それはこんな世界
2030年代初頭、突如世界中に“ダンジョン”が出現した。それは海底だったり、樹海の中だったり、住宅街だったりした。幸いにも、人口密集地に出現したダンジョンのほとんどは小規模なもので、被害は少なかったと言われている。
しかし、20年近く経った今も「何故」「どうやって」ダンジョンが出現したのか解明されていない。
ダンジョンの出現によって少なくない損害が発生したが、それ以上の利益が生まれた。ダンジョン内には未知の文明による遺物−アイテム−が多数残っており、ドラゴンなどの想像上にしか存在しなかった生き物−モンスター−が生息していた。アイテムやモンスターを研究することで、主に工学・医療の分野は大きく発展した。そのため、国を挙げてのダンジョンの調査団が組織された。しかし、モンスターの数は決して少なくなく調査団は数多くの犠牲者を出した。それは軍が護衛としてついても大差はなかった。モンスターは小口径の銃では全く怯まず、また威力の高い兵器では問題があった。1つは、ダンジョンは全て屋内に存在している。それは洞窟であったり、塔であったりするのだが、ある程度頑丈であるとはいえ爆発物を使っては倒壊などの恐れがある。また、名目が調査であるため、研究で必要なものまで破壊してしまう方法は取れない。2つ目は、モンスターも研究対象であることだ。死体にしろ、原型を留めていることが望ましい。これらのことから、大威力の兵器は使用が避けられた。一方捕獲用の麻酔弾や薬品もあったが、効き目が低いもしくは全く効かないモンスターが多かった。その結果ダンジョン内で最もモンスターを倒したのはナイフなどの接近戦の武器と格闘術だった。これは、モンスターの動きが人間の手に負えないほど速くはなかったため、猛獣相手でもナイフでも頑張れば勝てたということだった。しかし、それでもナイフ程度では当然のことながら犠牲者の数自体は減らなかった。結果原始的ではあるが、剣や槍などの武器が使用されるようになった。成果としては犠牲者の数は減り、モンスターも原型を留めたまま捕獲または仕留めることができたと大成功であった。が、そこは剣や槍といった現実的には滅多に争いで使われることの無くなった武器を片手にダンジョンに入り、モンスターと戦うというファンタジー小説やゲームのような世界となった。
最初こそ、ダンジョン内の資源の調査・研究は各国が国の機関で行っていたが、それが多岐に渡ることや、莫大な利益を生み出していることから程なくして民間企業も参加できるようになっていった。そこでまた新たな問題が発生することとなった。各企業にとって自分に関心のない物に関しては保全といった意志が欠けていた。特にモンスターへの対処が顕著で、稀にいる友好的なモンスターであっても躊躇なく惨殺したり奴隷のように扱ったりといった事件が相次いだ。
そこで、筆記・実技を行い合格した者にのみ、ダンジョンを探索することができる許可証―冒険者免許が発行されるようになった。世界に先駆けて、この冒険者免許を発行したのは資本主義の先鋒であるアメリカでもなく、世界最大の人口とダンジョン数を誇る中国でもなく、すっかり二次元に侵されてしまった日本であった。というのは、8割くらい冗談で実際日本は世界で人口に対するダンジョン数は最も多く、また自衛隊は攻撃許可に対するセーフティーが高いので民間から冒険者を募ったほうが効率的だったからである。
日本の冒険者制度には5段階のランク付けがされている。まず、基本的に調査をし尽くした、モンスターがいないもしくは無害なモンスターのみのランク外ダンジョンに入ることが許される5級冒険者資格。これは主に観光目的でダンジョンに入るときに使われるもので、当日のみ有効の資格になっている。そのため、誓約書の記入のみという最も簡易なもので一般に仮免といわれている。4級は15歳以上かつ、筆記・実技の試験を合格した者がもつことができる。4級以上の資格を持つことで、帯剣許可が下りる。そのため、最初は治安の悪化が叫ばれたが、法整備が進み冒険者がダンジョン以外で傷害事件を起こした場合、武器の所持に関わらず無期懲役が裁判無しで確定となることが決まった段階でそういった事件は激減した。また、4級以上からはダンジョン内にて採取・捕獲が許可されている。ダンジョンで得たものを、国の窓口を通して換金することで冒険者は利益を得ることができる。4級はダンジョンの中でも、最も難易度・危険度の低いCランクのダンジョンに12時間入ることが許可される。3級は17歳以上が所持することを許され、やはりCランクではあるがダンジョンに72時間まで入ることが許可される。2級ではBランクに72時間入ることが許され、Cランク以下には時間無制限滞在できる。1級は、全ての制約が解除となりAランクへの立ち入り許可、滞在時間の制限が取り払われる。1・2級は筆記試験こそないが、今までの業績などが見られ資格を得ることができる。また、それぞれには準1・準2級が存在している。これは3級だがほぼ2級の資格を持っているといった者に与えられる資格で、準2級所持者であれば2級冒険者と一緒ならばBランクのダンジョンに入ることが許可される。
前振りが長くなったが、今俺の横に立っているのが準一級冒険者で『勇者』の二つ名を持つ親友で、ここはBランクダンジョン『樹海の塔』の入り口にある、ゲートと言われる関所兼換金所。と言っても今は出てきたところで、俺は親友と同じ準1級こそ所持しているものの、武器の類は一切持たず基本親友のおこぼれでここまで上がってきた冒険者だ。で、親友と口論しているのは国の監査官で問題になっているのは、俺らの後ろに立つ娘だ。腰には刀を佩いていて、服装こそ古風な袴姿、容姿はなかなかの美少女である。では何が問題かと言えば、その娘に狐耳と狐尻尾が生えていることが問題で。
そう、モンスターだということだ。
本当にこの国は二次元に毒されている。