短編その2 霊能者
三浦「私ね、幽霊が見えるの。もう、すごくはっきり見えるから、時々生きている人と、幽霊と間違うくらい。」
飲み屋でたまたま隣のテーブルになった若い女性が言った。名前は三浦さんというらしい。われわれも、まだ20代になったばかりで若かったので、だいたい同じくらいの年齢だろうと思う。
その時、私は会社の後輩3人と連れ立って、週末の居酒屋で食事をしていた。たまたま、となりのテーブルになった3人連れの女性グループの一人がその三浦さんだった。
羽田「そう、この子ね本当に見えるみたいなの。」
三浦さんの友人の羽田さんが言った。
その女性3人組は、三浦さん、羽田さん、浦野さんといった。私は、田中という名前で、私の後輩はそれぞれ、西田、梶原、相馬といった。
田中「じゃあ、三浦さんはそのなんていうか、背後霊みたいなものも見えるの。」
三浦「見えますよ。」
少しわれわれの席がざわついた。羽田さんは、あきらかに三浦さんのその特殊能力を信じ切っているようだった。
西田「じゃあ、例えば、田中さんの背後霊は誰とか、何を言っているとかわかるんですか。」
三浦「ええ、もちろんですよ。」
田中「じゃあ、僕の後ろには誰がいるんですか。」
三浦「いやー、じつは私はこれで食べているので、ちょっと無料ってわけには。」
なんか、少し胡散臭い匂いがしてきたが、話を続けた。
梶原「じゃあ、いくらくらいで観てもらえるんですか。」
三浦「じゃあ、せっかくこうやって知り合ったから、3千円でどうですか。」
田中「それって、高いんですか。安いんですか。」
それに対して、もう一人の女性が答えた。
浦野「通常なら、時間制で5千円から占っているんです。この子は、かなりこの業界では有名なんで。」
どうやら、この浦野という女性も、三浦さんの能力を信用しているようだった。
西田「まあ、話のネタに、割り勘で田中さんを占ってもらいましょうか。」
相馬「まあ、割り勘ね。いいよ。」
梶原「西田を占ってもらおうよ。俺はいいよ。」
西田「いやいや、田中さんが一番年上なんだから。」
田中「お前、1歳しか違わねえじゃんか。」
結局、全く気ノリしなかったのだが、私の背後霊というやつを見てくれるらしい。そもそも、背後霊ってなんなんだよ。その疑問を、そのまま口にしてみた。
田中「そもそも、背後霊ってなんなんだよ。」
三浦「背後霊というのは、あなたの後ろに憑いている霊で、あなたを守ってくれている霊です。通常は、すでに亡くなった肉親です。」
なるほど、と思った。そもそも、ご先祖様にどんな人がいるのか、さっぱりわからなかったので、検証のしようもなかった。
三浦「それじゃあ、見てみますね。えっと、ああ、かなり高齢の女性が見えますね。」
田中「はあ、女性ですか。」
実はその時点で、私の母方のひいばあちゃんは生きていたのだが、ちょっとカマをかけてみた。
三浦「ええ女性ですね。おそらく、あなたのお婆さん、もしくはその上の世代の方かと。」
田中「ああ、うちの母方のひいばあちゃんかもしれないですね。僕のことすごい可愛がってくれましたから。」
そもそも、母方の実家は九州にあるため、私は幼少のころから、ほとんど行き来がなかった。ひいばあちゃんがまだ生きているということは知っていたが、確か5歳くらいのときに一度会ったきりで、顔も忘れていた。
三浦「ああ、そうみたいですね。お母さんのほうの、ひいおばあちゃんだと言ってます。」
私は少し大げさに驚いてみせた。
田中「ええ、ひいばあちゃんなんですか。いやー、会いたかったな。なんて言ってますか。」
三浦「そうですね。足のケガは治ったかい、って言ってます。」
確かに、先日駅の階段で足をひねっていた。右の足にはサポーターをしていたのである。
田中「ほかには、ひいばあちゃん何か言ってますか。」
三浦「ええ、たまには田舎に帰ってきなさいって。」
確かに、田中は九州の母親の実家には長らく帰っていなかった。だが、先日久しぶりに、九州の叔父に用事があり、その時に叔父が携帯電話をスピーカーにしてくれた。その際に、ひいばあちゃんとも少し喋ったが、そんなことは一言も言っていなかった。そもそも、なんで生きているひいばあちゃんが、私の背後に霊として憑いているのだろうか。
田中「そっかー、それはお墓参りに来なさいってことですね、多分。」
三浦「そうですよ。ちゃんと、お墓にまで会いに来て欲しいと言ってますよ。」
お墓にいかなくても、九州の叔父の家で会えるのにと思った。
田中「あと、何か言ってますか。うちの母とかに、何か伝言とかないですか。」
三浦「ええ、あなたのお母さんには、交通事故には気を付けるようにって言ってます。」
田中「それは、交通事故に遭う可能性が高いってことですか。」
三浦「そういうことです。くれぐれも、車の運転には気を付けるようにと言っております。」
ちなみに、母は数年前に乳がんで亡くなっている。しかも、うちの母は自動車の免許証を持っていなかった。私の背後霊との会話はそこで終わった。私は、三浦さんにお礼を言って、謝礼の3千円を支払った。
羽田「ねえ、すごいでしょ。」
田中「いや、母にも、車の運転に気を付けるように言っておきます。」
西田「あれ、でも田中さんのお母さんって、もうガンで亡くなってますよね。」




