11-④
鼻から息がもれでていく。
脳に酸素がいきとどく。
今現在、俺がマイナスの境遇にいることはかわりない。
それでも、足取りは軽いものだった。
砂利がはられたそのうえで、校舎をボーっとみあげる。
さきほどの煮える腹を思いだすたび、頬の奥に力がはいり、唇がさけていくのを止められない。
進展はなかったが、まあ、いいだろう。
今日はいいものもみれたし、家でふたりの帰りをまつとしようか──────。
「じゃあねー、白雲ちゃん」
「うん、また……」
ふと、校門のほうからきこえた、女の子の声。
今日、親子参観があるのは2年生だけ。
授業の日数をあわせるため、他の学年の生徒も登校日ではあるが、下校は先に済ませてしまう。
俺は見開いた目を校門へとくべる。
背格好から推測するに、上級生であろう。
落ち着いた雰囲気の女子3人組が、2:1でわかれていく。
その片方、ひとりで歩く、くるくる髪の女の子。
あの顔、あの声、あの背丈。
そして、白雲という名前。
この時代にとばされたあの日にも会った、会社で談笑した、俺の記憶する白雲さんの姿、そのものだ。
(同じ……学校だったのか……!)
この30年、まったくきがつかなかった。
肩から腕に力がはいって、体が震えていく。
だが、どうする。
彼女はアラフォーだが小学6年生。
不意に話しかければ、事案にもなりかねない。
そうこうしているうち、帰路につく白雲さんがどんどん小さくなっていく。
まあ、これも事案には変わりないが、俺は咄嗟の思いで、あとをつけるしかなかった。
………………
…………
路地裏、コンクリートのはがれた廃団地、そして人気のない空き地。
およそ下校ルートとは思えない道を、小柄な体でつきすすむ。
(なんだ……? どこへいくつもりなんだ?)
学校はおろか、地元が同じであることもしらなかった。
14年も一緒に働いているひとだぞ。
いままで1度もそんな話をしていない。
すこし、寒気がした。
空き地のど真ん中、今時みることもない積み重なった土管の前で、彼女はゆらりとたちつくす。
ランドセルを地面になげ、着の身着のまま、どこをみることもなく、口をひらいた。
「みて、いるんでしょう?」
「……っ!!?」
「あなたは、私がよんだ。この力をもって、私に、すべてを──」
彼女が言い切る前、これも、咄嗟だった。
後先なんて考えていない。
俺は地面をけって、身をのりだす。
「あんたが……! あんたがよんだのか!?」
間違いない。
このひとだ。
このひとが、この、過去転生の、すべての諸悪の根源だ。
──────────
↓以下⭐︎おまけ↓
「やっほ。聖子ちゃん、おひさー」
「あっ…………叶芽くんの……お母……さん、……どうも……」
授業参観も無事に閉幕し、教室には、まばらにしか、ひとがいない。
だいたいの家族は参観おわり、親子で帰るものだろう。
しかし、少し早めの思春期をむかえた叶芽くんは、バレないように、そそくさと帰ってしまったらしい。
帰宅のタイミングを失ってしまった叶芽母は、おトイレから戻る娘をまつ、「顔見知り」へと狙いをさだめたのだ。
「やー、しっかしあんた、嫌われ者よねー。あんたが教室きた瞬間、みんなギョッとしちゃってさー」
「ええ……、それは……まあ……」
昭和生まれの豪快かーちゃんに、デリカシーなんてものは存在しない。
迎合。
忖度。
それらの言葉を脳内辞書にインプットしては、知らぬだれかが削除してまわる。
このひとは、もとより、そんなひとだ。
「でも、今日きてよかったかもね。あんた、和葉ちゃんが小学生になってから、1回も参観なんてきてないでしょ?」
「うっ…………」
すこし、気まずい顔色をみせる聖子だったが、叶芽母はおかまいなしにと背面黒板を指差す。
「ほらこれ、理想の将来だってさ。おたくん家の事情しってて企画してんなら、白々しいったらありゃせんけど」
「…………」
「聖子ちゃんがきたの、ギリギリだったから、ろくにみてもないっしょ? 娘のだけでも、確認してやりなよ」
「ああ……は……い」
八の字眉毛の聖子は、くるりと反転し、各々の理想へと視線をむける。
1枚、1枚と、左から順に瞳孔をすべらせ、すべらせるたび、八の字の溝はなめらかく。
そして、最右端、そこまでたどりつくと、歩みをピタッと、とめた。
「……」
その絵には、
長めの、ひとのような何かと、
中位の、ひとのような何かと、
短めの、ひとのような何か。
逆さになったUの字が、2個、顔面にはっつけられている。
「あんたがなに考えてあの子と接しているかは、わかんないけどさ。まあ、こんな家庭でも、親はやっぱ親なのよ」
「……はい…………」
「私らのエゴを、いっさいがっさい、ぬきとったさきにある、子供の顔ってのが、親にとっての1番の幸せ。それだけは、忘れんなよ」
こぶしを強く、にぎりしめては、すぐさまほどく。
小清水聖子は感情をあらわにしない。
それでも、いまは、すこしだけ。
彼女を感じることが、できるのかもしれない。
お疲れ様です。ここまでが、11話になります。
いままで話の終わりにダラダラ後書きをしていたのですが、今回から活動報告にて、おこなっていきたいと思います。
よくよく考えたら、しらねぇ作者の愚痴なんて、みるに堪えないものですもんね。そんなんもっと早く気づけや。
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