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35歳の俺と7歳の嫁  作者: mixnunu
14話
58/66

14-①




 大人になって初めて理解できる、というものがある。

 大葉の味とか、社会の仕組みとか、母のありがたみとか。

 まぁ私は、ここらは子供ながらに理解していたと思うけれど。

 なら、この早朝の体育館にて静聴させられる、知らないおじさんの、どうでもいいありがたいご講義も、振り返ればなんらかの糧になるのだろうか。


 チラリと横をみると、半目開きでよだれをたらす、見知ったマヌケ顔がある。

 私はいまさらなんとも思わないが、周りにとっては振り子時計する老廃物なんて、嫌悪感もまた同然。

 BGMもあいまって、眉間に力がはいってしまう。

 自分の右手に視線を落とし、閉じて、開いて、また閉じた。

 それを3、4回くりかえす。

 強く握ると熱がこもって、なんだか力が溢れてくるような気がしてくる。

 そしてそのまま、右手首の骨をでっぱらせ、彼の太ももに思いっきり突き立てた。


「……イ゛ッッ!!?」


 彼のことをなにも思わないわけではない。

 腐れ縁とはいえ年頃の男女。

 好意というか、なんというか……、まぁ、好きなんだとは思う。

 だが、それに対して、どうとありたい、なんてものはない。

 別に一緒にいたいものでもないし、ましてや付き合うなんてもってのほか。

 友達以上の関係を求められても困るだけ。


 この感情こそまさに、大人になって初めて理解したもの、といえる気がする。

 恋愛感情と、他人としての好意を、一緒くたにされたいひとなどいないのだ。


 そう。

 恋愛感情……を、だ。





「ねぇ! 木内くんと付き合ってんの!?」

「は?」


 入学式も終わってすぐ、名前も知らないショートカットの細身な女の子が、私の机に突撃してきたと思えば、トンチンカンなことをのたまってくる。

 このタイプのスポーツカー女子は、どこにでもいるのだろうか。

 さっきまであんなことを考えていた手前、私からでる否定は思ったよりも早かった。


「全然違うよ、ただの腐れ縁」

「えーそうなの? ……たしかに彼、ちょっとアホっぽいかも」

「そうそう、それに私……──」

「……?」

「──ごめん、なんもない」


「ふーん? ……あ! 自己紹介ね! 私、谷口原たぐちはら美々(みみ)、15歳」

「あぁ、小清水和葉……、って、大体みんな15歳でしょ」


 私がそうツッコミをいれると、彼女は満足げに笑みを浮かべた。

 ご期待に添えれたなら、なによりである。


「でもそっかぁ。絶対付き合ってるって思ったのになぁ。じゃあさ! 好きなひと、とかは!?」

「あー……うん、……」

「え!! いるの!!?」


 あ、やば。


「いない、いないよ」

「えー! なにそれ〜。でも和葉ちゃん絶対モテるとおもうのになー」

「私、オシャレとかしないし、おとなしいほうだし、谷口原さんみたいなタイプのほうが、好きになるひと多いんじゃない?」

「え! ほんと!? やー、和葉ちゃんみたいな可愛いひとにいわれると、本気にしちゃうなー、つって」


 彼女は頭をかいて、照れ臭そうにこちらをみる。


「あはは、あと美々でいいよ。じゃあ今度、買い物とかいかない? ふたりで、服とか」

「うん、いいよ。美々はいつがいい?」

「わーい! 次の休みとかかな?」


 とりあえず一安心か。

 図々しいひとだと思ったが、案外、話はわかるっぽい。

 申し訳ない。

 めんどくさいひととしてあしらっていた。




「……」

「ん? どうしたの?」

「……ううん。ごめん、なんでもない」


 改めて恋愛なんて言葉にされると、思ったよりも腹にたまる。

 すべてが、巡り巡って、訴えかけてくる。

 「大人になって初めて理解できる」こと。

 その実。

 その答え合わせ。


 大葉は、どこまでいっても大葉。

 それ以上などもとからない。


 その真意を、私は理解できたのか。




 第3章です。

 懸案編って名前で呼んでます。

 やかましいですね。

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