第2話
「た、助かった……の?」
呆然と佐山とリザードマンの戦いを眺めていた少女がそう呟いた。
拳を下ろして戦闘体勢を解き、佐山は大きく息を吐くと共に頷いた。
「らしいな」
少女の方に向き直った佐山は、その少女の頭上にもライフバーがあり、尚且つそれが半分を割っていることに気がついた。
反射的にアイテムボックスから回復アイテムを取り出そうとして思い出す、先ほどそれを呼び出せなかったことを。
「と、すまない。 回復をしてあげたいんだが、生憎と何も持って……え?」
ライフバーが減っているということは、ダメージ(攻撃)を受けたということであり、その喰らい方次第では出血による持続ダメージが発生する。
だからこそ、佐山は少女に歩み寄りつつも身体を上から下へとチェックをしたのだが……彼女の着たチェニック――その胸元が破れていたのだ。
「え? ……あ、いやあああああああああああああああ!」
パン、ともみじが咲いた。
「本当に、本当にすいませんでした!」
そういって頭を下げ続ける少女、ポニーテールがそれに合わせて揺れている。
身長差から佐山はそれを見下ろす形になっているのだが、苦笑しか浮かんでいない。
(いやはや、本当に訳が分からない。 どうみても目の前の彼女は人間味が溢れていて、NPCだとは感じられない。 では、プレイヤー? それも多分違う。 プレイヤーであるならばゲームらしい行動をしてしまうはずだ)
他人には見えないチャット欄の閲覧や耳打ちと呼ばれる個人会話、プレイヤーにしか出来ない行動は多々あり、目の前の彼女からはそういった雰囲気が一切感じられなかったのだ。
一番しっくりとくる表現は、人、だ。
ロールプレイ――役割を演じているプレイヤーではなく本当に生きている人。
しかし、もし本当にそうだとするのならば……ここは異世界だということになる。
あり得ない、そういいたいが――ゲームとしてもあり得ない。
……いずれ分かる、のか?
「本当に気にしていないぞ? 別段痛かった訳でも無し、はたかれたのだって気が動転してたからだろうし、な?」
「いえ、その! それだけじゃなくて服までお貸しいただいて……ッ!」
などと言いつつ、決して顔を上まで上げない少女――具体的には佐山の上半身のあたりまでは決して。
ふむ、などと言いつつ佐山はチェニックの上に黒の長袖って合わないなやっぱなどとどうでもいいことを思った。
「いやまあ……あのままだと俺が君の事を見れなかったし、あくまでも自分のためだから気にしないでくれるとありがたい」
その言葉に嘘はない、が。
「あ、あの……その、服を頂いてから言うのもあれなんですが、その、私がっ、恥ずかしくて見れま……せん」
そう、それが問題だった。 とはいっても、と佐山は思う。
「俺は男だから上半身くらい誰かに見られても問題はないけれど、君は違うだろ?」
住んでいるのが村にしろ町にしろ少女が一人で暮らしているわけがないのだ。
そこには同年代の男子もいるだろうし、どちらが問題があるかといえば間違いなく少女のほうで、しかも佐山は好都合なことに昔していたスポーツのお陰で上半身を晒すということにさほどの抵抗感がなかった。
「それは……そうなんですけど、あっ! その、失礼かもしれないんですが……さきほどのリザードマンの装備を付けて頂くというのはダメ、でしょうか?」
リザードマンの装備?と佐山は首を傾げる。
リザードマンのドロップアイテムと言えば装備の素材にならない鱗程度でレア度のない商店で売られているような装備のドロップもなく、序盤にしてマズイモンスターとして有名だったはずだがと思考して、はたと気づく。
(ゲーム感覚のまま……だったな)
ゲームではなく異世界かもしれない、例えゲームだったとしても通常のゲームではない。
俯いたまま少女が指差す、先ほどリザードマンが倒れていた場所へと振り向き直す。
「……完全にまともなゲームの可能性はなくなったな」
小さな声で佐山は呟いた。
そこにはリザードマンの死体があった。
死体などというものが通常のゲームならばともかくVRというジャンルであるわけがない。
そんなものを導入したらまずもってゲームとして認可されず世に出されることはない。
事実ゼロサムオンラインにおいても、モンスターは死後ポリゴンの欠片をばら撒きつつ消滅する。
そこに例外は無く、あってはいけない。
「……はい?」
「いやなんでもない……そうだな、ちょうどシミターもあるし装備させて貰おう」
曲刀は一応剣士の適正装備だったはずだ。
もっとも、装備ボーナス(適正が高い武器をつけた際に装備ステータスの上昇)も付かないし一部のスキルしか使えないなどと本当に一応程度のレベルだが。
とはいえ海賊などの曲刀でボーナスが付くような職業はジョブレベル(基本となるレベルではなく、職業ごとのレベル)が1のままだし、使えない。
この際贅沢はいえないかと思ったのもつかの間、とあることに気づいてしまう。
(死体から、装備を剥ぐ……のか?)
泡を吹いたまま倒れているリザードマン、頭上のライフバーが無くなっているがそんなことはこの際どうでもいい。
VRMMOで散々切り捨てている以上倒すことに忌避感はないが、死体から追い剥ぐということに限っては違う。
何しろVRMMOにはそんなものはなかったのだから。
苦悩しつつも、佐山はどうしようもないという結論に陥り、リザードマンへと歩み寄り、片膝をついてしゃがんだ。
しかし出きるならば、と思いハーフプレートに触れつつもダメ元でゲームのシステムに縋った。
「装着」
変化は起きた。
リザードマンのハーフプレートが消失し、佐山の体を淡い光が包み込む。
一瞬の後、佐山はハーフプレートを身に着けていた。
長いので飛ばしてしまっても大丈夫です。
ベースレベルとジョブレベルという概念を導入しました。
ベースレベル=基本のレベルでステータスに直結し、ジョブレベルに関係なくレベルキャップ(その時点で上げられるレベルの限界、ゲームとしての限界は100となっています)まで上げる事が出き、レベルキャップまで到達すると入手経験値が0となる。
ジョブレベル=職業それぞれにレベルがあり、初期は1。
職業ごとにステータスの倍率が設定されており(基本は1.00)、剣士職などはATKやHPなどに高い倍率をもつが逆にINTが極端に低い。
もっとも剣士は魔法など使わないので意味がないといえばないのですが。
フリージョブ(好きな職業)になれるシステムなので全職業ができるといえば出きるのですが、レベルアップ時のボーナスポイントがステータスで大きな部分を占めるので実際は出来ないといっても過言ではないです。
防御特化の戦士が魔法使いになりたいといっても、例えばDEFに200、INTに0振っていたとしたら、魔術師のボーナスポイントにおけるステータスは、
DEF = 200*0.5 =100
INT = 0*1.8=0
という形で俗にいういらない子になってしまいます。
一応主人公のステータス振りは、
ATK AGI振り
持ちジョブ
Lv97 剣士 ATK HP補正
Lv95 拳士 ATK AGI補正
Lv95 アサシン ATK小 TEC小 AGI補正
ジョブレベルが高いのは前回のキャップで上げていたためとなっています。
あ、ここで書くのもあれなんですが誤字報告と感想お待ちしています。