14-①
大人になって初めて理解できる、というものがある。
大葉の味とか、社会の仕組みとか、母のありがたみとか。
まぁ私は、ここらは子供ながらに理解していたと思うけれど。
なら、この早朝の体育館にて静聴させられる、知らないおじさんの、どうでもいいありがたいご講義も、振り返ればなんらかの糧になるのだろうか。
チラリと横をみると、半目開きでよだれをたらす、見知ったマヌケ顔がある。
私はいまさらなんとも思わないが、周りにとっては振り子時計する老廃物なんて、嫌悪感もまた同然。
BGMもあいまって、眉間に力がはいってしまう。
自分の右手に視線を落とし、閉じて、開いて、また閉じた。
それを3、4回くりかえす。
強く握ると熱がこもって、なんだか力が溢れてくるような気がしてくる。
そしてそのまま、右手首の骨をでっぱらせ、彼の太ももに思いっきり突き立てた。
「……イ゛ッッ!!?」
彼のことをなにも思わないわけではない。
腐れ縁とはいえ年頃の男女。
好意というか、なんというか……、まぁ、好きなんだとは思う。
だが、それに対して、どうとありたい、なんてものはない。
別に一緒にいたいものでもないし、ましてや付き合うなんてもってのほか。
友達以上の関係を求められても困るだけ。
この感情こそまさに、大人になって初めて理解したもの、といえる気がする。
恋愛感情と、他人としての好意を、一緒くたにされたいひとなどいないのだ。
そう。
恋愛感情……を、だ。
*
「ねぇ! 木内くんと付き合ってんの!?」
「は?」
入学式も終わってすぐ、名前も知らないショートカットの細身な女の子が、私の机に突撃してきたと思えば、トンチンカンなことをのたまってくる。
このタイプのスポーツカー女子は、どこにでもいるのだろうか。
さっきまであんなことを考えていた手前、私からでる否定は思ったよりも早かった。
「全然違うよ、ただの腐れ縁」
「えーそうなの? ……たしかに彼、ちょっとアホっぽいかも」
「そうそう、それに私……──」
「……?」
「──ごめん、なんもない」
「ふーん? ……あ! 自己紹介ね! 私、谷口原美々、15歳」
「あぁ、小清水和葉……、って、大体みんな15歳でしょ」
私がそうツッコミをいれると、彼女は満足げに笑みを浮かべた。
ご期待に添えれたなら、なによりである。
「でもそっかぁ。絶対付き合ってるって思ったのになぁ。じゃあさ! 好きなひと、とかは!?」
「あー……うん、……」
「え!! いるの!!?」
あ、やば。
「いない、いないよ」
「えー! なにそれ〜。でも和葉ちゃん絶対モテるとおもうのになー」
「私、オシャレとかしないし、おとなしいほうだし、谷口原さんみたいなタイプのほうが、好きになるひと多いんじゃない?」
「え! ほんと!? やー、和葉ちゃんみたいな可愛いひとにいわれると、本気にしちゃうなー、つって」
彼女は頭をかいて、照れ臭そうにこちらをみる。
「あはは、あと美々でいいよ。じゃあ今度、買い物とかいかない? ふたりで、服とか」
「うん、いいよ。美々はいつがいい?」
「わーい! 次の休みとかかな?」
とりあえず一安心か。
図々しいひとだと思ったが、案外、話はわかるっぽい。
申し訳ない。
めんどくさいひととしてあしらっていた。
「……」
「ん? どうしたの?」
「……ううん。ごめん、なんでもない」
改めて恋愛なんて言葉にされると、思ったよりも腹にたまる。
すべてが、巡り巡って、訴えかけてくる。
「大人になって初めて理解できる」こと。
その実。
その答え合わせ。
大葉は、どこまでいっても大葉。
それ以上などもとからない。
その真意を、私は理解できたのか。
第3章です。
懸案編って名前で呼んでます。
やかましいですね。




