魔王、声優を知る
「そういえば勇者よ、前から気になっていたのだがエンディングでキャラ横についてる名前は何なのだ? 声優と書いてあるが?」
ダンジョンをリニューアルして一週間が経ち、魔王と勇者も落ち着いてアニメが見れるようになっていた。相変わらずポーションの補充があるので買い物にはいけてないが。今日もアニメを二人で『合法』視聴してると魔王がそんな事を今更聞いてきた。
「なにってキャラの声を担当している人だよ。声優は人気職業の一つなんだぞ?」
「キャラの声を担当? それはどういう意味であるか?」
「どういう意味も、声を吹き込む人がいないとキャラが喋らないだろ? ようは中の人だよ中の人」
「…………fgddteherww!?!?!?」
「なんて?」
急にバグったような声を発する魔王に驚き、勇者はそちらを見る。魔王が泡を吹いて倒れてた。比喩表現ではなくガチで。勇者は「泡って本当に吹くんだな」じゃないんだよ。心配しろ。
「梅ちゃんにも咲ちゃんにも麻衣ちゃんにもミーヤにも中の人がいたのか……」
「おーい魔王」
「我が見てたのは何だったのだ? あれは、虚構? 我は謀られていた? 我は、我は、我は……うわぁあああああああああああああ!!!」
「駄目だこりゃ」
その日、魔王は一日寝込むことになった。声優という存在は魔王にはあまりに衝撃的だったのだ。魔王が一日寝込むくらい何も問題無いのでは無いか? いやそんなことは無い。
魔王が倒れているので当然ポーションの補充が無い。それだけでも冒険者にとっては影響が大きかった。だが問題は根深かった。
ダンジョンは魔王と深いところで繋がっている。その為、魔王の感情の影響を受けやすい。ではこのように魔王が負の感情を抱えている際どうなるか。簡単だモンスターが大幅に強化される。スライムが人間程の大きさになっているのを見て「あ、これもうただのスライムじゃない。ビッグスライムだ」と事態に気づいた勇者だったが、勇者にはダンジョンを弄れない。あくまで勇者は参謀ポジションであって、ダンジョンを直接弄れるのは魔王だけなのである。
「おい、魔王! しっかりしろダンジョンでモンスターが狂暴化してる! 早く対処しろ!」
「むり……しんど……」
「おぃいいいいいいいいいいいい!」
必死に頼み込むが、そもそも魔王も過去味わった事の無いショックで、感情が制御できないのでどうしようもないのである。改善は不可能と判断した勇者はダンジョンの臨時休業のアナウンスをすることにした。これは魔王の部屋にあるメガホンに向けて喋るだけなので勇者にもできた。
とはいえダンジョンを閉鎖したりといった事は勇者には出来ない。その為、モンスターが狂暴化しているリスクは伝えてダンジョンに潜らないように言っても、聞かない馬鹿はいる。そしてそんな馬鹿達は大怪我という手痛い報いを受けるのだったが、幸いポーションを善意で提供したものがいた事で大事故には至らなかった。
冒険者達がモンスター狂暴化事変と後に語った事件の翌日、魔王はけろっとしていた。なおSNSでは魔王というかダンジョン管理人が大炎上していたが魔王はSNSの存在を知らないのでノーダメージだ。
「中の人がいようがいまいが、推しは推しなのである。むしろ中の人も推していこうぞ!」
「そりゃ良かった……」
一日休んで元気溌剌の魔王に対して、勇者は一日中ひたすらアナウンスを繰り返していた為げっそりしていた。今日も魔王が復活しなかったら、聖剣で叩き起こそうと思っていたくらいだ。発想が蛮族すぎる。
「これだけ清楚な声をしているのだから、このキャラの声を担当している声優殿も清廉潔白なのだろうな!」
「あ~その人な。昔不倫して大炎上して干されかけたんだよな。まぁ実力があったから復帰できたみたいだけど」
「は?」
「あ、やべ」
徹夜したわけでは無いが、勇者は精神的負担で脳が働いて無かった。その為迂闊な発言をしてしまった。失言にすぐ気づいたが、時すでに遅し。魔王はまた発狂していた。
「この子の声を聴くとき今後ずっと『でも声優殿不倫してたんだよなぁ』って脳裏をよぎるぅうううううう!! うわぁあああああああああああああ!!!」
「その気持ちはめっちゃわかる」
それは勇者も通った道である。否、世のオタクの多くが通った道である。魔王は部屋の中でゴロンゴロン転がっていた。なお勇者は全力で避難していた。魔王の転がるは時間経過で威力が上がっており、最早勇者ですら当たればひき肉になるからだ。
今日もダンジョンは臨時休業だな、そう思った勇者だったが、魔王はあっさりと復活した。
「よく考えたら人間という種族が清廉潔白なわけなかったわ。人間なんて所詮我に飼われる家畜よ」
「魔王みたいなこと言うじゃん。……いや魔王だったわ」
重度のアニメオタクの姿を見ていると忘れがちだが、これでも異世界で世界征服を成し遂げた正真正銘の魔王である。まぁ大衆がイメージする魔王とは違い、やたら温厚ではあるのだが。
「でもアニメのキャラは尊いって言ってないか?」
「勇者、二次元と三次元は違うだろう?」
「それはそう」
「我は推しを推す。現実に生きる声優とやらは知らん」
「まぁそれも良いんじゃないか? その代わり声優を受け入れられないなら、イベントとかライブも見れないだろうけど」
「イベント? ライブ?」
そいやアニメから発展したコンテンツについては視る機会が無いから説明した事なかったな~と勇者は思い出す。パソコンで公式が投稿したサンプル映像等を見せて説明すると魔王は目を輝かせていた。
「勇者! 勇者! 推しだ! 推しが歌っている! 踊っているぞ!」
「うんうん。そうだな」
「我は浅慮だった。声優とは斯様に素敵なものだったのだな。我やはり声優も推すことにするぞ!」
「それは良いけど、声優が問題起こしたからって寝込むなよ?」
「フハハハ、先程の声優が特別愚かだっただけであろう。キャラに声を吹き込んでいるということはキャラの人生を背負うという事。不祥事なんてそうそう起こすはずが無い!」
「……ソウダネ」
割と頻繁に声優が不祥事で炎上しているのを知っている勇者は魔王から目を逸らした。まぁ、多分寝込むまではいかないだろう。初回じゃないんだし。大丈夫大丈夫。と未来の悲劇から全力で目を逸らして。お前本当に勇者か?
未来に特大の爆弾を抱えながらも、魔王の第一次声優ショックは無事収束したのだった。




