第1話 突然の異世界転移
俺は御越神 天虎。やたら神々しい名前と瞳が赤いという点以外、どこにでもいる普通の高校生だ。
「ふぅ、今日も疲れたな...」
放課後。俺はいつものように帰宅して、無言でゲームを起動する。
その画面の中では勇者が敵を倒し、世界が救われていく。
――けど、現実の俺は救われてなんかいない。
「ハァ...つまんねぇ。俺も一度でいいから大冒険して見たいなぁ。」
そう呟きながらゲーム機を置く。
俺は一人暮らしで、学校が終わってからは家でひたすらゲームに明け暮れていた。現実逃避だ。
友達も家族もいない。里親のじいちゃんは、高校入学前に他界し、気づけば誰とも話さない日々が続いていた。
5歳で里親に出され、実の親は生きているらしいが、なぜかその記憶はない。
俺にとって、これといった刺激も楽しみもない、平凡で平和な世界は退屈でしかなかった――。
「...今日も行きますか。」
だから俺は夜になると、近くの山にある古い神社へ行く。
明かりひとつない石段を登り、境内の真ん中で目を閉じる。
神社みたいな神聖な場所で瞑想でもしてたら、何か不思議な能力でも手に入るんじゃないかと期待していた。厨二病の俺にとって、現実逃避にはうってつけの場所だ。
「ふぅ〜。俺は神...俺は神なんだ...」
そうブツブツ唱えながら妄想に耽るのが、俺のルーティーンだった。
「すぅ〜〜、ふぅ〜〜。」
深く息を吸い、そしてゆっくりと吐き出す。
いつもみたいに何も起きやしない。そう思っていた。
その時だった。
〈――神になりたいのか。〉
突然、女の声が頭の中で響いた。ぞくりと背筋が震える。
「え...誰だ?...幻聴?」
〈力が欲しいか?退屈しない日常が欲しいか?〉
静寂を切り裂く声。
「いや、幻聴なんかじゃない...」
はっきり聞こえる。なんとも胡散臭いセリフだ。
だが、俺の心は一瞬で反応していた。
「ほ、欲しい...欲しいですとも!神よ!!」
俺は目を輝かせて叫んだ。得体の知れない声に、俺は恐怖するどころか興奮する。
〈そうか。だが、力を手にするのも、退屈でない日常を送るのも、すべて自分次第だ。覚悟は出来ているな?〉
「で、できてます!!なんなら魂も捧げます!!だから――。」
俺が言い終わる前に、
――パァァァッ...
と、突如世界が白く弾けた。
視界が焼ける。物凄い"気"を感じる。圧に押しつぶされそうだ。
そして、俺の身体が神々しい光に呑まれ、音も感覚も奪われていった。
(感覚が...何も見えない、聞こえない。な、なんだ...これ...!)
意識が遠のく中で最後に聞こえたのは、あの女の声。
〈――ようこそ、プレイヤー。〉
◇◇◇◇◇◇
〈プレイヤー名:オコシノカミ テンコ
年齢:▋▋歳
役職:魔神王
特別役職:主人公
⇒この世界の主人公。
特別能力:主人公
⇒特別能力は特別役職のみ持つことができる能力。主人公は世界を変える力を持つ。詳細は不明。
独自能力:創造者
⇒あらゆる物を創造すことができる。
追加能力:破壊者
⇒あらゆる物を破壊することができる。
プロフィールを認証しました――。〉
◇◇◇◇◇◇
しばらくすると、突然目の前が眩しくなった。
「うわ!?...こ、声がでる!?」
恐る恐る目を開けると、下に石の地面が見えた。
(...境内...なんだ、夢かよ。)
そう思って周りを見渡すと、何かがおかしい。
「...!?」
ハッと気がつくと、俺はゲームでいうダンジョンの最奥部のような、薄暗く広い空間にある玉座に、ボロボロの服を着た状態で座っていた。
その目の前には、何やら王族とその従者の様な格好をした人たちが立っている。
そして、
「魔神王陛下。この度はお目覚めされましたこと、深くお喜び申し上げます。」
と、王様のような人が話しかけてきた。
(ん?魔神王?えっ、こ、ここどこ...)
突然の出来事に俺は困惑したが、まずは冷静に状況を整理しようとした。
「え〜、目覚めたというのは?」
「ははぁ、5000年の眠りから目覚められたのだ。覚えておられないのも無理は御座いません。陛下は5000年前、宮殿の地下で深い眠りにつきました。
そして今、5000年の時を経て、陛下が目を覚まされたのです。」
(うん、さっぱりわからん。よけい混乱してきたぞ...)
俺がそんな事を考えていると、急にズキンっと頭に電気が走った感覚がして、声が聞こえてきた。
〈おはよう、我はラ...ん゛ん゛っ、ゲームマスター。この世界の創造主にして管理者だ。〉
神社で聞いた声と同じだ。
(ラ?)
〈この世界は我が作ったゲーム。お前は選ばれし者、『プレイヤー』だ。〉
どこか少女っぽい声が頭に直接響く。同時に、大量の情報が脳内に流れ込んできた。
(うっ!?なんだ...ゲーム...プレイヤー...地球に似た、別の世界...異世界...?)
どうやら俺は異世界に転移したらしい。まぁ転移というより、乗っ取りと言うべきか、どこか中途半端なところから始まっている気がする。
だが、そんなこと考える暇はない。
(理解。違和感。なぜかこの世界を受け入れられてる。なぜかわかる...この世界の仕組みが。)
俺の頭にはこの世界の仕組みが流れ込んでくる。なぜか、遥か昔からこの世界にいるような感覚が全身を駆け巡った。
どうやらこの世界は、ゲームマスターを名乗る存在が娯楽のために作った世界だそうだ。
この世界では、一部の存在が『スキル』という特殊能力を与えられるらしい。
だが、知ることができたのは、ゲームを始めるための必要最低限の情報のみ。まだまだ、わからないことだらけだ。
(なるほど...主人公...俺、本当に異世界に来たんだ!実感が湧かないけど、異世界主人公といえばチート、隠れ最強だろ?俺が夢にまで見たシチュエーションだ!!)
「ん゛ん゛っ、我が目覚めたことを民は知っているのか?」
しかし、俺は状況を飲み込むと、今こそ日頃の妄想の成果を発揮する時と言わんばかりに、王様口調で話し始める。
「いえ、元々貴方様の存在も伝説のようなものになってまして、お目覚めの話などは皇族しか知りません。」
「それで、我はこれからどうすれば良いのだ。」
「陛下は国の象徴として、古代より君臨して来られました。この国のトップとして、政に直接関わることはありません。
我ら皇族が統治を行い、陛下はただ"在られる"だけでよいのです。」
(なるほど...俺たちの世界で言うところの天皇みたいなものか。)
皇帝の言葉を聞いて、俺はそう考える。
そして皇帝は続けて、
「陛下がこの国に存在する。ただそれだけで、民は争いを控え、他国は侵略を思いとどまります。それこそが、魔神王という御役目にございます。
ですが、陛下のご意向は絶対。ご自身の意思で、なさりたいことをなさればよいのです。」
と、説明する。記憶がないことを察したのか、気を使ってくれているのがわかる。
(象徴か。悪くないが、それでは少々物足りないな。やはりここは...)
「そういうことなら、我はこの世界を知るための旅をしたい。」
「!?...左様でございますか。」
俺の意見に、皇帝は少し困惑した表情で話を聞き入れる。さすがにこの意見は予想外だったようだ。
「我は民の生活とやらに興味がある上、この世界のことをもっと知りたい。故にしばらくは旅に出る。だが、何かあったときは戻って来るため安心しろ。」
「わ、わかりました。貴方様の御心のままに。」
しかし、俺は行き当たりばったりで、なんとかその場をやり過ごすことが出来た。
その後、俺は旅に出る前に皇帝に連れられて、皇室まで行く。するとそこに、1人の少女がいた。
同級生くらいの見た目に綺麗な顔立ち。隊服の様な服に剣を腰に刺し、こちらを見ている。いや、見ていると言うより睨んでいる。
凛々しいという言葉が良く似合う姿だ。
(なんだか緊張するなぁ。)
そんなことを考えていると、
「魔神王陛下。旅に出られる前に一つお願いが御座います。」
と、皇帝が話し始めた。
「貴方様の旅に、ここにいる私の娘であるマヨを連れて行ってくれないでしょうか?」
「な、なぜだ?」
俺は少し動揺しつつ、疑問を投げかける。
「えぇ、旅に行かれるというのであれば、護衛とカモフラージュ用の仲間が必要かと思いまして。マヨのいい修行にもなりますし、何より我々には魔神王陛下にお仕えする義務が御座いますので。」
(いきなり2人切りは緊張するなぁ。)
俺はそう考えつつ、
「ふむ...わかった。」
と、皇帝に言われるがまま、俺は申し出を承諾した。
そして諸々の準備を整えると、俺はマヨを連れて外へ向かった――。
宮殿の外に出ると、そこにはザ・異世界と言うべき空間が広がっていた。
ここ、大魔ミルキーウェイ神皇国は比較的平和で豊かな帝国らしい。宮殿の周りは緑に囲まれており、なんとものどかな雰囲気だ。
「あなた本当に伝説の魔神王様?」
俺が少しボーッと異世界の空気を堪能していると、マヨがいきなり話しかけてきた。
「え、まぁ、そうだが...」
人と話し慣れていない俺は、少しキョドりながらも魔王口調で答える。
「その話し方やめなさいよ。無理してるのバレバレよ。」
だが、マヨにそうバッサリと切り捨てられたので、
「うっ...バレてたのか。で、なんでそんなに疑ってんだ?一応魔神王だぞ。」
と、俺は普通の口調に戻した。
「いや、魔神王って世界に4柱しかいない、魔王や神王よりも恐ろしい伝説の存在よ。その魔神王が目覚めるからって言われて見てみれば、私と変わらないくらいのマヌケそうな男の子だったとき、どう思う?」
「ぐっ、一言余計だけども、確かに...」
マヨの鋭い一言に、俺は核心を突かれたような気がして、言い返せなくなった。
それにしても言葉遣いが皇族のそれとは思えない。
「俺と旅するの、不安か?」
俺は少し心配になってそう尋ねる。
「い、いや、別にそう言う訳ではないわよ。むしろ魔神王が親しみやすそうでホッとしてるわ。伝説に書かれていた魔神王は、優しさはあれど恐ろしい存在だったもの。」
(なんだ、もしかしてツンデレなのかコイツ。)
だが、案外悪いやつでもなく、むしろ典型的なヒロイン像に少し感心した。
そして、
「で、名前は?魔神王じゃ流石にダメだろうから。」
と、話題をそらして質問をしてきた。
「あぁ、そうだったな。俺はテンコ。よろしくな。」
そう言うと、俺はそっと手を差し出す。
「テンコ...まぁ、こちらこそよろしく。」
それに応えるようにマヨも手を出し、俺たちは握手を交わした。
マヨの黒髪が風になびいている。その風は、まるで俺の異世界での新たな人生を、祝福しているようだった。
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
マヨ:大魔ミルキーウェイ神皇国の第一皇女。性格は真面目だが、皇女として過ごしてきた反動で素が出る場面もある。意外と間が抜けている。




