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顔立ちも背格好もあまりに瓜二つだったが、俺にはわかる。わかってしまう。
だが、無意識のうち、認めたくない事実に抵抗をしていた。
「一香……だよな? ほらっ! 今日は父さんたちの結婚記念日で、ご飯食べに行こうって……」
「んん??? 違うよっ! 私、ひとかじゃなくて和葉だよっ!! 小清水 和葉っ!」
(……っ!!!)
「?? おじさん、どうしたの?」
これは、この喪失感を埋めるためのある種の現実逃避にしかすぎない。
今しがた見てきたばかりなので、鮮明に、よりくっきりと思い出せる。俺にとって、覚悟を現実のものにしたあの日を……。
~2014年 某日~
『ごめんよ、せっかく高いお店予約してたのに。まさか電車が止まるとは思わなくて……』
『もお、いいって言ってんのに。それに叶芽君の部屋来るのなんて久々だし、高級なお店よりもワクワクしてたりして!』
『ん? そんなもんか……? ただのボロアパートだけど』
『いーや、そんなもんだよ! ところでさ、いつもは近所の居酒屋とかじゃん。なんで今日に限ってあんな高いお店とってんのかなー……、なんて』
『あーー……、あぁー。いや、その質問するってことはお前ももうわかってんだろ。付き合い始めてから5年も待たせたんだ。こういうのはもっとかしこまった場所でした方が──』
『私は! 気にしないよ。別に、そんなの』
『……っ、あぁー、もうっ! ……小清水 和葉っ!!!』
『は、はい!!?』
『俺は回りくどいのは苦手だし、気の利いたこともできないから単刀直入に言うぞ! …………お世辞でもなんでもなく、和葉は俺にとって世界で一番愛おしい存在なんだ。俺と……結婚してほしい』
『…………』
『………………』
『…………いざ……、こう言われてみるとさ、…………やっぱり場所はこだわってた方がいいかもね』
『お前がやらせたんだろっ!!』
『あはは! 冗談、冗談だよ~! ……うん、なんだろう……、すっごい嬉しい────』
~そして現在~
どうして俺なんだ。今の自分を変えたくてとか、危機を救う使命があるとか、復讐心に燃えているとか、そういうのがテンプレだろ……?
「あっ、あの……、えーと、和葉……ちゃん。今ってさ何年の何月か、とか聞いてもいいか……?」
俺は幸せなんだ。悔いなんてあるものか。なんでそれが全部、無に返されないといけないんだよ。
「んんん??? おじさんヘンなの! 今は1995年の、7月だよ!! ほら、もうすぐ夏休み!!」
「…………そ、…………そうかぁ……」
「?? あっ、おじさん……、もしかして社畜なの? ど、ドンマイ……」
立てられた親指の光沢が滲むのは、汗のせいなのか涙のせいなのか。
木内 叶芽、1988年生まれの35歳。今、1995年にいます。
お疲れ様です。ここまでで1話となります。
本作は、自分の好きな作品3作を足して10で割ったかのような薄味n番煎じ作品となっております。そんな作品でも楽しめるように邁進しますので、続きも読んでいただけたら幸いです。
更新は不定期(かなり遅め)になると思いますが、ご了承ください。
こんな所まで読んでいただきありがとうございました!!