12-④
「まず」、と前おいた白雲さんは、四つん這いになって、土の上に直置きした聖書のページをめくった。
ノートパソコンほどの大きさをした上製本だ。
彼女の小さな体では、もってひらけもしないのだろう。
空き地の真ん中。
俺もしゃがんで、聖書に視線を落とす。
「おもにタイムスリップには、おおきくわけて、4つの種類があるのよ」
「4つか……」
「そう、4つ。簡単に説明するわね」
ヘニャヘニャの、ミミズみたいな文字に指をそえ、小さな口がひらかれる。
「1つめは、タイムマシン。さっきも理論は話したけれど、人類の科学力では一生かかっても実現不可能。まあ、実証はないから、絶対に不可能とはいいきれないけど」
「なるほど……」
「2つめは、召喚。木内にしかできない『なにか』をなすために、この次元につれてこられた。それがトリガーであれば、目的をなせば、もとの時代にもどれるはず。これが1番、有力なのかしら」
「まあ……そうだよな」
「でも、いったんは除外しましょ。話をきく限り、その『なにか』がわからないなら、手のうちようがないわ」
鮫島さんと同じ方法でこの時代にきたのなら、俺もなにかをなすためにきた、というのは間違いではないだろう。
だが、鮫島さんは、神にのぞんでこの時代にきたという。
俺はなにをのぞんだ。
俺は、召喚されたわけではないのか?
「……? どうかした?」
「いや……たぶん目的はあるんだ。あるんだけど……」
口がゆがんだ。
言葉にしてはいけないことを、口にだしているようなきがした。
いいよどみながら、言葉をえらびながら、それでも、なにもオブラートにつつめていない台詞が、喉を通過していく。
ほほが、やけるようにあつい。
「この前、俺と同じ時代からきたひとと、あったんだ」
「……!」
「いわく、神にやりなおしたい過去があるか、っていわれて、そのひとは自分でのぞんで、この時代にきたらしい」
彼女はじっと、こちらをみてくる。
なにも疑おうともせず、ただ、じっと。
「それで……?」
「そのひとがこの時代にきた方法と、俺がきた方法が一致している。だから、俺にも目的はあるはずなんだ」
「…………でも、そもそも、のぞんでタイムスリップしたわけじゃない……」
俺は小さくうなずいた。
そのうなずきに連動して、白雲さんの顔は、どんどんと、しぶいものになっていく。
顎に指をおきながら、彼女が頭をかかえるたび、その悩みが眉のしわに反映されていった。
証言台にでもたたされているのか、息がつまるほどの選別に、刻々と時間だけが浪費されていく。
数秒のすえ、考えがまとまったのか、おずおずと八の字まゆげがむけられた。
「とりあえず……別のも説明していい? もしかしたら、かも、しれないから……」
「お、おう。まあ、俺も、それきくために、きたようなもんだし……」
「うん、じゃあ、3つめね。これは、いうなれば、都市伝説とかの類いね」
「……? というと?」
「けっこう地元ルールな話だけど。例えば、夜の12時に学校の教室で首をつったら、過去にもどれる……みたいな」
先ほどとくらべ、たどたどしくも、言葉をつなげてくれている。
「これは、自分の行動がトリガーになるの。現代の怪奇じゃない限り、もとにもどる手段も、この時代の文献にあるはずよ。なにか、心当たりはない?」
「いや……そもそも俺は、地元から離れた他県で生活していたんだ。地元の都市伝説がもとなら、こんなとこまで、ワープするのもおかしくないか?」
「うーん、たしかに……。じゃあ、違うかも……」
身震いをする、というべきか、俺の頭に「また」が巡廻しはじめた。
ここまできたら、結論がでてしまっているのか。
いや、もう、俺自身、だれかから、そういってもらうのを、まっているのかもしれない。
態度にでてしまったか、諦めのオーラをかんじとったのか、白雲さんは矢継ぎ早に次の話をする。
「次ね。4つめ。これは、意識下でだけ過去にもどっていると、おもいこんでいるパターンね。植物人間ってわかるかしら? 長期間ねむっている間、感覚が夢のなかにあるって感じの」
「あぁー……チェーンメールでみたことあるな。企画力なくても、簡単にヤミフカにできるやつ。つっても、それはさすがに突拍子なさすぎるだろ」
「うん。私もそうおもう。こっちからうてる手も、なんにもないし。でも現状、目的がないなら、可能性はちょっとはあるわよ」
そんなこといわれても仕方がないというか、白雲さんもなんとなく、意味がないことを察していたとおもう。
手があるとして、ここにきたときの、あの人智をこえた装置。
あれがタイムマシンなのであれば、もう一度あの装置にはいれれば、あるいは。
俺のたりない頭をこねくりまわしても、でてくる結論が、もう、それしかない。
「………………あのさ、木内……。もう1個、ちょっと……いってなかったやつが、あるんだけど……」
「…………」
「いう意味がないっていうか、いっても仕方ないっていうか……、その…………」
俺には、目をみることも、相槌をうつことも、なんだか、できるきがしなかった。
花瓶をわって、地面にうめた。
先生のいない隙に、廊下でドッチボールをした。
よびだされて、大人を前にし、みあげると、もう、なにをいわれるか、わかってしまう。
言い訳をしようとも、拒もうとも、すべてが水泡にしかならなくて、消魂すらかなわない。
「神隠し……って、わかる……?」
「………………ああ、わかるよ」
『もうひとり、紛れ込んだから、選別したい』
なるほど、「紛れ込んだ」、……か。
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