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女子高生、冒険者になる

「今日こそまともなダンジョンなんでしょうね!」


 ダンジョンが出現したということで、ファンタジーが好きだった女子高生、星宮ラキは友達二人と一緒に訪れ、そしてドラゴンブレスで焼き払われた。

 ドラゴンは確かに最高にかっこよかった。ブレスを吐く姿もエモかった。だがダンジョンに入った瞬間即終了は難易度が狂っているとしかいいようがない。ダンジョンを楽しみにしてやってきた人々は皆発狂してた。ラキ達も発狂した。


 今日からリニューアルするらしいから、もう一度だけ信じて足を運んだ。だが友達二人は「どうせまたドラゴンでしょ?」とあきれ声で着いてきてくれなかったので一人ぼっちで少し寂しい。ラキのように一人の人間もいるがワイワイ集団でやって来てる人の方が目立つので余計に肩身の狭さを勝手に感じてしまう。日曜日ということもあってか今日も人が多く、家族で来ている様子の人達もいる。

 それでもラキはホームセンターで購入したバールを握りしめて、漆黒の塔を眺める。きっと今日こそはラキが望んでいたファンタジーが広がっていると信じて。

 その願いはいい意味ですぐに裏切られた。


「冒険者登録はこちらでお願いします」


 塔に入ってすぐ、昨日は殺風景だった部屋に受付が出来ており、アニメキャラ風の派手な髪色の女性達が冒険者登録をしてくれた。どう見ても人間にしか見えないが、精霊らしい。ファンタジーだ!

 ラキの手には貰ったばかりの冒険者カードが輝いていた。といっても本当に光っているわけでは無いが気持ち的に。

 最初はFランクから始まり、モンスターを倒して手に入れた魔石の数や質によってランクが上昇していくらしい。現在はDランクまで開放されており、それ以降は順次実装とのことだった。モンスターは魔石以外も落とすらしいが、それは運が良ければとのことだ。


「冒険者カードきた~!」


 モンスターを倒していけばランクが上がるなら、早くランクを上げなくては。なんて逸る気持ちを抑えてお姉さんの説明の続きを聞く。こういうのをちゃんと聞かない奴は手痛い失敗をするとアニメで学んでいるのだ。

 どうやら魔石や素材等はダンジョン出てすぐにある政府の買い取り所に持っていくと現金になるらしい。ただダンジョンは買い取りに関与してないので、こちらにクレームを入れても対応できないとのことだった。

 よく分からないが大人のやり取りがあるのだろう。とりあえずファンタジーを楽しめてかつ、多少でもお小遣いが手に入るなら良い事だろう。


 残念な事はポーションが一万円から十万円に大幅値上がりしたので、怪我には注意して欲しいとのことだった。ポーションの検証動画を見たが、ざっくり切れた傷もあっという間に治していたので、一万円が安すぎたのだろうから仕方ない。もっと買っておけば良かったと思いつつ、高校生としては一万でも高額だったので記念に一本しか買ってなかった。


「転売目的で偽下級ポーションを購入しようとされると、しばらくの間ダンジョン出禁とさせて頂きますのでご注意ください。なお今後他のアイテムをダンジョンで販売する際も同様のルールとなりますのでご了承ください」

「そうなんですね。私は自分用にしか買わないので大丈夫です!」


 確かにSNSで転売が話題になっていたので、それの対策なのだろう。ラキは冒険する気満々なので、ポーションの転売なんて考えてすらなかったから問題無かった。

 また現代兵器はダンジョンでは使用不可能になったらしい。バールしか用意してないラキにはこれもまた関係無かった。


 そうして説明を全部聞き終えた後、ゲートを潜り抜けると、そこには一面の草原が広がっていた。当然ドラゴンの姿はない。少し、いやかなりほっとした。やはりドラゴンはトラウマなのである。ちなみに人の姿はまばらだった。受付のお姉さんが説明していたが、受付でパーティーを組んでない場合、適当に違う場所に振り分けられるらしい。ダンジョンの内容は同じだが、次元が違うから合流は出来ないとのことだ。


 あたりを見渡すと球体の液体がぽよんぽよんと跳ねていた。どう見てもスライムだ! 可愛らしい見た目と動きに、思わず見とれていたが自分の目的を思い出す。自分はモンスターを倒しに来たのだ!


「いっちょやってやりますか~!」


 ラキは手に持っていたバールを、スライムの脳天に思いっきり振り下ろす。

 だがその攻撃ではスライムは倒せなかったようで、プルプルと震えている。


「一撃では倒せないか、ならもう一発!」


 先程より力を込めてバールを振り下ろすと、今度は無事倒せたのか、スライムの身体が淡く光り消滅した。そしてスライムが居た場所には代わりにビー玉状の物体が落ちていた。おそらくこれが魔石なのだろう。 


「綺麗……! 宝石みたい!」

 

 魔石はサイズこそ小さいが、宝石みたいに輝いていた。記念にこの最初の一個は売らずに持って帰っても良いかもしれない。ラキはジャージのポケットに魔石を入れた。更衣室なんてないから家からジャージで来たが、恥ずかしいから出来れば更衣室が出来て欲しい。あとスライム一体倒すだけでひと汗かいたので、シャワー室なんかも。受付などを追加してくれてたし、後々実装してくれないだろうか。それにしても昨日とは嘘みたいに別物だ。ちゃんとダンジョンしている。


「もう、咲も海も来れば良かったのに。滅茶苦茶ファンタジーしてるよ! これだよこれ、これを私は求めてたの!」


 思わず叫んでしまって、近くにいた冒険者を驚かせてしまった。ただ、その人もすぐに同意と言わんばかりに顔を上下に振っていた。やはり皆思う事は同じのようだ。


「さて、まだまだいくよ~!」


 たった一体スライムを倒しただけで終わるつもりは毛頭ない。次の獲物を求めて草原を歩くと、一体小さな緑色で人型の化け物がうろついていた。その手には小ぶりのこん棒がある。おそらくゴブリンだろう。スライムと並びダンジョンの一階に居そうな存在である。テンションが上がってゴブリンを観察していたが、ラキから目視できる距離という事は当然ゴブリンからもラキが見える。ラキの存在に気づいたゴブリンはこん棒を持ち上げて殴り掛かって来た。

 帰宅部で大して運動をして来なかったラキは咄嗟に避けることも出来ず、腕にこん棒があたる。


「痛っ!?」


 昨日のドラゴンブレスは致命傷だった為、無効化されて痛みは無かったが、今回のは腕が赤くなる程度の痛みでしかなく、無効化されることは無かった。つい背負ったリュックのポーションに意識が行くが、一本十万円だ。骨折も大きな傷もない以上使うべきでは無いだろう。そもそも、今はまだ戦闘中だ。ラキを殴ってゴブリンはげらげら笑っていて隙はあるが、戦闘初心者のラキには回復している余裕は無い。


「こんにゃろ~! 女子高生舐めんな~!」


 笑っているゴブリンの脳天にバールを思いっきり振り下ろす。スライムが一撃で倒せなかったのだ。ゴブリンも一撃で倒せないと思った方が良いだろう。そう考えていたのだが。


「え?」


 バールが当たった場所に星が散らばるような派手なエフェクトが発生したと思うと、ゴブリンは淡い光に包まれて消えて行った。よく分からないが、どうやら一撃で倒せたらしい。

 まだラキは知らないが、それはクリティカルが発生した際のエフェクトで、与えるダメージが無条件で倍になる現象だった。またクリティカルで敵を倒した場合、ドロップ率が上がる。その結果、ゴブリンが居た場所にはスライムのよりは少しだけ大きな魔石と共に、先程のゴブリンが使っていた小ぶりのこん棒が落ちていた。


「え、もしかしてドロップアイテム!? 運が良ければって説明だったのに二体目で落とすなんて、私運が良いのかも!?」


 普段の生活で運が良いと感じることは少ないので、本当にたまたまだろうが、幸先が良かった。しかも武器なのがありがたい。ラキはバールをリュックに突っ込んで、こん棒を手にした。ゴブリンとはいえモンスターのドロップ品なのだ、現代日本で売られているバールよりは強いだろうと思っての事だ。なんだか先程よりも強くなった気がする。だが。


「ちょっとゴブリンは怖いかな……」


 痛みに慣れてないラキとしては、先程のゴブリンからの攻撃は少しトラウマだ。勿論今後冒険者として活動していくにはそんな事言ってる場合では無いことは分かっている。分かっているが。


「今日はスライム狙いでいこうかな、うん」


 今日だけは日和ることにした。明日からはちゃんとゴブリンも狙っていくと決めながら。ゴブリンに殴られた腕はジンジンするが、探索を続けられない程ではない。ラキはゴブリンを見つけたら避け、スライムを狩る事にした。

 ラキの予想が正しかったのか、バールでは二発必要だったスライムが、こん棒では一撃で倒せた。どうやら良い拾い物をしたらしい。


 スライムを見つけてはぽこんと叩くを繰り返して十匹。流石にクリティカルはゴブリン以来発生しなかった。そして普段運動をしていないラキは一時間程度しか経ってないが既に疲れが出てきていた。汗も大分かいてしまっている。

 今のところスライムとゴブリンしか見ていないとはいえ、ダンジョン内で休憩するのは悪手だろう。ラキは初日の冒険をここまでにすることにして、ゲートを潜り抜けダンジョン一階層の草原から塔の内部へと戻った。流石にこの程度で冒険者ランクが上がる訳もなく、カードは光って居なかった。お姉さんの説明によるとランクが上がる場合はカードが光るので受付に来るようにとのことだった。


「まぁそう簡単に上がったら逆につまんないよね~」


 そうは言いつつも自分のカードを見てちょっとだけ残念に思いながら、ラキはダンジョンから出た。そこには説明通り政府の買い取り所が設営されていた。かなりの数の仮設テントがあるのにどこも行列だ。まぁ冒険者も買い取りをする職員も初めてだらけだし仕方ないだろう。受付はそんな混んでなかったのにな、なんて思ったが、ダンジョンの受付のお姉さんと違ってこちらは人間なのだ。比較するのは可哀想だろう。


「お持たせしました。次の方どうぞ」


 そうしてしばらく列に並んで待っているとラキの番がやってきた。リュックからスライムの魔石十個とゴブリンの魔石一個を受付に提出する。予定通りスライムの魔石一個は記念に持ち帰る事にした。そしてゴブリンが落としたこん棒はラキが初めて手に入れたようで、買い取りを強く勧められ迷ったが、売らない事にした。装備は大事だってアニメを見て学んでいる。


「では買い取り金額を確認してください」


 そしてラキはタブレットに表示された金額に目を見開く。どう考えても高校生が手にする金額では無かった。


「こちらはダンジョンが始動したばかりで需要が高騰している為の価格です。その為いつまでこの値段が続くかは不明ですのでご了承ください」


 そりゃそうだ。女子高生が一時間程度ダンジョンに潜っただけでずっとこんな金額が手に入って居たら経済が崩壊してしまう。けれどこれだけあれば気になっていた服が何着か買える! なんて女子高生らしい思考が過ぎる。だが結局そのお金は服代にはならなかった。

 何故か? だって星宮ラキは冒険者なのだ! 冒険の為にポーション購入は欠かせない! 明日は友達二人を誘って、学校帰りにダンジョンに寄ろうかな、なんて考えるのだった。そして帰宅後、ラキはSNSに投稿する、『ダンジョン最高!』と。


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