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8-­④




 1日目は帰ってこなかった。2日目は帰宅に合わせて出迎えようとしたが、何かを察したのか、目が合うや否や逃げるように背を向かれ、そのまま闇に吸い込まれていった。

 そして今日、時刻は深夜の1時半頃である。扉の開閉音が聞こえ、廊下を一歩、一歩、忍び足が近づいてきていることがわかった。ふすまの前を通りかかった辺りだ。俺は勢いよくふすまを開き、察知をされるまでのコンマ数秒の内に右の手首をがっちり掴んだ。気付かれてから、憎悪を推し量る顔で暴れるように振りほどかれそうになったが、その痩せ細った体つきではもう遅い。


「やっと、捕まえた……! 逃がさねえぞ」


 お義母さんの口から聞いておかなければいけないことがあるんだ。力ずくでもここは引き止めさせてもらう。

 体格差で観念したのか、強張っていた手首から力が抜け、がっくりと膝を下ろした。駄々をこね切った子供の疲れたような眼差しで、こちらを見上げてくる。


「幾つか聞きたいことがあります。いいですか?」


 元気のない赤べこは1度だけ首を縦に振った。

 振ったがしかし、引き止めたもののそれを直接問うことは良心が許さず、手首を握りながらも迂廻路を探る。


「じゃ、じゃあ早速。どうして俺を避けていたんですか」

「互いさま……でしょう。和葉に……悟られないように……、演技派でした……よ……」


 まあそうだ。この人にとっては、俺が急に知らんぷりをしてきたわけなのだ。俺の言動は「娘に関係がばれないように振る舞っていただけ」だと思っていたのであろう。

 反論の余地なし。最初は後手に回ってしまった。


「うっ。……俺を、わざわざ俺を家政夫に呼んだのは?」

「都合が……よかったのです。知り合いで……。こんなことに……なっても、のこのこ父親づらする……とは、思いません……でしたけど。来ないと……思っていたので」


 いわれのない、しかし弁明のしようもない批判が胸を突き上げる。俺が木内叶芽の言葉で何をいっても上っ面でしかないのだ。

 側面だけでは同罪のようなものだが、こんなにも攻撃的なのは、この人が家族以外の何も見えていないのだと確信させられる。


 いっそのことそのまま聞いてしまえればよかったが、縋っていた藁に牙をむかれる心情、その時の咄嗟にとる行動が如何なるものかは定かではなく、迂闊に掛け違えたボタンを引き千切れはしなかった。


「私はあなたが嫌いです。芯がなくて……幼稚で……。でも一つ、聞いて……いいですか……」

「は、はい。なんでしょう」


 悩む内に気付けば形勢は逆転していた。目をしぱしぱとしてから、子供の眼差しで震える口が開かれる。


「どうして……、和葉と……智光さんは、あなたを……選んでいるの……」




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