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因果

作者: エンゲブラ
掲載日:2026/03/21

これは……いったいどこの風景だろう?

なんだか、なつかしい気がする。

けど、かなしくて……

ん、あのひとは……

えっ、ひょっとして……

そうか、これはぼくの……



その朝、少年はベッドの上で上体を起こし、静かに涙をこぼした。


少年は、思い出した。

自分の前世の記憶を。

今は、子爵家の次男坊。

だが、前世では、村の外れで、ひっそりと息を殺して生きる、貧しい母のひとり息子であったことを。


いつ、どうやって死んだのかは思い出せない。

しかし、貧しかったその少年は、いつのまにか、子爵家の子息に生まれ変わっていた。



朝の食卓。

少年は、父と兄との会話の中に、かつての自分が住んでいた村の名前を偶然耳にした。

村は、子爵家の領内にあるらしく、今週、視察に向かうという。

子爵は、少年の兄を誘ったが、少年は懇願し、視察には子爵と少年が向かうこととなった。


少年は、調べるつもりであった。

前世の自分が、どのように死んだのかを。

そして、もしまだ生きているのであれば、母を救いたいとも、少年は考えていた。



早朝から長く馬車に揺られ、村に着く頃には、少年は疲れ果てていた。

しかし、村の景色を見て、疲れが吹き飛んだ。


記憶の中と、何ひとつ変わらない景色。

ひょっとすると、あまり時間も流れていないのかもしれない。

だとすれば、母もまだ生きているのではないかと色めき立った。


村人たちが、子爵と少年の周りに集まり、ひざまずく。

視察を感謝するといい、子爵もいくつかの質問を村長に投げる。


子爵と村長の会話が続く中、少年は必死にあたりを見渡した。

集まった村人の中には、見知った者も多く、ほとんど皆、あの時のままの姿であった。


そして、少年は気付いた。

村人たちの輪の後方に、前世の自分が立っていることに。


気付くと、少年は走り出していた。

これなら、母親だけでなく、前世の自分も救えるのではないかと。

どういう仕組みかは分からないが、神が自分たちを救うために、このような采配をしてくれたのではないかと。


少年は、かつての自分に抱き着いた。

しかし、すぐさま、少年は地面に這いつくばることとなった。



腹が熱い。

腹から温泉でも出たかのように、血が止めどなく流れ落ちる。


少年は、かつての自分だった少年に刺された。

そして、少年は思い出した。

過去の自分がどうして、死に、この因果が廻っているのかを。


村の家屋と家屋の間に立ち、遠巻きに少年たちを眺めていた、ローブ姿の男が、満足げにうなずいていた。



村の少年は、少年が記憶を取り戻した朝に、自らの母を失っていた。

原因は、餓死であった。

少年は狂乱し、村を駆け回ったが、すぐに大人たちに殴られ、失神した。


次に気付いた時、少年はローブ姿の男に介抱されていた。

男は、少年とともに墓穴を掘り、少年の母を埋葬した。


少年は感謝したが、この先、生きていくアテもない。

少年は、男に一縷いちるの期待を寄せたが、男は意外な物を少年に手渡した。


それは、ひとつのナイフであった。

ひと突きした相手の人生を乗っ取ることができる魔導具であると。


何を言ってるんだ、このひとは?―― と少年は思ったが、手に取った瞬間、その考えは変わった。そのナイフには、間違いなく、超常的な何かの力が込められていることが、少年にも感じ取れたからであった。


男は、さらに少年に教えた。

今週末、領主の子息がこの村に訪れる。

それを狙うといい、と。



少年を刺した少年は、すぐに護衛騎士に殴り飛ばされ、そのまま絶命した。

その光景を眺めながら、生まれ変わった少年をすべてを思い出し、涙した。


これは無限の地獄に違いない。

次もまた、ぼくは母と彼を救おうとするだろうし、ぼくはぼくを刺すだろうと。


Fin.


ローブの男は、おそらく人間たちの悲しい物語を愉しむ、悪魔か何かか(比喩ではなく)。

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