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夜に恋する男

作者: こーか
掲載日:2015/08/17

軽快な足音を立てて軽々と乱立しているビルの屋上や突き出た場所を走り回る。助走を付けて空に身を投げ出してくるりと一回転。そして着地地点の薄汚いクッションに出来るだけ痛みの無いよう落下する。そしてまたクッションから飛び出して地を蹴って垂直に飛ぶと腕に付けられたワイヤーの発車装置を起動して目の前のビルに上がろうと楔を発射し、勢いよく巻き取る。ワイヤーに引っ張られて高いビルの屋上に足をつけた俺は眼下を見下ろし荷物を担ぎ直す。

現在時刻、23:55。シグマポリス、中間層のひときわ高いビルの上。街の中央にはこの街のインフラを一手に担う高い高い天まで届くきらびやかな白の塔。下にはビルの光が夜を彩り、ちかちかと鮮やかな星々を生み出す。

眠らぬ街、シグマポリス

そんな街で俺は運び屋をやっている。


「よう」

「おお、久しぶりだな」


翌朝、一仕事終えて行き付けのバーに行くと見知った顔があった。そいつはデカイ体を所為なさげに丸めながらちびちびとテキーラを飲んでいる。酒を飲んでるところから察するに今日の仕事はないのだろう。少し顔が赤らんでいる。俺もそいつの隣に座ってジンを一つ頼んだ。


「お前は今日は仕事なしか?」

「まあな、昨日夜に仕事してたし」

「あー、やっぱり。夜に動き回るなんてお前と闇稼業の奴らぐらいだぞ?」

「良く混同されるが()()俺はただのしがない運び屋だっつーの。まったく・・・」

「あんまり説得力がないぞ。運び屋の中で武装してるのはお前だけだしそもそもあんな重たい物持って他の奴ら以上に動ける運び屋なんていねーよ」

「うっせー、自衛手段だ自衛手段。やられたらやり返すのが俺の主義だからな!」


肩を竦めた奴はテキーラを飲んで笑う。俺は憮然とした顔でそれに顔を背けてマスターにチップを渡した。腰から愛銃のレイと愛刀の刻夜を引き抜いて器用にくるくると回せばちらほらといるバーの客からまばらな拍手をもらう。そして隣の奴は顔をしかめた。


「だからそれどっから出てきてんだ」

「俺の腰布の中から」

「質量はどこにいってんだよ。明らかにおかしいだろうが。」

「企業秘密☆」


ウインク付きでシーッと言うと大袈裟なため息をついて奴はテキーラを飲み干した。それを横目に俺は取り出した愛銃と愛刀を腰布に仕舞う。もちろんこの腰布も普通の運び屋にはありえない。何かに引っ掻けたりすれば危ないからな。似たようなピッチリした服装の多い運び屋の中でこの腰布は半ば俺のトレードマークと化している。


「それに、俺が腰布を引っ掻けるなんてヘマしねーし?」

「その自信はどっからくるんだ・・・」


俺が座ると奴の視線が腰布の裏側に向けられる。きっと大量の弾薬でも見えたんだろう。小さくうわっと言うと苦い顔をした。そりゃあこんだけの弾薬はかなり重たいからな。


「ってかなんで夜に動くんだよ」

「・・・夜はいい」

「は?」

「昼間のごちゃごちゃした喧騒とは違って静かで、だけど確かにそこにある会話。騒音のようでない、話し声。夜の街の光も実にいい。まるで宝石みたいだ。俺は綺麗なものが大好きだからな。・・・うん、何度夜に動いても。夜の空気は心地いい」


カウンターに両肘を付いて恋をするようにほっと息を吐く俺をなんだかどん引きした目で見る奴。俺の目にはきっと夜の宝石が映っていることだろう。連日配達していて今日は休もうと思っていたのだが夜に仕事もなしに出歩くのもいいかもしれない。夜を走り回る爽快感もいいがゆっくりのんびり歩くあの穏やかな時間も実にいい。

うふふ、と笑う俺はジンを飲み干した。


「俺は夜は嫌いだな」

「足元が見えないから、だろ?」

「ああ」

「しょうがない。それも夜の魅力だが」


奴は呆れたようにカウンターから離れてバーの扉を開けた。後ろ手にはらりと手を振り離れて行く姿を見送って、俺もジンの会計を支払う。


まだ明るい日の下。普通に地面を歩いて目的地まで歩く。上から見下げる街は美しいが下から見上げるビル群は実に壮観だ。人混みが激しくてのんびりと立ち止まっては居られないものの、上を見上げながら歩けば気分がいい。

俺はスリの腕をねじ折りながらお金を死守してとある店の前に立つ。看板は斜めで扉はボロボロ、こんなところで店がやれるのか、というかそもそも店をしようとする者がいるのか疑問なほどのボロボロさだが中には凄腕の技術者がいることを俺は知っている。立て付けの悪い扉を無理やりこじ開けると中には本に埋もれた女性が倒れていた。


「あっ、リーくん助けてー」

「はぁ・・・」


間延びした声でメガネをずらした女性はこっちに助けを求める。それにまたか、と思いながら上の本を除去すると作業着姿の女性が立ち上がり、俺に礼を言う。


「えへへーありがとー」

「おう」


女性がそのまま手を差し出すのに俺は愛銃たちを乗っける。かなりの重量の俺の相棒たちを両手いっぱいに抱き締めた彼女は微笑みながら銃に頬を擦り付けていた。俺は刀と布を取り出す。


「ああん!私の可愛い子供たち!綺麗にしてあげるから待っててね!!」

「店番は俺がやっとくから。奥で手入れ頼む」

「おっけー!任せて」


上機嫌に奥に引っ込もうとする彼女を尻目に本を元の位置に片付けようとしてふと気づく。・・・ああ、まだ言ってなかったな。


「忘れてた。ただいま、セレーネ」

「・・・おかえり、リース」

リース

夜に働く運び屋さん。黒い腰布がトレードマークの凄腕。日中はセレーネのガンショップで寝てたり働いて、夜に仕事をしている。実は生活力皆無のセレーネの代わりに家事を引き受ける主夫。セレーネと同居中。


セレーネ

ガンショップ兼家のオーナー。手先が器用でどんな銃器も彼女の手にかかればピッカピカの新品になるがどういうわけか料理や家事全般が物凄く苦手。リースが来て凄く助かっている。銃に対する行きすぎた情熱は顧客もどん引きレベル。

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