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ここ一週間、お義母さんを尾けて仕事場を特定し、その職場に謝り込んでは早引けできるよう手配をしてもらった。……そもそも、仕事を割り当てられてもいなかったが。
イベント事や所謂吊り橋効果は偉大なもので、その効力は絶大である。その平穏さえ超え、互いが互いの齟齬を認識できれば、軋轢も無に帰すこと請け合い。この家庭崩壊も和葉の過去にできる。
だからこそ迷子は不味い。とっくに日は落ちている。これで敷地外にでも出ていたら、計画がおしゃかになるどころではない。なんとしてでも、今日、2人を邂逅させなくてはならないのだ。
「やばいな、とうとう降ってきた」
濁った空から水滴が垂れ、行き交う人々は思い思いに散り散りとなっていった。一時の感情で飛び出した和葉も、あれよあれよと人の波に乗って本堂の軒下へと流されていく。幸いにも本降りとなる前に着けたが、身動きは取れなくなってしまった。
雨の音が豪快に鳴り響く中、軒下には他2、3組程が足止めを食らっており、和葉はなんとはなしに辺りを見渡した。周りには、ひと回り年下の親子連れ、まだ初々しいカップル、中学生程の男子グループ。皆、雨に打たれて気分はよくないはずなのに、楽しそうな話し声が耳を横切っていく。
ふと前を見ると、雨粒一滴一滴が目に張り付き、それが落ち、石畳を叩きつけるたび、猛烈に悪寒がした。その時に初めて、和葉は1人になったのだ。
今にも涙が零れ落ちそうで、それでも恥ずかしくて我慢した。狭い町の知らない大人が全員悪魔に見えて、怖くなって、もう助からないと思った。
木内を呼ぼうと声を張り上げようとするが、恐怖が喉を支配する。もしかしたら、自分勝手な行動に腹を立てて帰ってしまったかもしれない。
冷える指先をはち切れんばかりの心臓に当て、雨の音が聞こえないように目をぎゅっと閉じ、しゃがみ込む。
やっぱり……私にはもう……だれもいなかった……?
「か……和葉……」
「……! ママ?」
見上げた先には聖子がいた。傘を3本持って現れ呼びかける。
だが聖子は、和葉とはまた違った理由で、それでいて和葉とまったく同じ顔をしており、一向に目を合わせようとしなかった。
「か……帰りましょう……! 一緒に……」
不器用にも、それは彼女の最大限の勇気であり、歩み寄りでもあった。そうと言いながら、しかし反骨するようくすぐったく、ゆっくりと近づく。
和葉もそれが嬉しく誇らしく、恐怖の象徴なんてお構いなしに駆け寄ろうと立ち上がるが、突然と動きが止まった。
それは、和葉にとっての勇気で、歩み寄りで、そして成長だった。
「か……ずは……?」
「やだ。もっとここにいる」




