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妹の現実・戸隠秋穂の場合 2

 軽くウエーブのかかった茶色の髪に、ぱっちり二重の大きな瞳。そして、中学生に似つかわしくない、実にけしからんナイスバディー。有名青年誌にも度々登場する、いわゆる人気グラビヤアイドルだ。雑誌で微笑む妹の姿は、どこかまだ幼さの残る表情で、実の兄たる俺が言うのもなんだが、とてもかわいい。しかしあいにく、この家でその表情が俺に向けられたことはない。まったくの皆無であった。


 なぜかって?答えは簡単だ。こいつは俺のことを毛嫌いしているからだ。先ほど受けたキモいという罵声など、最早日常の挨拶みたいなもの。外人でいうところのワッツアップ、お相撲さんでいうところのごっちゃんです。そんな感じです。

 姉の春香よろしく、妹の俺に対する態度も熾烈極まりない。そんな趣味が「兄を罵倒する事」である妹を俺が愛せることは当然なく、自然と会話もぶっきらぼうになる。

「何かようか、秋穂」

 抑揚のない、マジムリ2000%で妹にたずねる。

「何かようじゃないわよ。というか、あんたに用なんかあるわけないでしょ。壁からドンと音がして、いきなりあんたの気持ち悪い声が部屋まで聞こえてきたから、キモイって言いにきただけよ」

「ああ……はいはい……」


 俺と秋穂の部屋は隣同士で、壁も薄い。どうやら俺がさっき投げたコントローラーが、思いのほかうるさく響いたようだった。一応こっちが悪かったわけか。


 ドアの前で腕組み仁王立ちスタイルで睨んでくる妹に、俺は軽く手をあわせ謝った。


「ああ、わりい、ちょっとゲームでアツくなった」

「どうせゲームって…」


 腕組みを維持したまま、視線だけをテレビ画面へとやる。そこには、今まさに新しい顔を焼きあげたアリアちゃんが、うれしそうに笑っていた。妹が、ため息まじりにがっくりと首を落とす。

「やっぱりギャルゲーなわけね…」

「やっぱりて何だ、やっぱりって!俺なんか全然やってないほうだぞ!」

「あれのどこが全然なのよ!」

 部屋の隅、積まれた美少女ゲームのパッケージを指さす。

「あんなにあるじゃないのよ!」

「あれだけしかないじゃないか!」

 二人の絶叫が同時に響く。どうやら、数の価値観でも妹とはわかりあえないようだ。なんだお前は、三つ以上はいっぱいとかいう原始人か?野性的なのはそのけしから乳だけにしろ。


「壁の白地が見えないほど積んどいて、何ふざけた事言ってんのよ!」

「何言ってんだ!こんな数、全然多くねえよ!お前はネットの向こうの勇者達の姿を知らないからそんな事言えるんだ!」

「知りたかないわよ、そんなギャルゲーオタの姿なんか!第一、あいつらが勇者なんかなわけないでしょ!ただの遊び人じゃない」

「ははは、何言ってるんだ。彼らのジョブは遊び人なんかじゃない。30歳をさかいに、彼らは魔法使いになるんだよ!」

「それ……ただの童貞じゃん……。ていうか…やっぱり勇者じゃないじゃないのよ」

「まあそれはおいといて…」

「おいとくな!」

「じゃあ議論するか?いいか、そもそも童貞が30歳になると魔法使いになると言った最初の人間は…」

「ごめん、やぱり置いといて。というかその会話、二度とするな。放り投げろ」

「まったく、わがままな妹だなあ」


 やれやれだ。さて、なんで俺が妹にこんなつっかかっているのか。もちろん、それはたった一つシンプルな理由。てめえは俺を怒らせた。

 俺のコレクションが多いだと?こっちがどれだけ苦労してるかも知らないで…。

 キッと秋穂を睨みつける。

「秋穂、お前はこのゲームの数が多いとか言うけどなあ。いいか!お前と春香のせいで、俺は妹ゲーと姉ゲーという二大ジャンルにまったく手がだせないんだぞ!だからあれだけしかないと言ってるんだ!まあもちろん、同志達との会話についていくため、仕方なく姉妹を攻略するゲームをやらなければならない時もある。しかしそんな時、リアル姉妹がいるため、全然楽しめない!ゆえに中々買うこともできない…。お前に…お前にこの苦しみがわかるか!」

「わかるわけないでしょ!」


 妹の怒号が響く。どうやら、俺の説得は失敗したようだ。おかしいな、スパロボだと大抵うまくいくコマンドなのに、説得。

 まあそれはいいや。とにかく、俺の説得むなしく、妹は右手で顔をおおい、大きなため息をつく。

「まったく…本当にキモいんだから」

「おい!」

「何よ」

「俺のことはどれだけキモいと言ってもかまわない。だけどな、俺の愛するギャルゲーに対しキモいと言うことだけは絶対にゆるさん」

 きまった…。何と格好良いセリフだろうか、と思ったのは俺だけだった。

「今のセリフで核心したわ…ギャルゲーも気持ち悪いけど、あんたはそれ以上ね」

 まったく、何と口のへらない妹だ。ここまでギャルゲーを気持ち悪い等と言われて、兄として、いや一人のとして黙っていられようか。答えは否。ギャルゲーの地位と名誉回復のため、俺は妹の弱みにつけこむことにした。

「おい、キモいキモいって言うけどな、春香だってやってるんだぞ、ギャルゲーの仕事。あいつはキモくないのかよ」

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