~~くれ!!」
――――――――――!?
会場が一瞬静寂につつまれる――
「「「「「「「「「「はっ!?」」」」」」」」」」
次の瞬間、観客含む全員の口から突っ込みの声が上がる――
「一体全体何を言っているでござるか?」
金色の龍の中にいる君広さえ、そういう。
『すいません、クラスト選手は何を言ってるかわかりますか?』
『……私たちに聞いているんですか?』
再びアニスからマイクを向けられる三人娘。その中で当事者のパティ……
マイクを向けられているパティは、ゆっくりと口を開いた――