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桜の木 ~季節外れの小さな奇跡~

作者: つくよみ

あるところに大きな大きな桜の木がありました。


100年余り、桜の木は大木となり同じ場所に立ち続けています。


回りはガラッと様変わりして、ここ30年は大きな病院の中庭で病室を眺めるように立っていました。


桜の木はいろんな病気の人を見つめてきましたが、今とても気になる病室がありました。

いつも病室から儚げな瞳でじっと桜の木を見ている女の子です。


おかっぱで透けるように白い肌をしている女の子でした


余りお見舞いの人は来ないようでしたが、いつもおかあさんらしき人がいました。


おかあさんらしき人は、ドアを出て左の突き当たりにある外階段のところでよく泣いているようでした。


きっと良くない病気なんだろうなと桜の木は思いました


ある日、病室を眺めるいると、女の子がいませんでした


何かあったのかな?と心配していると


『わぁー、おっきいなー』


下から女の子の声がしました。


よくみると、おかっぱのあの女の子でした。


《どうしたの?何かあったの?》


桜の木が聞くと、もちろん女の子には聞こえませんが、まるで聞こえていたかのように


『あたし、どうなっちゃうんだろう・・・』


と答えます。


『桜の木さんはいいね!こんなに立派で堂々としてて綺麗な花を咲かせられて』


女の子は両手で幹を抱き締めながら言いました。


『あたしはれいっていうの。桜の木さんにも名前あるのかな?あったら面白いのに・・・』


桜の木は


《・・・残念ながら名前はないな・・・》


と残念そうに答えます。なんだかほんとに会話をしているみたいで桜の木は楽しくなりました。でも・・・


『あたしの病気はまだ誰もかかった事がないからどうやって治療したらいいのかわかんないんだって』


れいは悲しそうに呟きました。


そして夢があることや、やってみたいことや、行ってみたいところがあることを話してくれました。



それから暫くは暑い日も続きましたが大きな桜の木が作る日陰が調度、暑すぎる日差しの目隠しになっていたのでれいはよく来ていました。


立ったまま大きく両手を広げて桜の木に抱きついてたり座って寄りかかって本を読んだり、得意の絵を描いたり話したり・・・・・・。


話したりと言っても、レイがただ一人で桜の木に向かって独り言を言ってるようなものでした。


それでも桜の木にとっては、とっても心地の良い時間でした。


そして桜の木はとっても嬉しく思いました。

今まで話しかけてくれるのは鳥くらいだったからです。



けれど、ある日を境にれいは来なくなってしまいました


というよりこれなくなってしまったのです。


『・・・あたしほんとにもうダメなのかな・・・』


・・・・・・・・・・・・あの言葉を最後に。


病室にはいっぱいの機械があって、れいはもうずっと寝たきりでした。


桜の木は、側に行って励ましてあげたいと思いました。頑張れって言ってあげたいと思いました。


桜の木は毎日神様にお願いしました。どうかれいを助けて下さいと・・・。


れいが助かるならなんでもするからと 毎日毎日・・・ 祈りました。


季節は、れいと出会った夏の終わりからもう冬間近で冷たい風が吹く季節に変わっていました。


するとある嵐の夜、突然神様の声が聞こえてきて『お前の願いを叶えてやるだが二度と桜の木として立つことは出来なくなる。それでもいいか?』と言われました。


『ほんとに叶えてくれるんですか?ほんとだったら、いいです。立てなくても構いません』


『そうか。わかった。では1日だけあげるから、彼女に別れを告げて来るといい。』


そう言って神様の声は聞こえなくなりました。


『えっ。だって別れをったって、どうすれば・・・・・・』


すると不思議なことに、桜の木はみるみるうちに、人間にの姿になって木の側に立っていました。


『神様、ありがとうございます』空に向かって一礼すると、桜の木は病室へ急ぎました。


病院は消灯の時間を過ぎていて真っ暗で静まり返っていました。病室の前に立つと機械の音がやけに響いて聞こえます。


ドアを静かに開けて、桜の木はベッドの脇に立ちましたれいは寝ていました。いっぱいの管が繋がれていて苦しそうです。


桜の木は手を握って『れい頑張って。あとちょっとで楽になるはずだから。あのこういうの苦手だから上手く言えないけど、話しかけてくれてほんと嬉しかったよ。れいはわからなかったと思うけど、僕ら会話してたんだよちゃんと・・・・・・』

苦しんでるれいを見てると、なんだか桜の木の心臓も痛くなって、話すのも辛くなりました・・・。


すると『・・・だ・・・れ?おかあさん?』れいが力ない声で答えました。


桜の木はぎゅっと握る手に力を込めて『・・・桜の木だよ』と答えました。


『さくら・・の・・き・?』


『・・・僕は・・・僕は・・・信じられないかもしれないけど、あの君が大好きと言ってくれた桜の木だよ』


れいはちょっと驚いたみたいだったけど、顔を少しだけこっちに向けたんだそうして少し意識が朦朧としたまま


『・・・桜の木さん?フフ・・・。はじめまして』


『はじめまして、れい』


『今はまだ苦しいと思うけど、必ず良くなるはずだから頑張って。そして僕の分まで生きるんだよ。あのとき話してくれたやりたいこと、ちゃんと叶えなきゃだめだよ応援してるからね約束だよ。』


桜の木は、れいの小指と自分の小指とを固く結びました


『・・・う・・・ん。そうできたらいいけど・・・・・・。守れそうに・・・・・・ないよ・・・・・』


時折苦しそうに、申し訳無さそうにれいは答えました。


『絶対良くなるはずだから。大丈夫。話せて良かった。それと明日庭の桜のこと見て欲しいんだ。必ずだよ』


れいは微かに微笑んで頷いてくれました。


『じゃぁ、れい。さようなら』


そうして桜の木は、れいの病室をあとにしました。


ーーーーーーーーーーーーーーーー

次の日。


嵐も去りそれはそれは見事な快晴でした。


冬にしてはあたたかく雲ひとつありません。


すると突然あちこちの病室から感嘆の声が洩れました。


病院の庭にある大きな桜の木に花が溢れていたからです

こんな季節外れに、満開とはいかないまでも、充分花見が出来るくらいに咲き誇っていたのです。


れいもその花を静かに眺めていました


『わぁ・・・凄い、綺麗。ここから見えるあの桜、ホントに大好き・・・・・・』


れいはそういうと静かに目を閉じました。






ーーーその日の夜。


突然稲光のように『バキバキバキ』と耳をつんざくような轟音が轟き、あちらこちらの病室の窓が開いてざわざわと夜の静けさをかきけす中、一際大きな音と共に、花をつけたままの桜の木が見事なほどに綺麗に崩れ落ちて逝きました。


次の日、れいの病室に人が慌ただしく出入りしていました。


『奇跡ですよ。こんなこと信じられません』


医師の話によると、れいの病気が嘘のように回復しているらしいのです。詳しい精密検査と少しの治療は必要だがきっと退院出来るでしょうとのことでした。


れいからも機械が外され、呼吸も楽になり、顔色もかなり良くなりました。


『昨日のあれはなんだったんだろう?確か・・・・・・桜の木って・・・』


・・・・・・・・・・・・あっ・・・・・・・・・・・・


・・・まさかっ・・・・・・


れいは、はっと窓の外に倒れたままの桜の木を見つめ、胸に手をあてました。


そして側で安堵しているおかあさんに、


『お願いがあるんだけど・・・・・・』





それから5ヶ月がたち、ついにれいはすっかり良くなり退院することになりました。


れいは、ほんとうなら今頃満開の花を咲かせてるであろう桜の木があった場所へ向かいます。そこには倒れた後の大きな根だけが残っていました。


業者らしきおじさんがいて、かなり虫にやられていたらしいことを教えてくれました。


れいは、いつのもようにその倒れた後の木の根に寄りかかり、話かけました


『あたしやっと退院することが出来るんだよ。きっと桜の木さんのお陰なんだよね?あの約束絶対守るからねありがとう桜の木さん・・・。ずっと忘れないからね』


手にはあの日最後に桜の木が見せてくれた綺麗な桜の押し花が握られていました。


するとすーーっと春風が吹いて、頬を撫でていきました


『れい、応援してるよ』


桜の木さんの声が聞こえた気がしました。


~Fin~


~桜の花言葉~  


私を忘れないで(フランスの桜の花言葉より)  

想いを託します(河津桜より)



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