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35歳の俺と7歳の嫁  作者: mixnunu
13話
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13-④






「神隠しってね、神様が普通じゃない子を連れ去ってく、って話なんだけど、実際には大人も普通の子供も、いなくなった証言は多いのよ」


「なるほど……。でも現実問題、迷子とか誘拐とかだったってオチだろ。おかしな話じゃなくないか?」

「うん、そう。だからね、神隠し自体にも、人為的なものがあるとしたら」

「……?」


「これは私の推論だけど、例えば、神様は木内じゃなく、別のだれかをつれていこうとしていたとする。この場合、さっきいってた、もうひとりのひとね」

(鮫島さんか……)

「重要なのは、これが機械的な動きじゃないこと。ひとの手……神だけど、それがすることだから、当然ミスもありえる。その……、上位の存在がすることだから、地震とか津波とかと、同じような……こと」


「……」

「ようは……災害、事故。木内には目的も、なにも……」





 この時期でも夕方の風は気持ちがいいもので、昨今の温暖化社会との違いを感じさせられる。

 門扉をぬけた瞬間、心臓にまとう黒色のオーラが、多少、薄くなっていることに気がついた。

 憑き物が落ちた感覚はない。

 だが、ここにあるのは、深淵でも、黒闇でもないことは、確かだった。


「おかえりなさい!」


 ガラッと音をたてた玄関口。

 戸の引手は、和葉が握っていた。

 急いで着替えたのだろう、ラフな格好だが汗まみれである。


「なんだ和葉、さきにかえってたのか。鍵しまってたろ?」

「うううん、だいじょぶ。鍵のスペアは植木鉢の下にあるから」

「おお……さすが鍵っ子」

「ふふんっ、プロですよ私は。小学生になってから、ずっと鍵っ子だからね」


 すこし、チクッとした。


「悪いな。聖子さん仕事で遅くなるし、飯つくるのいまからだ。すぐ用意するから、ちょっとまってな」

「う、うん……了解。……………………」


「……? どした」

「木内さん、なにかあったの?」

「え…………、あー……わかるか?」

「うん、へんなかんじ」


 チクッとした傷口へと、さらなる追い討ちがかけられる。


「まあなんだ……そんなに悪い話じゃないから、心配すんな」

「ふーーん…………」


 クイッ。


「ん?」


 クイッ、クイッ。


「なんだよ、その手つき」

「ふふふ、私の胸、いつでもあいてるよ……!」

「どこで覚えたそんな言葉」


 似合わないジト目ながらのドヤ顔が、なんだかとても、必死に感じて、かわいらしくて──。


 ──いや……、違う。

 薄々きづいていた。

 親目線なら、この顔にかわいらしさは感じない。

 親目線、であれば。


「どうするの? だっこする?」

「……」


 あの時か、もっと前か。

 とっくに壊れていたんだ。

 この家族をすくったことで、俺たちの未来が明るくないものになる可能性だってある。

 いわゆる、タイムパラドックス。

 懸念も、無事も、未来への確証がまったくないのだ。

 だが、それでも俺は、なにも考えなかった。

 元の時代に帰るためだとか、そんな大義名分もなかった。

 もう和葉に、あんな顔をさせたくなかったんだ。

 本当に、それだけだったんだ。


「………………和葉、こっち」

「うん!」


 トテトテとむかってくる和葉に目線を合わせ、やわらかく抱きよせる。

 もちっとして、なめらかで、強い力で抱きしめてしまえば、そのまま粉々に砕けてしまう気もして、でも、それが愛らしくて。

 汗がべったり腕を濡らすが、そんなこと、きにもしなかった。


「木内さん」

「ん?」

「いくとこなかったら、ウチ、ずっといていいからね」

「……あぁ」

「でも、やらないといけないことあったら、でてっても、いいからね」

「……………………、あぁ……」


 この境遇に狂ったり、うちのめされなかったのは、和葉が隣にいてくれたからだ。

 比喩なんかじゃない。

 実際に、形として、隣にいてくれた。

 彼女は和葉だ。

 いくつでも、どんな時代でも、どんな姿でも、和葉は和葉で、俺の嫁なんだ──。





 芽吹く草木をかきわけて吹く風が、花のあまいかおりをはこんでくる。

 屋内にもかかわらず、ガチャリとあけた玄関ドアの隙間から、鼻の奥をツンとさせられた。


「忘れ物ないか?」

「うん、だいじょぶ」

「お茶、半分しかいれてないから、たりなくなったら、自販機で買うんだぞ?」

「ふふふ、木内さん、お母さんみたい」


 そういわれると、引かざるをえない。

 俺は鼻息をならしながら、はにかんだ。

 外をみると、風にのって舞う桜の花びらが、和葉のスカートをなびかせて、新たな門出を祝っているかのようだった。

 もう、試着やらなにやらで、4、5回はみているその姿に、俺はいまだ、見惚れてしまう。


 ふりかえった和葉は、ほんの少しだけ見上げながら、やわらかい笑顔で手をふった。


「それじゃあ、木内さん。いってきます」

「おう、いってらっしゃい」


 現在、2003年、4月。

 女子高生と呼ぶには、しっかりしすぎているくらいだが、なんだかそれさえも、俺にとっては暖かいものだった。




 お疲れ様です、ここまでが13話です。

 次回から最終章となり、あと2話で終わる予定です。

 エピソード数でいえば、次次次次次次次次回を予定してます。

 そう、““““予定””””、です。

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