14-②
新たな門出を彩る──、とでもいえば仰々しいが、新天地で心をゆるせる相手がみつかったのは、案外、安心していられるものだ。
(アリスちゃんはスポーツ推薦で他校いっちゃったし、親友枠が叶芽くんだけってのは、そりゃ頼りないわ)
「じゃあね! 和葉ちゃん、また明日」
「うん、また」
大きく手をあげ、左右にふりまわす彼女に、私も小さくふり返す。
よく最近、「和葉ちゃんおとなしくなったよね」と、いわれるが、正直自覚はない。
だが、美々の大口な笑顔をみると、なんとなく懐かしさがはらんでいる気がするのは、私自身、変わった自覚があるからなのかもしれない。
まぁ、田舎暮らしの平凡層が、電車も使わず通える高校なんて少ないもので、周りもほとんど顔馴染み。
思春期女子が同い年に「なんか変わった」なんていわれても、なにがなんでもの反骨精神が芽生えるだけで仕方なし。
いいきかせては、少し大きな息を吐く。
あらためて言語化すると、ちょっとばかし恥ずかしい。
(そういえば、小中とも別の学校だったのよね、美々。話しかけてきたこと自体、そこそこの勇気だったのかな)
「あ」
そろそろ家も近くなってきて、中学時代の下校ルートと交わるあたり。
入学式の下校時間となれば、住宅街を歩くひとのパターンも狭くなるわけで、知った顔がチラホラと。
「珍しいね、ふたり一緒って」
「おお、和葉」
「和葉ちゃん!」
叶芽くんとアリスちゃん。
アリスちゃんとは中学で別れてから3年くらい、ちょくちょく学校終わりに遊んでいたりしたけれど、なんだかとても久しい感じ。
電車で1時間くらいのとこにある、中高一貫の私立校にスポーツ推薦で入学。
そこのバレー部で1年レギュラーをとったとかなんとかで、とんでもなく、ふんぞりかえっていたのを覚えている。
数ヶ月会っていないだけでも、すごく背が伸びているように思うし、肩幅も広く、足も太くなっていた。
叶芽くんも背が高いほうだし、この列に並ぶ150ちょっとの私は、ちんちくりんにしかみえない。
なんかちょっと疎外感。
「えと……、アリスちゃん帰り早いね。一緒に下校なんて久しぶり」
「そうね。ていうより、電車で帰ってきたあたしと、同じ時間のあんたらが遅いんじゃないの。入学式は部活もないでしょ?」
「ま、俺らは家ちけぇーし」
「まったりしちゃった、っていうかね」
するとアリスちゃんは「ふうん」と息継ぎした。
眉をひそめて、私をみてくる。
「で、和葉ちゃん部活はどうするの? やっぱバレー部?」
「うーん……ちょっと悩み中。文化部も興味あるからなぁ」
「えー! いいじゃんバレー部で! 文化部なんてはいったら、こいつみたいに陰気になるよ」
「おい、どういう意味だそれ」
あ、始まった。
最近みれてなかったから、ちょっとワクワク。
「あらなによ、本当のこといったまでじゃない。それとも? あたしは全国の女だけど、あんたは? なにか? あるの?」
「う……、……下級生に負けて、スレスレでコンクール落ち……」
それをきくと同時、アリスちゃんはみるみる高揚感に包まれていく。
眩いオーラすらみえそうなくらいの顔。
勝手に感じていた高嶺の花が、一気に崩れた瞬間である。
「ぶふっ、ふふふ……、でも私、叶芽くんの絵、好きだけどね」
「おお! そうだよな和葉、やっぱ見る目あるなぁ、和葉は!」
「え……」
「せっかくならさ、高校は一緒に美術部はいろうぜ」
「あ、たしかに楽しいかも。叶芽くんいたら、退屈はしないだろうし」
「う、あ……うぅ……」
んー、ちょっとからかいすぎたかな。
「でも、やりたいこともないし、もうちょっと考えてみる。木内さんもいるから、別に帰宅部でもいいし」
「そうね! そうね! 遊びでもバレーはできるもんね。美術部なんかに入らないなら、なんでもいいわよ。こいつと一緒は絶対ダメだから!!」
「そこまでいわんくてもいいだろ!」
ギャアギャア盛り上がるふたりの横で、私の苦笑もつりあがる。
しかしアリスちゃん、いくつになってもわかりやすいなぁ。
小学生の頃から、悪いこといったと思ったらちゃんとへこむし、そのくせすぐに調子にのるし。
このくだり、もう100回はみてるけど、よく飽きずにできるな、って……──。
──あれ、そういえば、叶芽くん以外と喧嘩してるとこ、あんまりみたことないな。
のに叶芽くんから嫌われるのはイヤみたいだし。
それに、偶然、帰りが一緒なんだったとしても、アリスちゃん、帰り道、反対じゃなかったっけ。
私と一緒ならともかく、なんで叶芽くんと……。
「…………」
「だいたい、和葉がなんの部活はいろうが、お前は関係ないだろ! 別の学校なのに」
「あるわよっ!! 同じ地区なんだから、練習試合でも大会でも、やりやすいじゃない!!」
「………………」
私はこの時に初めて、夫婦漫才という言葉の意味を、理解した。
理解できたような、気がした。
(アリスちゃんって、叶芽くんのこと好きなのっっ!!?!?)
私自身、気づくの今更なんだろうな、とか感じてしまって、ほんのちょっとの嫌悪感があった。




