13-④
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「神隠しってね、神様が普通じゃない子を連れ去ってく、って話なんだけど、実際には大人も普通の子供も、いなくなった証言は多いのよ」
「なるほど……。でも現実問題、迷子とか誘拐とかだったってオチだろ。おかしな話じゃなくないか?」
「うん、そう。だからね、神隠し自体にも、人為的なものがあるとしたら」
「……?」
「これは私の推論だけど、例えば、神様は木内じゃなく、別のだれかをつれていこうとしていたとする。この場合、さっきいってた、もうひとりのひとね」
(鮫島さんか……)
「重要なのは、これが機械的な動きじゃないこと。ひとの手……神だけど、それがすることだから、当然ミスもありえる。その……、上位の存在がすることだから、地震とか津波とかと、同じような……こと」
「……」
「ようは……災害、事故。木内には目的も、なにも……」
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この時期でも夕方の風は気持ちがいいもので、昨今の温暖化社会との違いを感じさせられる。
門扉をぬけた瞬間、心臓にまとう黒色のオーラが、多少、薄くなっていることに気がついた。
憑き物が落ちた感覚はない。
だが、ここにあるのは、深淵でも、黒闇でもないことは、確かだった。
「おかえりなさい!」
ガラッと音をたてた玄関口。
戸の引手は、和葉が握っていた。
急いで着替えたのだろう、ラフな格好だが汗まみれである。
「なんだ和葉、さきにかえってたのか。鍵しまってたろ?」
「うううん、だいじょぶ。鍵のスペアは植木鉢の下にあるから」
「おお……さすが鍵っ子」
「ふふんっ、プロですよ私は。小学生になってから、ずっと鍵っ子だからね」
すこし、チクッとした。
「悪いな。聖子さん仕事で遅くなるし、飯つくるのいまからだ。すぐ用意するから、ちょっとまってな」
「う、うん……了解。……………………」
「……? どした」
「木内さん、なにかあったの?」
「え…………、あー……わかるか?」
「うん、へんなかんじ」
チクッとした傷口へと、さらなる追い討ちがかけられる。
「まあなんだ……そんなに悪い話じゃないから、心配すんな」
「ふーーん…………」
クイッ。
「ん?」
クイッ、クイッ。
「なんだよ、その手つき」
「ふふふ、私の胸、いつでもあいてるよ……!」
「どこで覚えたそんな言葉」
似合わないジト目ながらのドヤ顔が、なんだかとても、必死に感じて、かわいらしくて──。
──いや……、違う。
薄々きづいていた。
親目線なら、この顔にかわいらしさは感じない。
親目線、であれば。
「どうするの? だっこする?」
「……」
あの時か、もっと前か。
とっくに壊れていたんだ。
この家族をすくったことで、俺たちの未来が明るくないものになる可能性だってある。
いわゆる、タイムパラドックス。
懸念も、無事も、未来への確証がまったくないのだ。
だが、それでも俺は、なにも考えなかった。
元の時代に帰るためだとか、そんな大義名分もなかった。
もう和葉に、あんな顔をさせたくなかったんだ。
本当に、それだけだったんだ。
「………………和葉、こっち」
「うん!」
トテトテとむかってくる和葉に目線を合わせ、やわらかく抱きよせる。
もちっとして、なめらかで、強い力で抱きしめてしまえば、そのまま粉々に砕けてしまう気もして、でも、それが愛らしくて。
汗がべったり腕を濡らすが、そんなこと、きにもしなかった。
「木内さん」
「ん?」
「いくとこなかったら、ウチ、ずっといていいからね」
「……あぁ」
「でも、やらないといけないことあったら、でてっても、いいからね」
「……………………、あぁ……」
この境遇に狂ったり、うちのめされなかったのは、和葉が隣にいてくれたからだ。
比喩なんかじゃない。
実際に、形として、隣にいてくれた。
彼女は和葉だ。
いくつでも、どんな時代でも、どんな姿でも、和葉は和葉で、俺の嫁なんだ──。
*
芽吹く草木をかきわけて吹く風が、花のあまいかおりをはこんでくる。
屋内にもかかわらず、ガチャリとあけた玄関ドアの隙間から、鼻の奥をツンとさせられた。
「忘れ物ないか?」
「うん、だいじょぶ」
「お茶、半分しかいれてないから、たりなくなったら、自販機で買うんだぞ?」
「ふふふ、木内さん、お母さんみたい」
そういわれると、引かざるをえない。
俺は鼻息をならしながら、はにかんだ。
外をみると、風にのって舞う桜の花びらが、和葉のスカートをなびかせて、新たな門出を祝っているかのようだった。
もう、試着やらなにやらで、4、5回はみているその姿に、俺はいまだ、見惚れてしまう。
ふりかえった和葉は、ほんの少しだけ見上げながら、やわらかい笑顔で手をふった。
「それじゃあ、木内さん。いってきます」
「おう、いってらっしゃい」
現在、2003年、4月。
女子高生と呼ぶには、しっかりしすぎているくらいだが、なんだかそれさえも、俺にとっては暖かいものだった。
お疲れ様です、ここまでが13話です。
次回から最終章となり、あと2話で終わる予定です。
エピソード数でいえば、次次次次次次次次回を予定してます。
そう、““““予定””””、です。




