13-②
「あれでしょ? バックチゥーザなんとか、ってやつ。私みてないからしらないけど」
「ああ……、まあ、うん……」
実際、超常的なものをみさせられたとき、人間は案外、冷静でいられるものなのだと、俺は身をもって体感している。
だが、なんだこの妙は。
「あんた、いまいくつ?」
「え、35だけど」
「うわっ! 私より年上じゃん! おっさんか」
どうして俺は、年下の母親と、当時の実家で、世間話をしているのか。
胃袋に毛でもはえた感覚だ。
母の誘導によって通された部屋は、青のタイルがひかる、ダイニングキッチン。
薄汚れて、人が通ることさえ一苦労なその空間は、俺にとっての王国そのもの。
埃のかぶった戦隊モノのソフトフィギュアが、物悲しそうにこちらをのぞき、冷蔵庫にはられたキャラクターのマグネットへと哀愁をおくる。
すこし、青のタイルが目にささる。
「コーラでいい?」
「いや、話の席でコーラなんかのますなよ。お茶か水道水でいいよ」
「あらそう? 昨日、私パシらせてまで、買いにいかせたじゃない」
「覚えてるわけないだろ……。こっちは30年たってんだぞ」
こうして、むかいあって座ると、当たり前だがスッキリする。
においも、肌をなでる空気も、すべてが俺のためにあるようだ。
ひと口お茶をのんだ母は、ニタリとしながら、顔を近づけてくる。
「で、あんたどうなのよ。仕事は? 結婚は? まさかプータローじゃないわよね」
「働いてるよ。普通にサラリーマン。結婚もしてる。って、こういうの、あんまいわないほうが、いいんじゃないか?」
「いいわよ別に。叶芽にさえいわなきゃ、どうってことないでしょ。あ、あんたじゃないほうね」
つけいる隙がないくらいに、言葉をつづける母は、井戸端の主婦そのもの。
なんだか無性に対抗意識が芽生えた俺は、いっきにお茶をのみほした。
ごく一般的な麦茶。
ほんのり苦く、ほんのり甘い。
「そっか、そっか、35で既婚者ねえ。じゃあやっぱ、子供もいんの?」
「いる」
「男の子? 女の子?」
「娘」
「ダレ似?」
「嫁似」
「奥さんだれ? 私しってる?」
「………………、……和葉」
「あらっ!? へぇーーーっ、やるじゃない」
「…………なぁ……」
「てかあんた、和葉ちゃんのとこに住んでんでしょ? 変な気おこしちゃダメよぉー」
「なあ!!」
荒げた声に、母の肩がピクリと反応した。
「なんなんだよ、この時間。なんでかーちゃんと世間話に花さかせないと、いけないんだよ」
「なによ……、せっかくあんたが、しょげた顔してたからっちゅーのに」
「いや、しょげたって……、あぁーー……」
頭をかきむしる俺を、それはもう、なにもいわない表情でながめてくるので、俺はさらに頭をかきむしる。
ごめん。
その言葉が、やたら脳みそを沸騰させてきて、身体の震えをとめられない。
鮫島さんや白雲さん相手だとわかない、負の感情とよぶのもおこがましいほどのエゴが、胸のあたりをつつみこむんだ。
俺ももうアラフォーで、1児の父。
この感情の名前も、正体も、わかっている。
だからこそ、不甲斐ない。
「……悪い、もう帰る」
「え、ちょっと!」
「ここにきたとき、ごめんって、謝ったってことはさ、かーちゃん、俺の目的もわかってんだろ? 話せたのは嬉しかったけど、もう、もういいんだよ……」
親の心子知らず、とはよくいったものだ。
それがわかったところで、頭がもう、反発しかうまない。
思慮が、心に響かない。
だが、俺の思惑もつかの間、ため息ひとつついた母は、眉一つ動かすことなく言葉を吐いた。
「でもあんた、住むとこもあるんでしょう? 聖子ちゃんもあの感じ、当分は安泰だし、私も親だから頼ることができる。なんなら和葉ちゃんもいるじゃない」
「……は? なんだよそれ。どういう──」
「帰らなくてもいいんじゃないの? 元の時代に」
過去の後書き反省会、ぜんぶ活動報告にうつしました。
読みたくないひとも読まざるをえない位置にあるの、なんかちょっと嫌だったので……。
でもこれ、投稿はじめてから1年と2ヶ月目でやるの、配慮もクソもない気がする。




