13-①
ここにたつと、俺のすべてが解放されるようなきがして、なにかと身がひきしまる。
この微かな手がかりに、少し、自暴自棄になっているのかもしれない。
指先までもが熱をおびる午後の頭。
その熱をいやすべく、俺は呼び鈴の突起にふれた。
『だ、だいじょぶ? 私もついていく?』
『いいよ、大丈夫ですよ。母親か』
『でも、のりこむのって、いわば悪の総本山なんでしょ? その……木内が……』
『いや、もう決心はついてるんだ。悪あがきっていうか、最後の核をつぶしておきたい』
『………………、あの、木内』
『ん?』
『私はなにがあっても味方だから……! ゲームとか、マンガとか、いつでもここにきて、遊びましょ……!!』
昨日のことをおもいだすと、胸のあたりがぽうっとして、指先にさらに力がはいる。
ジーっとけたたましい音が鳴り響くと、俺は目をとじ、大きな息を吐きだした。
腹の中の氷が、肩、背中、腰の順番に冷やしていって、汗がとまらない。
審判の時がおちるまで、心臓がはちきれんばかりに、慌ただしくうごめくのだ。
「はーい、はい。どなたですかぁー……」
「…………」
「あぁ、あんた」
いまの俺と対照的といえば、それはそうだ。
いつもの、だらしなくも日常にとけこんだ、母の姿がそこにいる。
「すいません、突然、連絡もせずに。ちょっとお話、いいですか」
「…………ん」
「……え?」
「いや、こんなとこで話しても暑いじゃない。あがりなさいな、叶芽くん」
たてられた親指がさすのは家のなか。
玄関口をみただけでも、すべての構造が脳裏にうかぶ。
乱雑におかれた靴、狭い玄関に窮屈そうにしかれた灰色の玄関マット、はいって正面すぐにある和室は、障子があけっぱなしになっていて、仏壇をいつでもみることができる。
ひとこと「おかえり」といわれれば、靴をなげとばして、冷蔵庫でも漁ってしまいたくなるくらい、俺にとっての王国だ。
だが、いま、頭のなかを支配したのは、そんなことではない。
心臓の血管をすべて喉に集中させて、ふりしぼる。
「なんで……! なんで俺の名前が叶芽って、わかったんだ……?」
俺は名乗った覚えがない。
もし、いっていたとしても、木内でも、叶芽でも、反応する箇所はいくらでもあるはずだ。
小さな、小さな、これが最後の端緒だ。
「あー……、あんた、ここにきたのは、いつだっけ……?」
「……? 夏休み前だから、だいたい、4週間前……」
「なるほど、それで」
ひとりで勝手に納得したように、うんうんと頷くと、俺の目をまじまじとみて、口をだす。
「ごめん。あんたが求める答えは、私はわからない」
「……え?」
「変に期待させるつもりはなかったのよ。その顔みりゃ、かけずりまわって、辛酸なめてることくらいわかるわよ」
「ごめん」……?
ぜんぜん理解がおいつかない。
この「ごめん」は、なにへの謝罪なんだ。
「あの……俺のこと……、なんで、叶芽くんって……?」
「ん、直感」
「……っ!」
嬉しいとか、感涙とか、そんな高尚なものはない。
だが、なんだ、この感情は。
感傷的で。
……で。
……なんだろうか、なにも、言語化ができない。
「ま、あれだ。野比家のばあちゃんになった気分だ」
宣伝、まったく効果ないんでやめます。
小説ってどうすりゃ伸びんだろうね。




