2-③
「遅かったじゃない。いつまで待たせるのよ!」
俺にとっても馴染み深い広々とした公園の中央に鎮座するのは、ブロンドの長髪をなびかせる和葉と同年代ぐらいの少女。と、大学生ぐらいの男性。
(あぁ、アリスちゃんって東雲さんのことか)
記憶が正しければ俺や和葉と同じクラスの女子リーダー格の子。
「ごめんごめん。でもほら! 私も強力な助っ人連れてきたから!!」
「ええー! だれよ、そのおじさん!? 和葉ちゃんお父さんいないって言ってたじゃない!!」
無神経ともとれるその発言に、男性も窘めに入ってくる。
「こら有栖、そんな風に言っちゃだめだろ。すみません、えと、和葉ちゃんのお父さんで?」
「あ、いや、一応保護者みたいなもんなんですけど」
(今日知り合っただけだけど。……ん? そういうことになるのか?)
「そうなんですね。僕は有栖の父親でして、いつも娘が和葉ちゃんとは仲良くしてもらってて……」
「もう、お父さん!! そういうのいいから!! 今日は和葉ちゃんと対決するの!」
「対決?」
俺の疑問に和葉が答える。
「うん、バレーボールだよ。アリスちゃんがパパ連れてくるっていうから、私も連れてこないとなあって」
「なるほど、それで俺がよかったのか」
(しかし、バレーで大人連れてくるって、相当負けず嫌いなんだなアリスちゃん)
「アリスちゃんね、去年からバレーボールクラブに入ってるんだけど、この前私がたまたま、こう……、ボール拾うやつ? できちゃって、それ以来めのかたきにされてるの」
「大林選手直伝のスパイクが素人に取れるわけないでしょ! あたしは見抜いてんのよ、あなたが実力を隠してること!」
「有栖、テレビの見様見真似は直伝って言わないぞ」
「う、うううるさいっ!!! 知ってるしそんなこと!! お父さんは黙ってて!!」
(な、なるほど……。和葉は昔から天然で運動神経抜群だったからなぁ)
向こうが何やら猛っている内、和葉が耳打ちでの作戦会議を仕組んできた。
「木内さん木内さん。だからね、アリスちゃんにばれない程度に手を抜いて、ギリギリで負ければもう大丈夫かなって思うの」
「それ、ばれたら後が怖くないか?」
「だから、ばれない程度に、だよ!」
頭がいいのか悪いのか理解しがたい作戦ではあるものの、「いい感じに負ける」が今回の至上命題らしい。子供の考えることはよくわからん。
「作戦会議はおしまいかしら? さあ、ゲームスタートよ!!」
(ていうか有栖、初心者と2対2、しかも屋外なんて実力測れないんじゃないか? でも怒られそうだから言わないでおこう)
2話、まだ続きます。