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妹の現実・戸隠秋穂の場合 5

「って何言ってんだお前はあああああ」


 悩んでるんじゃなかったのかよ!心配した俺の時間を返せ、この野郎。


「何言ってんのよ、悩んでるわよ!いい、今からテレビの撮影がやってくるの、この家に!」

「はあ?」


 そんな事、一言も聞いてないぞ。何だよ、テレビって。


「情○大陸。今、あの番組に密着取材されてるのよ。それで、今日が自宅でのロケ日だったんだけど…ああ、もう私とした事がすかっり忘れてたわ…」


 情○大陸。アフロ頭なバイオリニストがオープニングをかざるあの番組か。でもたしかあれって、世界的に有名な芸術家とか一流の役者がよく出る番組だろ?今さらながら、芸能人として着実にステップアップをははかっている妹のすごさを目の当たりにした気分だ。しかし…だ。


「いや、まあそれはわかったけど、それと俺が家から消えて欲しいのと、何が関係あるんだ?」


「関係大ありよ!あんたみたいなキモいやつが家族だと知られたら、一大事じゃない。どれだけのイメージダウンになるか…はかりしれないわ……」


 体をわなわなとふるわせ、うつむく妹。


「えっと…それはつまりなんだ…俺が家族だと世間様にバレると…お前の人気が下がると…そう言いたいわけか?」

「えっ?そんなの当たり前じゃない。何を言ってるのよ今さら」


 はい、人格と存在の全否定いただきましたー。もうこんな奴の兄貴でなんかいたくありませーん。


 いや、ていうかさ、芸能人も数多くいれど、こんなギャルゲーヲタな兄を持つアイドルなんて、そうそういないぜ?どうせアイドルのファンなんてみんなキモヲタなんだろ?むしろ俺みたいな存在に理解をしめせば、それだけ人気出ると思うよ。結論、お前はもっと兄に優しくなるべき。


 しかし、そんな考えなど一切聞く耳持たず、秋穂は俺の部屋を勝手にあさり始め、上着と財布を取り出し、放り投げる。


「ほら、これ持ってさっさと消える!」

「はあ?嫌だよ!なんでせっかくの休日なのに!」

「いいから!言う事聞きなさい!」


 まるで理不尽な母親である。妹は強引に俺の腕を取った。


「ちょ、お前何すんだ」


 抵抗する声など一切聞かず、秋穂は俺の手をぐいぐいとひっぱり、結局俺は無理やり部屋から引きづり出されてしまった。ずんずんずん。廊下を引きづられるように運ばれる。おいおい、こいつ本気で追い出す気かよ。


「おいやめろ!」

「え?何?何か言った?」

「だから、引きづるの止めろよこのバカ」

「え?すみません、よく聞こえないんですが!」


 なんで敬語!もはや他人のつもりかよ!廊下を引きづりつつ、俺の抵抗に対し、あくまでシラをきる妹。


「この距離で聞こえねえわけねえだろ!」

「もしもし~。すみません、ちょっとお電話遠いようなんですけどー」

「電話越しじゃねえ!勝手に二人の距離を遠くすんな!ていうか!人の話を聞け」

「すみませーん、ちょっと心の電波が悪いみたいなんで、声がきこえませーん」

「……」


 やる気も抑揚もない妹の声。今まさに家を追い出されようとする兄の存在は、どうやらこの妹にとっては圏外らしい。


 結局、玄関まで無理やりつれてこられた。さあ早く出ていけとせっつかれる。しかし、このまま黙って家を出られるはずもなく、廊下での口論が玄関へと場所を移しただけであった。

 言い争い開始から、すでに10分が経過しようとしていた。


「だから、早く出て行きなさいよ!」

「ふん、絶対に嫌だ!誰が出ていくかよバーカ」


 涙ながらに土下座でもして頼んだら、仕事のためとわりきって協力してやらんこともなかったが…。こんな強制送還みたいなマネ、誰が従えるか。いくら日頃、姉や妹に奴隷のごとく扱われていようと、俺だって人間だ。この家の住人なのだ。俺にだってプライドがある。いつも都合よく従うと思ったら、大間違いなんだよ!


「ああ!あんたと言い争ってる間に、もうこんな時間じゃない!」

 携帯のディスプレイで時間を確認し、青ざめる秋穂。ぬはは、もっとあせろ。どうしようどうしようとあわてふためけ!まあ、いくらあせっても苦しんでも、無駄だけどな。だって俺、何があってもここからどかねえし。


「…どうしても、出ていく気ないのね…」

「ああ、絶対に出て行かねえ」


 はい、そう決めましたから。すると妹は嘆息し、「わかったわ」とぽつりとつぶやき、速足で自分の部屋へと帰って行ったのだった。


「おっ、これは」

 やっとあきらめたか。俺のねばり勝ち。ふん、やっとわかったかバカ妹よ。お兄ちゃんにだってなあ、プライドがあるんだよ。妹に理不尽に出ていけなんて言われて、はいそうですかと易々と従ってたまるかってんだ。まっ、今日のところは、せめておとなしくテレビの撮影体の人と接してやろう。なーに、簡単だ。「お兄さんですか?」と声をかけられても、完全にシカトしてハアハア言いながらギャルゲーやっててやるよ。ああ、妹の仕事を邪魔しないため、一人ゲームに興じるなんて、なんて良い兄貴なんだろ、俺。あいつ、うれしくてうれしくて、きっとぼろぼろ泣きながら俺を恨むんだろうなあ、ああたまんねえ。

 よし、善は急げ。テレビの撮影にどうしても映るよう、ギャルゲーコレクションとゲーム機を部屋からリビングに移動せねば。

 そう考え動こうとした時、敗走したと思っていた妹が自室から飛び出し、戻ってきた。しかも、その手に財布をにぎりしめて。えっと…もしかして秋穂ちゃん?何かすごいこと考えてない?


妹編のオチはまた明日!

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