12-①
身長は和葉と同じくらいだろうか。
俺のしっている白雲さんより20センチは小さいが、顔のパーツは、なにひとつとして、かわらない。
肌艶が幼子のものだというのは違和感があるが、正面にたつと、なおわかる。
彼女が本人で違いない。
俺の喚声で、彼女の肩がビクッとはねた。
おそるおそるとむけられた顔は、眉根がよせられ、怖じけているようでもある。
見知らぬ男に、突然、叫ばれたんだ。
ストレスになったかもしれない。
だが、いまは度外視とさせてもらう。
俺には……俺にはやらねばならないことがあるんだ。
「俺は、木内叶芽だ。俺をここによんだのは、あんたなのか……!」
「…………」
返事はなかった。
小さい体で俺をみあげて、頭から爪先まで、まじまじと確認してくる。
『神、もうひとり、選別』
鮫島さんの声が頭に響く。
いま、俺は見定められているのか。
彼女はなにか、人智をゆるがす存在なのか。
息が荒くなる。
心臓が鼓動する。
むけられた視線が体をはうたび、その視線にひっぱられるよう、毛がさかだっていく。
数秒の沈黙。
確認が終わったのか、なにか納得したような顔で、彼女はコクリ、うなずいた。
「あなたは、どこからきたの?」
「……令和5年、ここから28年後の未来からきた」
「そう、未来ね……」
彼女は、用意していた言葉をならべるように、淀みなく話を続ける。
「まずはご名答、といった次第かしら。私の力を感じとったうえでの、直感だったのかもしれないけれど」
「……っ! てことは、やっぱりあんたが……!」
「ええ、そうね。あなたはいま、ここにいるもの。私がよんだことになるわ」
突然だった。
その言葉は、勝手にもっと劇的なものだとおもっていたので、ながれる時流の、普遍的な空気のなかでの真実に、俺は少したじろいでしまった。
目的はなんなのか、とか。
あんたは何者なのか、とか。
ききたいことは山ほどあったはずなのに、脳みそから、スッポリぬけおちる。
吐息しかでてこない。
言葉につまる。
「…………ふむ。……じゃあ、質問、私からいいかしら?」
「……! お、おう……」
たじろぐ俺をみかねてか、白雲さんから助け船がおりた。
小学生に気を遣われるのは、結構、気恥ずかしい。
「あなた……木内はどうして私が力をもっているって、わかったの? まあ、問題はないんだけど、ないんだけどね。木内が危ない人だったら、一緒にいると、ママに怒られちゃうから」
「ん? 怒られる?」
どういうことだ。
自分でよびだしておいて、俺が誰だかわからないのか。
俺はゆっくりと、言葉をえらびながら、核心へと手をのばす。
「……30年後、俺の職場の上司なんだよ。白雲さんは。ある時に、やり直すだとか、導きだとか、いってたから、俺の過去転生に一枚かんでるとおもったんだ」
「ああ、そうね。そうだったわね。うん」
その乾いた返事に力はない。
だが、ハキハキとした喋りで、耳に強くのこる、奇妙な口調。
「………………、じゃあ次、俺からいいか?」
「ええ、どうぞ」
「白雲さんの目的を教えてくれ。どうして俺を、この時代によんだのか」
「時空よ。時空の歪みを正すこと。それが私の使命」
「……? ……時空? それで、なんで俺が必要なんだ? 俺はなにをすればいい」
「木内はまだ自覚がないのかもしれないわ。自覚をもつまで、能力はもてない」
「……? ……??? えーと……じゃあ、白雲さんはいったい何者だ? なんでそんなことを?」
「そうね。ここでは、『クロノスの教え子』、とだけ、いっておこうかしら」
「????????」
彼女は、それはもう淀みなくしゃべるので、正しいことをいっているような雰囲気だけはあった。
だが、なにも頭にはいってこない。
レスポンスがなっていない。
喉にへばりついた餅のようだ。
それを、いくらのみこもうとしても、いっこうにおちる気配がない。
むしろ逆流してくる。
なぜだろうか、いまこの時間が、徒労にしかかんじないのは。
我に帰ってよくみると、彼女のファッションは、当時のダサカワとよぶにもおこがましいゴスロリ風。
まさかとはおもうが、このひと、アラフォーになっても、見た目も中身も、なにもかわらなかっただけなのでは……。
「あの……白雲さん。俺のこと、どうやってよんだんだ……? なにか、神とか、そういうのは……」
「あら、なにをいっているの? 私は毎日ここで、召喚の儀をおこなっていたのよ。木内は、それに反応したってことになるわね……!」
白雲さんは、ニタリとわらった。
俺は汗と鼻水がとまらなかった。
なにやら嬉々として語っているが、その言葉を理解することすら困難。
そういえば、女子のオマセって早いよなぁ、とかおもったり、おもわなかったり。
「突然のことで混乱してるかもしれないけれど、大丈夫よ。私たちなら、混沌から世界を、すくえるのだから……!」
藪をつついたなら、せめて普通の蛇がでてきてくれ。
この蛇、3つ目の邪眼が、開眼している。
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