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魔王、クレカを作りたい

「ぜぇ……ぜぇ……間に合った……」

「何をそんなに息を切らせておるのだ勇者よ」

「てめぇへの突っ込みのせいだよ! すぐヤバい物を紛れ込ませようとしやがって!」


 魔王と勇者はダンジョン開設初日の営業が終了してから、夜通しダンジョンの改修をしていた。カッコイイから! なんていう理由で伝説級の魔物を投入しようとする魔王とそれを止めようとする勇者の不毛なやりとりが朝まで続いていたのだ。悪夢か?

 結局無難に一階は草原型でモンスターはスライムとゴブリンのみ。モンスターを倒すと魔石をドロップし、低確率でモンスターの素材をドロップするように改善。採取できる素材は下級ポーションの素材である薬草や、現実にある鉱石。二階から四階のモンスターは数と強さが増すだけで変化無し。ただ、素材は既に日本政府に渡している魔鉱石も採取出来るようになっている。宝箱からはとりあえず偽下級ポーションを入れておくようにした。魔王がダンジョンに組み込んだセーフティー機能はあくまで致命傷を無効にするだけなので、それ以外の傷は負う。なので必要になるだろうという判断だ。

 それに合わせて偽下級ポーションの販売価格も十万円に上昇させた。売れ行きや大量に転売されたことから流石に安すぎたとポンコツ二人も察したのである。ちなみに転売された事実に魔王がぶちぎれて、今日から転売目的で買おうとするとダンジョン外に転移させられしばらくの間出禁となる。しばらくの間とは魔王の気が済むまでだ。


「転売ヤーを許す気あるのか?」

「ない!」

「だよなぁ~」


 もしかしたら転売ヤーは一生ダンジョンに入れないかもしれない。目先の利益を優先して、もっと大きな財を取り逃すことを彼らはまだ知らない。

 なお上の階層では中級、上級ポーションも採用する予定だ。勿論他のアイテムも。

 そして五階、ここはワンフロアだけでボスモンスターであるオークと戦う事になっている。下級モンスターの中ではまぁ強い方かな? くらいの立ち位置だが、一般人がひとまずの目的とするのにはちょうどいい塩梅の強さであろう。オークを討伐すると素材としてオーク肉がドロップするが、これは非常に美味だ。魔王の世界でも高値で取引されていた。現代日本でも高級豚よりも高値になるだろう。

 ボスを倒すとファンファーレが流れた後、ダンジョン入り口に転移させられる仕組みだ。流石にボス戦後に自力で出口まで戻るのは酷だろうという勇者の提案だ。


 魔王の強い要望でダンジョンでは現代兵器が使用不可能になるシステムが組まれた。自衛隊など軍隊がごり押しするのを避ける目的だ。このダンジョンはエンタメなのである。現代兵器で無双なんてされてもつまらないだろう。まぁ、現代兵器が効くのなんて下級、よくて中級モンスターまでだが。上級ともなると現代兵器では傷一つつかないだろう。存在の格が違うのだ。まぁ当然一般人では手も足も出ないので当分、もしかしたら一生封印だ。

 ちなみに魔石も名前の通り魔力を溜め込んだ石なのだが、魔鉱石との違いはある。魔石は無属性の魔力を溜め込んでおり、魔鉱石は周囲の属性魔力を取り込んでいる。海辺なら水属性、溶岩地帯なら炎属性などだ。どちらも活用方法が違うので一概にどちらが価値が高いとはいえない。とはいっても下級モンスターが落とす魔石と魔鉱石では価値は比べるまでもないが。下級モンスターが落とす魔石はビー玉程度の大きさで活用方法が少ないのである。

 

 テコ入れしたのはダンジョン内だけでなく、ダンジョン入場前の部屋にも施設を増設した。受付で冒険者登録出来るようにしたのである。カードが発行され、入手した魔石に応じて冒険者ランクが上がっていく方式だ。とはいえ現状ではDランクまでしか上がれないようにしているが。

 受付嬢は魔王が呼び出した精霊達だ。精霊は元々肉体を持たない為、アニメキャラ風の見た目なのは完全に魔王の趣味だ。

 また初日のダンジョン営業終了直前に日本政府から接触があり、ダンジョンの出口で日本政府が魔石や素材を買い取りする店舗を設営することになった。これに関しては魔王と勇者はノータッチだ。素材が売れることは冒険者としては嬉しいだろうから問題無いが、値段だの細かい決め毎に巻き込まれたくなかったので不干渉という事にした。

 勇者はパチンコ屋かな? と呟いたが魔王には通じなかった。


 そしてダンジョンをリニューアルして初の開場。初日は大ブーイングしていた冒険者達も、皆楽しそうに探索に出ている。バールなんかでもスライムとゴブリン程度なら倒すことが可能なのである。一部ドラゴンを見たかったと落ち込む人々がいて「やはりドラゴンは正解だったのでは? 今からでも投入するか?」と魔王がソワソワしていたのを勇者が全力で止めた。バランス崩壊やめろ。


 まだまだ問題点は多いが、ひとまずダンジョンとして形になり安心した二人だったが、彼らの、というか魔王の仕事は終わらなかった。転売ヤー対策、一万円から十万円への大幅値上げ、緊急時以外は一人一個の購入制限など多くのテコ入れをしたのにも関わらず、偽下級ポーションが飛ぶように売れ続けているのである。ダンジョン内で怪我をする冒険者は勿論、家族に何かあった時用の為にと冒険者以外の一般市民も買いに来ているのだ。値上げがSNS上で出回ってから、また値上げされる前にと買いに来る人が増加した。また動画投稿者達がポーションの効果を検証してみたという動画を多数投稿し、偽下級ポーションの効果の凄さがネットを中心に広まったのも大きかった。

 

 ダンジョンを解放してから五日目、グッズ代なんてとうに稼ぎ終えているのに魔王はダンジョンから離れることが出来なかった。なにせ数時間毎に偽下級ポーションが売り切れるのである。その補充が出来るのが現状魔王のみの為、魔王は動くに動けなくなっていた。


「勇者ぁ……なぜ我はグッズ代を手に入れたのに、グッズを買いに行けないのだぁ? 日本円があればグッズは買えるのではないか?」

「いや、ほんとなんでだろうな? もう売り切れたらそれで終わりで良くないか?」

「それはいかん、いかんぞ! 日本のダンジョンはエンタメなのである。楽しかったで終わらないといけないのだ! 遊園地を復興するアニメでもそう言っておった! アニメの教えに逆らう訳にはならぬ」


 エンタメとして売り出してるのに、怪我した冒険者がポーションを買えないで苦しむというのは魔王としては到底許せることでは無かった。アニメの教えに逆らうなんて考えは魔王に無いのだ。

 まぁ魔王の圧倒的魔力によるごり押しで、自動補充のシステムを構築すれば良いだけなのだが、ポンコツ二人はその発想に至らなかった。


「ちなみに売上ってどうなってんの?」

「一億を超えてから数えておらんわ」

「そりゃそうだ」


 二人共お小遣い稼ぎのつもりで始めたことだったのに、何故こんな大事になっているのだろうと頭を抱えている。日本にダンジョンなんてガチファンタジーを取り入れて、逆に何でならないと思えたんだ。


「なぁ魔王。直接買いに行くのは難しいかもだけど、ネット通販したらどうだ?」

「ネット、通販?」

「商品を遠隔で買えるシステムだ」

「なるほど、購入したら商品が転移してくるのだな!」

「転移なんてできるのはお前だけなんだよなぁ……」


 詳しい説明を魔王にすると、魔王は目を輝かせて満面の笑みになった。念願の公式グッズが手に入るのだ。自作のパチモンとは違う本物の公式グッズだ! まぁ魔王が魔法で作ったグッズの方がクオリティーが高いのでは? と突っ込みは勇者はしなかった。流石にこんな喜んでる魔王に水を差す、空気読めない野郎になり下がりたくはなかったのだ。勇者は何も言わずパソコンでグッズの通販画面を開いてあげた。


「勇者! 勇者! これ、我らが最初に見た機動で戦士のプラモデルという奴では!? CMで見たことあるぞ!? こっちは再放送をしていたのを見た、ファテのアクリルスタンドでは無いか! 我は出番が少なかったが梅ちゃんが大好きなのである。健気で、戦いなんて知らぬ存在だが、主人公の帰る場所。日常の象徴の彼女はなんとも美しい! 自作ではアクスタも、クッションも抱き枕も作っているが、やはり公式! 公式のグッズが欲しいのである! 凄い! 凄いぞ! 沢山グッズがある!」

「……うんそうだな」


 曲がりなりにも勇者である、魔王の早口詠唱位ちゃんと聞き取れている。そして彼もオタクである、友人がオタク特有の早口になったところで引きはしない。彼が思っているのはただ一つ、魔王が映画版のファテを見たら発狂して世界滅ばさないかな、という心配である。映画版では梅ちゃんは闇墜ちして完全に魔王よりの存在になるのだ。魔王的には解釈違いにも程があるだろう。人生初の公式との解釈違いに魔王がどうなってしまうか、流石の勇者にも想像が出来なかった。


「勇者、これはどうやって日本円を入れるのだ?」

「パソコンに日本円は入れられないなぁ」

「うむ? 確かに言われてみればそんな機能は創造してないな」

「クレジットカードで支払うんだよ」

「くれじっとかーど?」


 魔法のカード、人によっては地獄への入り口のカードでもあるが、それについて魔王に説明する。すぐに理解した魔王だったが問題が発生した。


「本人確認書類? 銀行口座? 職業? 我魔王ぞ」

「職業魔王では通らないかな……」


 クレジットカードを作るには当然審査が必要だ。だが住所ダンジョン最上階、職業魔王、スマホ無しではどうやっても審査に通るはずが無かった。というかそもそも最初の入り口である本人確認書類が存在しない。この世界に魔王の戸籍は無いのだから。勇者の説明を受け、魔王は結局グッズが購入できないのだと悟り、ボロボロと泣き始めた。勇者も魔王が泣く姿を見た事がなかったのでどうすれば良いか分からなくて、魔王の周囲をうろうろするだけだった。


「ここまでやってきたのにぃ……ひぐっ……結局我は公式グッズが買えないのかぁ……ふぐっ……」

「いや、その……」


 下手に希望を与えられたからこそ余計に絶望が深かった。整った魔王の顔が涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。勇者お前、魔王より魔王してるよ。


「えっと……あ!」


 急に自分の部屋に戻ってごそごそとしだした勇者。泣き続けながらもなんだなんだと、様子を伺う魔王。やがて魔王の部屋に戻ってきた勇者の手には一枚のカードがあった。


「そいや大学に入った時に母さんに言われて作ってたんだよな。使った事ないから忘れてたぜ。有効期限もまだ切れてないみたいだし」

「勇者、なんだそれは?」

「ああ、これこそクレジットカードだ!」

「こ、これが伝説のクレジットカード!?」

「別に伝説ではないかな? ということで魔王。これを貸してやるから」

「ふぇ?」

「ちゃんと使った分の金は返せよ?」

「ゆうしゃぁあああああ!!」

「うぉおおお、全力で抱き着いてくるな! 死ぬ! ミンチになって死ぬ!」


 魔王の全力タックルは勇者の耐久力をもってしても耐えることが出来ない。タックルを繰り返す魔王と、それを全力で避ける勇者というアホみたいな光景が生まれたのであった。いや、関係的には正しいのか? 理由があれなだけで。

 ともかく勇者のお陰で、魔王は人生初の公式グッズ購入が出来たのである。めでたし、めでたし。で、終わるならこの魔王はポンコツと呼ばれないのである。


「魔王!? なんかクレカが月の限度額に達したメールが届いてるんだけど!? お前どんだけ購入した!?」

「ち、ちょっことだぞ? 本当はまだまだ買いたいものがあったけど最初から欲張るのは良くないと思って我慢したんだぞ?」

「我慢してなんで限度額に行くんだよ! てかそんだけ買ったという事は……!」


 魔王の部屋の入り口に突如大量の段ボールが現れる。ダンジョンの入り口とは別の宅配業者専用の入り口に配置された物が魔法陣から転移されたものだ。通販で購入してから最優先で宅配エリアを構築していたのだ。


「おいなんだこの段ボールの数は!? どんだけ買ってるんだよ!」

「いや、そのだな勇者……」

「あ?」

「これほんの一部」

「は?」


 その言葉を皮切りに、段ボールが次から次へと転移してやってきて、魔王の部屋を埋め尽くしていく。勇者と魔王は段ボールの山、いや津波に飲み込まれるのだった。その後、勇者にお説教される魔王の姿があったとかなかったとか。





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