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35歳の俺と7歳の嫁  作者: mixnunu
14話
59/66

14-②




 新たな門出を彩る──、とでもいえば仰々しいが、新天地で心をゆるせる相手がみつかったのは、案外、安心していられるものだ。


(アリスちゃんはスポーツ推薦で他校いっちゃったし、親友枠が叶芽くんだけってのは、そりゃ頼りないわ)


「じゃあね! 和葉ちゃん、また明日」

「うん、また」


 大きく手をあげ、左右にふりまわす彼女に、私も小さくふり返す。

 よく最近、「和葉ちゃんおとなしくなったよね」と、いわれるが、正直自覚はない。

 だが、美々の大口な笑顔をみると、なんとなく懐かしさがはらんでいる気がするのは、私自身、変わった自覚があるからなのかもしれない。


 まぁ、田舎暮らしの平凡層が、電車も使わず通える高校なんて少ないもので、周りもほとんど顔馴染み。

 思春期女子が同い年に「なんか変わった」なんていわれても、なにがなんでもの反骨精神が芽生えるだけで仕方なし。


 いいきかせては、少し大きな息を吐く。

 あらためて言語化すると、ちょっとばかし恥ずかしい。


(そういえば、小中とも別の学校だったのよね、美々。話しかけてきたこと自体、そこそこの勇気だったのかな)


「あ」


 そろそろ家も近くなってきて、中学時代の下校ルートと交わるあたり。

 入学式の下校時間となれば、住宅街を歩くひとのパターンも狭くなるわけで、知った顔がチラホラと。


「珍しいね、ふたり一緒って」

「おお、和葉」

「和葉ちゃん!」


 叶芽くんとアリスちゃん。


 アリスちゃんとは中学で別れてから3年くらい、ちょくちょく学校終わりに遊んでいたりしたけれど、なんだかとても久しい感じ。

 電車で1時間くらいのとこにある、中高一貫の私立校にスポーツ推薦で入学。

 そこのバレー部で1年レギュラーをとったとかなんとかで、とんでもなく、ふんぞりかえっていたのを覚えている。


 数ヶ月会っていないだけでも、すごく背が伸びているように思うし、肩幅も広く、足も太くなっていた。

 叶芽くんも背が高いほうだし、この列に並ぶ150ちょっとの私は、ちんちくりんにしかみえない。

 なんかちょっと疎外感。


「えと……、アリスちゃん帰り早いね。一緒に下校なんて久しぶり」

「そうね。ていうより、電車で帰ってきたあたしと、同じ時間のあんたらが遅いんじゃないの。入学式は部活もないでしょ?」

「ま、俺らは家ちけぇーし」

「まったりしちゃった、っていうかね」


 するとアリスちゃんは「ふうん」と息継ぎした。

 眉をひそめて、私をみてくる。


「で、和葉ちゃん部活はどうするの? やっぱバレー部?」

「うーん……ちょっと悩み中。文化部も興味あるからなぁ」

「えー! いいじゃんバレー部で! 文化部なんてはいったら、こいつみたいに陰気になるよ」

「おい、どういう意味だそれ」


 あ、始まった。

 最近みれてなかったから、ちょっとワクワク。


「あらなによ、本当のこといったまでじゃない。それとも? あたしは全国の女だけど、あんたは? なにか? あるの?」

「う……、……下級生に負けて、スレスレでコンクール落ち……」


 それをきくと同時、アリスちゃんはみるみる高揚感に包まれていく。

 眩いオーラすらみえそうなくらいの顔。

 勝手に感じていた高嶺の花が、一気に崩れた瞬間である。


「ぶふっ、ふふふ……、でも私、叶芽くんの絵、好きだけどね」

「おお! そうだよな和葉、やっぱ見る目あるなぁ、和葉は!」


「え……」


「せっかくならさ、高校は一緒に美術部はいろうぜ」

「あ、たしかに楽しいかも。叶芽くんいたら、退屈はしないだろうし」


「う、あ……うぅ……」


 んー、ちょっとからかいすぎたかな。


「でも、やりたいこともないし、もうちょっと考えてみる。木内さんもいるから、別に帰宅部でもいいし」

「そうね! そうね! 遊びでもバレーはできるもんね。美術部なんかに入らないなら、なんでもいいわよ。こいつと一緒は絶対ダメだから!!」

「そこまでいわんくてもいいだろ!」


 ギャアギャア盛り上がるふたりの横で、私の苦笑もつりあがる。


 しかしアリスちゃん、いくつになってもわかりやすいなぁ。

 小学生の頃から、悪いこといったと思ったらちゃんとへこむし、そのくせすぐに調子にのるし。

 このくだり、もう100回はみてるけど、よく飽きずにできるな、って……──。


 ──あれ、そういえば、叶芽くん以外と喧嘩してるとこ、あんまりみたことないな。

 のに叶芽くんから嫌われるのはイヤみたいだし。

 それに、偶然、帰りが一緒なんだったとしても、アリスちゃん、帰り道、反対じゃなかったっけ。

 私と一緒ならともかく、なんで叶芽くんと……。


「…………」


「だいたい、和葉がなんの部活はいろうが、お前は関係ないだろ! 別の学校なのに」

「あるわよっ!! 同じ地区なんだから、練習試合でも大会でも、やりやすいじゃない!!」


「………………」


 私はこの時に初めて、夫婦漫才という言葉の意味を、理解した。

 理解できたような、気がした。


(アリスちゃんって、叶芽くんのこと好きなのっっ!!?!?)


 私自身、気づくの今更なんだろうな、とか感じてしまって、ほんのちょっとの嫌悪感があった。




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