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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夕焼け短し遊べよ少年

作者: 丘上



 「……来週までに提『ガラガラ』なっ、なんだねキ『パンッ』」


 放課後まで秒読みだったホームルームに、銀行強盗コントで見たことある目と口があいたマスクを被った闖入者。

 その人物は床に倒れた死体を一瞥(いちべつ)もせず、拳銃を腰のホルスターに収めて壇上に立つと、無言で背後右上、スピーカーを指さした。


 『生徒諸君、突然申し訳ない。我々はライテイノチカイ、諸君に目的を語る意味はないので簡潔に述べる。この学校は我々が占拠した。諸君はそのまま席に座っておとなしくしていてくれたまえ。暴れたり、交渉相手の聞き分けが悪い時は運が無かったと諦めるように。以上』


 へぇー。ライテイノチカイ、雷帝? テイって庭みたいな漢字もあったような。まぁなんでもいいか。

 席を立って壇上に向かって歩く、途中で席を立った森脇が俺に駆け寄り腕を掴んだ。


 「越野バカヤロコノヤロ、いきなりイカレた命令無視するスーパーイカレムーブやめろや」

 「お前もガッツリ無視してんじゃん」

 「オレは止める側だからそこのマスクマンも見逃してくれるわ。むしろ今オレはベタテログループの一員になった気分だわ」

 「テヘペログループって聞こえて苛つくサークル活動想像しちゃったじゃねーかストックホルム症候群RTA暫定世界一位おめでとう。開始一分で被害者が加害者に同調するってそれは一般的にグルって言うけどな」

 「どこに申請したら認めてもらえるんだよ申請しねーよ。そうじゃなくお前はなにやってんだってハナシだろうが」

 「帰宅部だから帰るに決まってんだろ。野球に誘うつもりか俺は磯野じゃなく越野だぞ中嶋ぁ」

 「オレも中嶋じゃなく森脇だし野球部でもねーよ。てかハ? この状況で帰るってハ? マジに言ってんの? お前カツオじゃなく止まると死ぬマグロですか」

 「帰らない帰宅部はただの……何?」

 「カッコつけようとして墜落すんな。帰っても帰らなくても帰宅部はただの無所属だろーが辛くないカレーもあるっつーの」

 「お茶っ葉きらして白湯で食べたお茶漬けは果たしてお茶漬けというのかこの難問がお前に解けるのかよ」

 「おかゆだ」

 「カッチーン今テメェは踏んではイケナイ地雷をスタンプしました。野球部やサッカー部が走り込みしている時に『陸上部ファイトー』て応援してやろうか? 生きとし生けるものは最終的には家に帰るんだから帰宅部なんだよ汗だく鼻水たらして食うカレーもあると知れ」

 「ん? あぁ華麗をかけたのか分かんねぇよ」


 なんの議論かって? 俺にも分からねーよ。クラスメート共、引いた顔止めろ。慣れてるけど心の傷は一生消えないんですよ?

 そして壇上に立つヤツも俺たちに向かって歩き始めた。が、気付かないフリして漫才を続ける。


 「てか全員死体をスルーしてんのジワる。いくら人望ゼロだったとはいえ担任死んだら悲鳴くらいは上げてやれよ女子ぃー?」

 「女子頼みすんな。てか意識して無視してたんだから取り上げ(トピックす)るなよ。なんだよアイツ、覆面被って銃持ったヤツが教室に入ってきたらドッキリじゃない限り誰何(すいか)したら撃たれるに決まってんじゃん何『そんなバカな』顔してんの? いきなりの悲劇だったけど『でしょーね』って心の声が教室にエコーして放送聴き逃すとこだったわ」

 「アイツ行間(くうき)読めねータイプだったんだな現国向いてねーじゃん早めに異世界転生できてラッキーってポジティブに受け取ろうぜグッバイ。あと女子ぃ、肩をプルプル震わせるの止めろソレ死体蹴り」


 「オイっ、さっきから━━」


 「はいオツカレー」

 「カツカレー」

 「「華麗なるココイチバーン」」


 不審者が至近距離、横から声をかけてきた瞬間、ノールックで俺がソイツの右脇に左腕を差し込み、同時に森脇がソイツの左脇に右腕を差し込み、ツープラトンで机の角に頭を叩きつけてからビクンビクン痙攣するまで二人で殴ってみた。コイツはもう人を殺したからコッチも手加減一切なしだ。


 放送前は他の教室からも発砲音が聞こえたけど、放送後は押し殺した悲鳴が重なるざわめきだけ。つまり人質らしい俺たち学生は簡単には殺さない。少なくとも、交渉とやらが始まってから効果的に命を扱うつもり、なんだろ? じゃあ教師(おとな)と違って俺は今は多少目立っても即座に射殺される心配はない。コッチから近寄ると警戒されるならアッチから無警戒に(ノコノコ)近付くよう仕向ければいい。

 まったく、頼れる者は同じ帰宅部のチームメイトだぜ。


 「腕はナマってねーみたいだな越野」

 「俺が何本ギャルゲー攻略したと思ってんだ選択肢は間違えねー」


 こういうイカレた連中を相手に従順も反発も(ベタなたいどは)ゲームオーバーだぞ。ぶっ飛んだ第三の選択肢を常に用意してくるギャルゲーマジ神。


 俺は倒れた敵をあごで示して言った。正確には拳銃と肩にかけていたアサルトライフルだけど。


 「俺はリーダーをやる。三下とのドンパチは任せていいか?」

 「オレが何回FPSのチャンピオンとってると思ってんだ。別のクラスの石川と佐々木も解放してスリーマンセル組んじゃえば余裕」

 「クックック、帰宅部総力戦だな血が騒ぐ。でも油断すんな。普通は体育館に集まってるトコを狙うのにコレだ。一教室に一人としても相当な数が侵入しているってことだな」

 「お前の普通ってなんだよ場数踏んでる顔すんな。数が多くても散ってるなら各個撃破の基本でどうとでもなるわ。ソッチこそ丸腰で行く気か?」

 「俺がどんだけスネークになりきってきたと思ってんだ。段ボールがないのがちと不安だが、まぁ大丈夫だろ。スニークミッションはお手の物だ」

 「リーダーって……、校長室か」

 「家庭科準備室にこもってたらビックリだよな。そこまでイカレてないと信じよう」


 「お前ら……、マジでやるのか?」


 他のクラスメートがようやく機能しだしたか。


 「部活組はおとなしくしてろ。安田、武井、運動部はもうすぐ大会あるんだろ? 怪我して負けたらしょーもねぇ」

 「お前だって……、怪我どころか死んだらどーすんだよ」


 泣きそうな顔すんな。ホラ、女子がすぐ感化されてぐずるだろが。俺はウケ狙いに思いっきりハードボイルドぶってみる。怖いっちゃ怖いけど今意地を張らないでいつ張るんだよ。


 「スポーツってさ、手は使っちゃダメとかこの線からは三点とか、誰かが作ったテキトーなルールの上で勝ち負けを競う遊びだろ? 俺たち帰宅部にそういうルールなんてない。目的意識も勝ち負けもない。現実を遊んでんだよ。だからこういう茶番は任せろ」


 教室最後方に歩きながら言うなり窓を開けて飛び降りた。


 「おまっ、三か━━」


 三階だからどうした。俺が何回シンデルリングで崖からダイブしたと思ってんだ。こんな低さじゃ玉ヒュンもしねぇ。

 外から見ると教室と教室の堺は幅の広いコンクリの壁だから、そこに沿うような俺のダイブが隣りや下の教室から見られることはない。

 廊下側は見張りがいるだろうから外に出るほうか安全だろ。

 

 地上まで三メートルのあたりで壁を全力キック。ベクトルを下から横にズラして空中で側転、スライディングしながら着地。体育の授業でやった受け身が役に立つとは。ズボンがヤベぇが緊急事態だ許せオカン。

 そのまま中腰でコソコソ壁面に戻って一階教室の反応を伺う。誰にも気付かれてないなヨシ。


 ぶっちゃけこーなっちゃえば楽勝だよな。外から校舎を監視するヤツなんているわけない。もしもいたら、そこまで反社人材溢れているならもう治安がどうこうレベルじゃねぇ公安全員クビにしろ。


 校庭から丸見えの不安を悪態ついて誤魔化しつつ、壁沿いに職員玄関方面を目指して忍者走り。

 途中で校長室に到着。そっと中を伺うと……、発見。椅子に体重預けて仰け反ってるのは校長の死体か。来客用ソファーに座ってノーパソ開いてスマホで通話中の後頭部、マスクを被ってないコイツが推定リーダー、と。

 視線を上に向けてチェック。窓の鍵は閉まっているからココから急襲は無理か? いいや、廊下側に周って入口から攻めるほうがムズいだろ。ホラ、敵さん入口向いて警戒してますやん。


 てことで軽く仕込み。

 いったん玄関近くまで進むと、回収業者に渡すためなのか、廃棄される机や椅子が何組か壁際に積まれているから拝借。コソコソ往復して準備完了。行ったりますか。


 ブレザーを脱いで片手で持ち、玄関側から校長室方面に小走り。加速しながら弧を描いて校長室を正面に。軽く跳んで椅子にホップ、机を踏み台にステップ、ジャンプはなくそのまま上着越しにショルダータックルでガラス窓をブチ破ってお邪魔しまーす。


 室内に飛び込みながらガラス片ごと上着を投げ捨て敵をチェック。

 ソイツは振り返りながら脇腹のホルスターから抜こうとしている、から床で一回転して立ち上がってノーブレーキのエルボースイシーダ。ふっ飛ばして距離が開いたからすかさず詰める。


 中Kキャンセル + ↓↘→↓↘→強P + →弱P弱K同時押し


 俺がどんだけ格ゲーやり込んでると思ってんだ。


 敵が床に叩きつけられて呻いている隙に落ちてた拳銃を失敬。ソファーを持ち上げ上半身にズドンと落とす。別のソファーに乗っていた誰かの上着を丸めて、ソファーの下からはみ出る敵の膝にサイレンサー代わりの上着越しに銃口を当てて引き鉄(ひきがね)を引い……、たらロックがかかっていた。ちょっと恥ずい。セーフティを外して改めて両膝にパスン。痙攣している両掌にも同じく。

 主犯を殺すのは不味いとしても、五体満足で逃がす可能性は容認できないっしょ。


 さてノーパソを拝見。ふむ、なにも分からん。全文英語はイジメですか。右下に小さく、なにかしらのダウンロードが進行しているっぽい。止めるにはパスワードプリーズ、流石にこれは読める。他は……、Ctrlと何かを? 出たよデキるヤツが使いこなすショートカットてんこもり。あーイライラするからこうだ。


 HIT☆(「・ω・)「 ((((((((((((


 まったく、俺がどんだけドラムの達人やり込んだと思ってんだ。キーを連打しても画面は変わらなかったがまぁヨシ。パソコン強いヤツどこかにいるだろうし、何か大変なことが起きても責任はコイツらにあって俺たちにはないから知らん。


 耳を澄ますと数ヶ所から微かに発砲音と、それより大きなざわめき。あっちも参加人数増えて派手にやってんな。

 問題なさそうなら帰るか。


 『ウォームアップ終わり、別のモンスターが待ってるから帰る。

                オツカレーパンナちゃん越野』


 机に書き置き残して再び窓から外へ。サンダルのままだけど下駄箱はまだ敵がいたらメンドいし、校舎の日陰で目立たない駐輪場へ。

 今日も一日オツカレーパンナちゃん。


 お待たせ世界中のフレンド。


 さぁ、一狩りいこうぜ。

 

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