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3-­①




 慣れない臭いが鼻を突き抜け目が覚める。

 和風の吊り下げ照明が目に見えた所で、俺は落胆しなければならないことを思い出した。


(あー……、もういっそ全部夢ならって楽観的にいたけど、んなわきゃねーよな……普通に)


 平成7年7月24日、時刻は午前5時。


 昨日は家に戻った後すぐに寝てしまったので感覚が湧かなかったが、一夜明けるとタイムスリップした現実味が嫌というほど帯びてしまう。


 隣で無防備にも眠っている少女を横目に、俺は寝起き特有の朦朧とする意識の中で、この非現実を現実的な解釈で考察し始めた。


 この手のタイムトラベル物は過去を変えるために主人公が送られるのが鉄板。

 現状を踏まえて、恐らくは和葉に関わる何かが話の筋になることはわかる。


(となればやっぱ、小清水家のことだよな……)


 昨日のあれがあるとはいえ、ほぼ初対面の相手にここまで気を許せる要因は家庭環境によるものであろうか。


 無邪気さに隠れたこの承認欲求は、和葉が感じている潜在的な願望なのかもしれない。


 この異常な親子関係を打破するべく、俺が過去に送られたと考えるまでは必然。


(………………う~ん……、でもなぁ)


 だがしかし、そこまで思考したところでそもそも論ではあまり関係ない。


 俺と和葉はそういうところも含めて共に乗り越えてきたつもりだ。


 わざわざ過去に召喚されてまで訂正しなければならないことなのかは甚だ疑問ではある。


 和葉にどんな闇が眠っていようとも、俺の愛は不変であり続ける。

 喧嘩をしたこともあったし、困難もあった。それでも俺たち夫婦は幸せなんだ。


(これ、本人に言ったらはちゃめちゃに茶化されるだろうな)


 俺の至らぬところの事変でもし、元の時代の和葉がずっと苛まれていたのだとしたら、むしろ今すぐにでも慰めてやるべきだとすら思ってしまう。


 それほどまでに過去に送られた理由が思い当たらないのだ。


(はぁ…………………………。飯、作ろ)


 おもむろに起き上がった俺は、やるせなさを隠しもしないで自分の役割を全うするべく炊事場へと向かった。



 ~2時間後 午前7時~



「ふぁ~あ……、木内さんおはよう……」


「おっ、早いな、おはよう。今ご飯作ってるからもうちょっと待ってな」


 細くした目をこすりながら、のそのそと和葉が入場してくる。


「別に早くないよ~、いつも6時には起きてるもん」


「そうか? それはまた健康体で」


(一香が朝弱いから顔も似てるし勘違いするけど、和葉は昔から結構しっかり者なんだよな)


 今思えばこれさえも家庭の影響なのだろうか。


「昨日あのまま寝ちゃっただろ。風呂沸かしてるから、先入るか?」


「うん、いいや。入んない」


「え? おう……、マジで入んないの?」


 小学生ってこういうとこズボラな時ある。


「ていうか! 木内さんって料理できるの!?」


「まあ、ある程度簡単なやつならできるぞ」


「あっ! じゃあさ!! じゃあさ!! 私も手伝っていい??」


「ん? じゃあ冷蔵庫から塩取ってくれ」


「はーい!!!」


 俺の悩みとは裏腹に、このアットホーム感には救われてる部分がかなりある。

 食卓にはスクランブルエッグにハム、レタス、8枚切りパン。一般的な朝食の様相を見せていた。


(冷蔵庫の中、わりと彩ってんだよな。普段から料理とかはしてたのか? コンビニ弁当の空とかもないし)


 育児放棄(ネグレスト)だなんて思っていたから家庭的な側面が垣間見えるのは正直驚いた。


「はい、お塩」


「おう。和葉、スクランブルエッグは塩派だもんな」


「えぇ~、かけないよそんなの」


「あれ? そうなのか? ほい、完成」


「いや~、お塩なんてしょっぱくなるだけじゃない。そんなのがおいしいわけ…………、うんまあっ!!!!??」


(面白いなこいつ)


 芸人さながらのリアクションを見せる和葉に、なんだか俺も少し鼻が高くなる。


 が。


「木内さん!! なんで私がこの食べ方好きって知ってたの!?」


(……え?)


「すごいね!! 天才だね!! さすがだね!!」


「えーと、まあ、うん。そうかな?」


(いや、なんだこの罪悪感。今……ナチュラルに余生のネタバレしちゃったのか? 俺?)


 ひょっとしたら人生への冒涜をしたのかもしれない、そんな朝7時の朝食であった。




 おまけ、はちゃめちゃに茶化す和葉さん(35)


「叶芽君、私のこと好きすぎじゃないですか~~~wwww????????? もしかして2人目ご所望されてたりいたします~~~~wwwww???????? んんんんんwwんw?????????」

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