第3話
同様にシミターも装備することができ、アイテムボックスは使えないのにこのシステムは利用できたことに佐山は若干の困惑を覚えた。
はっきり言って大部分の現代社会の人間が鎧のつけ方などを知っているわけがないし、ただ単に装備欄に装備を移すのも味気ないために作られたシステムで、ある意味某戦隊物やライダーと同じ戦闘態勢に入るための様式美に近いものであった。
しかし本来これはアイテムボックスやステータスが使えない場面では使用ができない物である。
何故かというと簡単で、そもそもにして装備を登録しなければ使えなく、そのために必要なものがアイテムボックスであり装備を登録するためのステータス画面なのだ。
(……もしかすると)
仮定ではあったが、なんとなくそれが正しいと感じつつも佐山は後ろに振り返った。
そこには少女がいて、若干頬を赤らめたまま佐山を見つめていた。
そこには驚きは無く、やはりか、と佐山は思った。
いくつか実験をしないと断定は出来ないが、恐らくこれはゲームの中からゲームの世界観になかったものを取り除いた状態なのだろう。
ゲーム上、アイテムボックスやログアウトやGMコールなどを含めたシステムは必須だが、それは必要だからあるだけであって本来のゲームの世界観には存在しないはずである。
むしろ、初心者用のチュートリアルを除いてそんなものがあったらドン引きである。
――勇者様! アイテムボックスから魔王城の鍵(謁見の間)を使用して助けにきてください! あ、もしバグなどで入手できなかった場合サポートセンターまでお問い合わせをお願いします!
などとゲームで言われたらまず間違いなくテンションは底辺まで下がる。
ゲームの中のキャラのお前が現実世界のことを言うのかよ、と。
とはいえそういったものがあってこそのゲームの楽しさと便利さがあるためなくせる訳もなく、最終的にそこらへんのものが存在するのは暗黙の了解ということになっている。
もしそれがVRMMOからなくなれば?
当然アイテムボックスなどはなくなるし、チャット欄などもなくなる――例外といえば先ほどの異世界へようこそなどというくだりだが、それも既に見えなくなっている。
そして装着は世界観に組み込まれたシステムで、女性騎士のNPCなどがイベントの際などに実際に装着を使っていた。
とはいえ前提条件であったアイテムボックスやステータスは既に使えなかった、では何故使えたのか?
はたと佐山は思い立つ、前提条件が変わったのか?と。
試してみないことには分からないが、例えば自分の装備品に触れているときであるとか。
「あ、あの……本当にありがとうございました」
「うん? ああ、どういたしまして。 とはいえこれで装備も手に入って俺としても助かったんだけどな」
そう答えつつ、佐山は少女を凝視していた――否、見下ろしていたというべきか。
佐山の身長は180センチ弱、少女は160センチほどなので否応なくその形となった。
ともあれそうして佐山が見て思ったことはひとつ、別段現実にしろゲームにしろおかしなことはないなということだった。
そばかすが転々と頬にあり、束ねられた腰まで届く茶髪のポニーテールと活発そうな印象を受ける同色の瞳。
健康的な体躯と相まって活気のある農村の少女といった感じの雰囲気を受けた。
「あの……そのことなんですが、どうして素手でリザードマンを倒せるような方が何の装備もしていないんですか?」
そう言った少女の顔にあったのは若干の困惑。
それはそうだろう、低レベルのモンスターとはいえ拳で、それも一撃でとなれば高レベルであることは分かる。
だというのに何の装備もないというのは少々どころかかなりおかしな話だ。
とはいえ、正確に現状を把握しているわけではない佐山に答えようがあるわけもなく、ため息をひとつついてなるようになれと言葉を切った。
「正直に答えると分からない」
「……はい? えっと……それはどういう意味ですか?」
きょとんという言葉がまさに当てはまるような表情――それはそうだと佐山は思ったものの、それが事実なのだからしようがない。
「記憶がない訳じゃない。 昨日何をしていたかも思い出せるし、勿論それ以前のことも覚えている。 だけど今どうしてここにこんな状態でいるかが全くわからない。 質問に質問を返すようで悪いんだが、こんな感じの前例ってないだろうか?」
「……えと、その、すいません分からないです。 相談役の爺様なら何かご存知かもしれないですけど……」
申し訳ないといった様子でそう言った少女。
「爺様?」
「はい、過去に冒険者をしていてさまざまな国を渡った博識なお爺様で、有事の際の相談役を担っているんです」
少女の博識という言葉に惹かれる佐山、だが、と佐山は眉を潜めた。
果たして素性の知れない自分をその爺様――いやそもそも自分住んでいる場所に案内してくれるだろうか?と。
「その……自分で言うのもなんだが俺は君にとって見ず知らずの人間だ。 だが、出来ればその爺様に会わせて貰えないだろうか? 君たちの不利益になるようなことはしないと誓う」
そういった佐山に対して少女は頭を下げた。
「すいません余計なことを聞いて気を使わせてしまって。 本当に好奇心から聞いただけで疑ってた訳じゃないんです」
「では……?」
「はい、爺様の下に案内させてもらいます。 って言っても村の人たちに許可を貰ってからなんですけど……大丈夫です、皆良い人ですから」
最後だけ堅い言葉を亡くして自然体でそう笑っていった少女に、気づけば佐山も微笑んでいた。
「そういえば」
と、佐山はふと気がついた。
「はい?」
「いや、お互いに名前を名乗りあってなかったな、と思って」
そう佐山がいうと少女はあ、と目を丸くしていった。
「すいません、そういえばそうでしたね……私はジーニーです」
よろしくジーニーと言った佐山は、一瞬キャラ名を名乗るか本名を名乗るか悩んだものの。
「俺はシキ・サヤマだ」
そう本名を名乗った。
小説概要は変更します。
今更出すけど長すぎるなーと思ったのでorz
あ、更新したときは内容のチェックをあまりしていないので多分ちょくちょく編集して直すことになります。
ないとは思いますがあまりに大々的に直すときは最新話で告知させて頂きます。