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魔王、側近の力を借りる

 勇者は大学の退学手続きなど細かい手続きの為、一日程帰省していた。大学は休学状態だったが、これから通うことはないだろうと判断しての事だ。大学に通っている間魔王が何をしでかすか分からないし、お金なら魔王からダンジョンの儲け三割貰うことになっているし、それがなくても勇者の実力ならダンジョンで荒稼ぎできる。金儲け手段が全て魔王依存なのは勇者としてどうなんだろう。

 ちなみに魔王は最初五分五分を提案していたが、それは流石に勇者が断った。作業しているの魔王だし。魔王が納得しなかったので三割は受け取ることにしたのだ。まぁ俺が居なきゃまともなダンジョン作れないしな、と勇者は思っていた。思っていたのだった。


「なんか色々追加されてないか!?」


 勇者は塔の最上階に戻ってくる前に(魔王から帰還用の魔石を貰っている)、せっかくだからとダンジョンを覗きに行った。映像越しにしか見たことなかったので、生で見て見たかったのである。だが様子が今までとは変わっていた。

 混雑緩和の為の入り口の複数追加から始まり、武器防具等を預けられるロッカー・妖精が経営する有料の診療所(ダンジョン内での怪我に限る)・シャワー室・更衣室・ドワーフによる武器防具売り場(非常に高額)・精霊達が運営する喫茶店。そんな施設が塔内部に出来ていた。

 冒険者達の話声からどれも好評なのが伺える。勇者自身、確かに必要だったなと今なら言える。だが、勇者は魔王にこれらを提案していない。


「魔王にもついに一般的な感性が!?」


 それは喜ばしいことだが、自分の存在意義がなくなったようで勇者は少し寂しく思った。だが、すぐに気づく。いや、魔王にこんなことできるはずないだろ、と。となると考えられることは一つ。アレがとうとう目覚めたのだ。最上階に戻りたくない。戻りたくはないが、一応何が起きたか確認する義務が勇者である自分にはあるだろう。そう自分を鼓舞して勇者は帰還の魔石を使用した。


 目を開けると、そこは見慣れた魔王の部屋で、そこには正座しながらパソコンでアニメを見ている魔王がいた。最近有料配信に手を出して、二十四時間アニメ漬けの生活をしている。勇者と違って魔王は睡眠の必要はないのだ。暇な時間を潰すためにしていただけなのである。で、そんな魔王に侍るように強面の狼獣人が控えていた。やっぱり回復していたか……と勇者は頭を抱えるが、無視するわけにもいかず声をかけることにした。


「よぉ、元気になったんだなゼルディウス」

「…………」


 ゼルディウス、魔王の側近は勇者の声掛けに答えない。それどころか視線すら向けない。まるで勇者なんて存在しないかのように。こいつ……! と苛立つ勇者だが、勇者も大人だ。そこは受け流す。


「おい、側近。勇者が挨拶しているぞ」

「は! なんだネズミ、いたのか。通りでドブ臭いにおいがするわけだ」

「誰がネズミだ! あとは俺は臭くねぇよ! え、臭くないよな? 昨日もちゃんと風呂入ったし」


 魔王に指摘されてようやく側近は勇者の事を視界に入れた。汚らわしいものを見るような目で。魔王と勇者がアニメ視聴友達になってからはずっとこの目だ。羨ましいなら一緒にアニメを見れば良いのに、と思うが口にしたら最後だと分かっているので何も言わない。


「どこぞでくたばっておれば良かったものを」

「お前ほんと失礼だな! おい魔王、部下の教育ちゃんとしとけよ!」

「? よく分からぬが、お主らは仲良さそうでいいな」

「仲良くねぇよ!」

「そうですね、魔王様が仰るなら仲が良いのでしょう」

「お前相変わらず魔王全肯定だなぁ……魔王が死ねって言ったら死ぬのかよ」

「当然だが?」


 何を当たり前のことを? と不思議がっている側近に、勇者はうげぇと舌を出した。やはりこいつとは仲良くできないと。もちろん側近側も仲良くできるなんて思っていないし、仲良くしたくない。側近は魔王に馴れ馴れしい勇者の事を、憎々しく思っているし、いつだって始末してしまいたいと考えている。魔王が悲しむのが分かっているので、実行に移さないだけで。


「魔王、なんか色々弄ったみたいだけど、あれってやっぱ側近の案か?」

「なぜ我の案という可能性を考慮しないのか分からないが、そうだぞ。昨日側近がようやく転移酔いから回復してな。事情を話すと色々と改善案を進言してくれたわ」

「不甲斐ない姿をお見せして誠に申し訳ございません」

「よいよい、世界を跨ぐ転移だ。普通はそうなる、我と勇者が特別なのだ」

「ちっ!」

「そこ思いっきり舌打ちするな! 人を殺しそうな目で睨むな! 単に俺はお前らの世界に転移した経験があったから耐性があっただけだろ。魔王とは違うから!」


 そんな風に勇者は考えているが、実際は違う。魔王と比べるとアレだが、勇者もまた存在としての格が他のものとは違うのだ。故に世界を跨ごうが転移ごときで酔うことなどないのである。それを理解しているからこそ側近は忌々しそうに勇者を睨みつけるのだった。


「そもそもだ、魔王様は下等種の考えなど理解される必要などないから問題ないが、なぜ貴様が傍にいて最低限の設備が整っていないのだ」

「うぐっ……いや、俺も経営なんてしたことないし……俺の旅の時はもっと過酷だったし」

「貴様と下等種を一緒に考えている時点でありえん。腐っても貴様は勇者なのだぞ。脳に綿でも詰まってるのか?」

「すみません……」


 正論過ぎてぐうの音も出ない。勇者は自覚はないが人間を辞めてる側なのだ、一緒にされては一般人が可哀想である。


「ああ、そういや錬金術師であるお前が復活したなら魔王もポーション補充しなくて済むようになるのか?」

「はぁ…………」

「なんだよ深いため息ついて」

「貴様は本当に無能だな。魔王様が望まれるならそのような雑事も厭わないが、そもそもの話だ。自動補充するシステムを構築すれば解決するはずだろう」

「え?」

「うむ、我も側近に言われるまで全く気付かんかったわ。ワハハハ!」


 魔王の有り余る魔力で強引にシステムを構築してしまえば、下級ポーション程度勝手に在庫を作成して補充される自販機にすることなど容易である。むしろなぜ今まで手動でやっていたのか……これが分からない。実に無駄極まる。ちなみにだが魔王が本気を出せば最上級ポーションですら同じことができる。流石にチート過ぎる。


「魔王様はこのような雑事考える必要がありませぬ故。全てこの無能ネズミが悪いのです」

「そういうがな、これは我のダンジョン。我が人間どもを楽しませるために作ったエンタメなのだ。我も考えが及ばなかった責はある」

「申し訳ございません。差し出がましい発言でした」

「よいよい、我はやるからには徹底的にやる。人間どもを我が作る最高のダンジョンで持て成してやるのだ。故に知恵を貸してくれるな側近よ。我にはお前の力が必要だ」

「も、勿論でございます! 不肖ゼルディウス、魔王様の作るエンタメを発展するために知恵を絞りましょう」

「うわぁ、感極まって泣きそうになってる。きもっ」

「ぶっ殺すぞネズミが!」

「ちょっ! 本気で殺そうとしてくるな! 爪を引っ込めろ!」

「お主ら本当に仲が良いな」

「良くない!!」


 魔王は我にも勇者に対する時くらい砕けた喋り方をしてくれて良いのだがな、と独り言ちる。まぁ側近の性格上不可能だと分かっているので本人には言わないが。魔王にため口なんてしようものなら切腹しかねない。


「お、そういえば勇者よ。ついに五階層のオークを討伐した者達が現れたぞ」

「お! すげぇな。売り出されたドワーフ武器防具のおかげか?」

「いや、あれらの販売はオーク討伐後だ。そうだったな側近」

「はっ、ボス討伐の報酬の一つとして実装、という形でしたので」

「へぇ。やるじゃんそいつら。一般人でもこの短期間でオークを倒せるもんなんだな」

「う~む。奴らを一般人と評して良いのかは疑問だがな」

「なんだそれ?」

「オークを倒したのは自衛隊チームだ」

「え、それって魔王的にありなの?」

「ふむ、仕事としてならあまり快くないが、奴らは休暇を利用してダンジョンに潜っていたもの故な。問題ないだろう。武器も手斧に鉈と平凡なものだったしな」


 自衛隊の中にも任務の一環としてダンジョン内素材を採取しているチームは居る。だがオークを倒したのはあくまでファンタジーを楽しみ、休暇を合わせてダンジョンに潜った者達なのである。流石にそれにケチをつける程魔王の心は狭くない。


「今後の為、日本政府を通して、軍務に関わる人間が業務としてダンジョンの最下層攻略をすることは禁止と伝えている。今回のように趣味として行うのは別だがな」

「それ判別できるのか?」

「我魔王ぞ? 出来ぬと思うか?」

「さすまお」


 勇者は考えるのをやめた。魔王ができると言えばできるのだ。多分違反しようとしたらダンジョンに潜れず出禁になるのだろう。転売ヤー達と同じだ。転売ヤーと同列に扱われる軍関係者とは。


「どうする? 高額とはいえダンジョンの稼ぎがあればドワーフ製の武器防具を使う人間も増えてくるだろうし、オークぐらい簡単に突破する人が増えてくるんじゃないか? 新しい階層作るか?」

「間抜けが、もう魔王様がお創りなられている」

「うむ、といっても今回は側近の案を丸々採用した形だがな」

「え!? 側近の案!?」

 

 勇者は魔王城の仕掛けを担当していたのが側近だと知っている。あの悪辣な罠の数々を用意した男の案とかろくな事にならないだろう。そう思っていたのだが。


「あれ、まともだな」

「当然だ。魔王様の意志を汲めぬほど愚かではない」


 今回追加されたのは六階から十階までで、五階までと違って洞窟型だった。薄暗いが、天井に一定間隔で配置されている光鍾乳石が光り輝き洞窟内を照らしているため、照明器具などは用意する必要はない。

 モンスターは四階層までの派生であるゴブリンファイター・ゴブリンアーチャー・ゴブリンメイジ等のゴブリンの強化種、それに天井を這うアシッドスライム。階層が進むとホーンラビットやコボルト等獣型のモンスターが出てくるようになっている。草原型の方が似合っていただろうが、ずっと草原型では飽きが来るだろうとの考えと、獣型の方が側近には微調整しやすいから手始めにとのことのようだ。「お前も獣だもんな」と軽口を叩いた勇者の首元には側近の爪が添えられていた。モンスターと同種扱いされるのは流石に許されないらしい。


 十階はグレイウルフ十体との集団戦。一体ごとの能力はオークとそんなに差はないが、数の暴力の怖さは勇者も身に染みて理解している。しかもウルフ種は魔物の中でも特に連携に長けている。これは全身ドワーフ製の武器防具で固めた冒険者達も苦戦するだろうな、と勇者は思った。


「採取は何ができるんだ?」

「マジックポーションの原料であるマジックキノコ、そして闇属性の魔晶石、それから光鍾乳石だ。ゴブリンから稀にドロップする武器が売り出しているドワーフ製の物より上位にし、また金属すら溶かすアシッドスライムの粘液も活用できるだろう」


 ちなみに、これまでの階層で取れた魔晶石は風属性だ。既に風力発電に利用できないか研究されているとか。闇属性の魔晶石はエネルギー利用というよりは軍事利用で活躍しそうだが。その危険性は側近しか理解していない。魔王にとって大事なアニメは日本で作られており、その日本は魔王が居る以上戦火に巻き込まれることはないから問題ないだろうという判断だ。


「こっちの人間は魔法使えないだろう? マジックキノコ需要あるのか? まぁ向こうでは珍味としても人気はあったけど。焼いて食うと上手いんだよなぁ」

「そうだな、勿論食料としても使用できる。だが、あれは魔力回復だけが効果ではない。研究すれば精神に干渉する薬品を作れるだろうな」

「へ~、あれそんな効果もあるんだ」

「使い方次第だがな」


 勇者は旅の最中にそこら辺に生えているマジックキノコを空腹を満たすためにしか使ってこなかった。普通に食べるだけでも多少は魔力は回復するが。回復魔法以外は剣一つで戦ってきたうえ、豊富な魔力を有していたため、そこまでマジックポーションのお世話にならなかったのだ。


「ふむ、こちらの人間も魔法を使えるようにするか?」

「それ楽しそうだな! 十階層を攻略した報酬にしたらどうだ? 勿論いきなり強力なものが使えるんじゃなくて下級魔法からな」

「ふむ、では人類が十階層を攻略すれば、ダンジョンに入ることで魔法の才が開花するようにしよう。まぁこれに関しては個人の才に左右されるであろうが」

「まぁ向こうでも誰でも使えてたわけじゃないしなぁ」


 政府の人間が聞いていたら冷や汗を滝のように流しているだろう会話が為されているが、ストッパーは居ない。側近は魔法の開花は為政者が苦労することを正しく理解しているが、魔王が楽しそうなので止めるつもりはない。極論、側近にとって人類がどうなろうがどうでも良いのだ。魔王達と違い、アニメにも興味がないし、何が楽しいのか分からない。ただ魔王が楽しんでいるから、尊重はする。それだけだ。


「だが魔法を使う試練としてはグレイウルフは役者不足ではないか? やはりここはドーンとドラゴンを配置しようぞ!」

「大変良い考えだと思います」

「んなわけあるか! やめろやめろ! 余計なことすんな! 側近、テメェはマジで魔王全肯定をやめろ!」

「魔王様の考えに間違い等あるはずなかろう」

「こ、こいつ……」


 側近は盲目なわけではない。きちんと何が起こるか理解している。その上で魔王の考えを肯定する。結局この男にとって魔王以外はどうでも良いのだ。同じ魔族達ですら。魔王かそれ以外か、そんな区別しかない。勇者は忌々しいネズミという別枠だが。

 かくしてダンジョン経営に側近という頼りになる、だがある意味魔王以上に倫理観のない男が加わったのだった。

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