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第一章1 鉄路の響きと、初恋の残響

最後まで読んでくださると嬉しいです!

「……ゆい、です。よろしくお願いします」

教壇に立った少女が、控えめに、けれどもしっかりとした声でそう告げた。


その瞬間、僕——たくみの心臓は、まるで急ブレーキをかけた貨物列車のように激しく軋んだ。

(この声だ……。間違いない)

家で、布団に潜り込みながらイヤホン越しに聞いていた、あの透き通った声。


オープンチャットで僕が唯一と言ったら過言になるが、素の自分を見せられる相手。『ハル』というハンドルネームの彼女が、今、目の前に「結」として立っている。


「たくみ君、どうしたの? 震えているわよ」

隣の席から、ユキが囁くように声をかけてきた。

彼女は生徒会長として、転入生を迎えるために僕の隣の席——「副会長」の指定席に座っている。

「いえ……なんでも、ありません」

「そう? まるで、あの子のことを前から知っているみたいな顔をしているけれど」

ユキの瞳が、深淵のような暗さを湛えて僕を見つめる。


僕は慌てて視線を黒板に戻した。

そうだ、学校にスマホは持ってきていない。確認する術はない。でも、この感覚だけは確信に近い。


休み時間になると、案の定、健斗が僕の席に飛んできた。

「おい、拓海たくみ! 見たかよ、今の! 結さん、めちゃくちゃ可愛いじゃねえか!」

「……ああ。そうだな」

「お前、さっきから反応薄いぞ? もしかして、あんな美少女が来るとは思ってなくてフリーズしてんのか?」

健斗は僕の肩を叩いて笑うが、僕の視線は教室の隅でクラスメイトに囲まれている結に釘付けだった。


彼女は困ったように微笑みながら、時折、手持ち無沙汰そうに自分のカバンのキーホルダーを触っている。

それは、小さな電車の形をしたストラップだった。

僕がオプチャで「これ、格好いいよね」と画像を上げた、期間限定の記念モデル。

(……やっぱり、彼女なんだ)

胸が熱くなるのと同時に、言いようのない不安が襲う。


「ねえ、副会長」

ふいに、ユキが僕と健斗の間に割って入った。

彼女はいつの間にか、結が持っているのと同じ電車のストラップを、指先で弄んでいた。

「その『鉄の塊』、そんなに面白いの? 私には、ただ冷たくて、決められたレールの上しか走れない、不自由なものに見えるけれど」

ユキの微笑みは完璧だった。

けれど、その背後にある窓から差し込む光が、彼女の影を異常に長く、鋭く床に引き伸ばしている。

「レールがあるから、迷わずに済むんです。……会長」

「ふふ、そうね。……迷子になったら、私が捕まえてあげる。どこへも行けないように、しっかり繋いで」

ユキの手が、僕の腕に重なる。

冷たい。


中学2年生の、何の変哲もないはずの教室。

なのに僕は、足元の床が巨大な魔法陣に変わっていくような、底知れない恐怖に震えていた。


最後まで読んでくださりありがとうございました!また別の作品や次の話も読んでくださると嬉しいです!

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