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8-­①




 起床は朝6時半頃。ゆっくりと起き上がっては、布団はまだ片づけず足音を立てずに寝床を出る。

 洗面台にて顔をびしゃびしゃに濡らし、顔を拭いたタオルと籠に入った衣服を小分けにしたら、それを洗濯機にいれて一旦放置。

 目やにを擦り外に出て、静かな風を細胞で感じながら郵便受けを確認。新聞1枚、スーパーの広告2枚を巻き寿司状にし、長距離打者のたたずまいで人見知りな路地に背を向けた。


 巻き寿司3本を机へと適当に放り、次なる目的地は台所。冷蔵庫を開け、卵、ハム、そして野菜室からキャベツとみかんを取る。シンクの下にある一番下のスライド棚から8枚切りのパン、その真横の大きな棚の中に鎮座する、大ボスの取り巻きであろう直径20cmのフライパンも手に取った。


 手を洗い、つまみを左に回してフライパンをセット。パンもメモリを7つ回してセット。フライパンに少し油をひいて馴染ませて、それから溶いた卵を投入し、すぐさまくちゃくちゃにかき混ぜる。

 追加でハムを入れて火を止めた辺りで、廊下から足音が聞こえてくる。


「木内しゃーん……おはよぉ」

「おう、おはよ。顔洗ったか?」

「うううん。今かりゃー」

「んー。じゃあ顔洗ったら食器棚から皿と、後──」


「塩!」

「そうだな、取ってきてくれ」

「了解~」


 小さな足音が遠くなるのを背面に、目の前で立てかけられたまな板をさっと水で洗う。キャベツを上から千切ってこれもさっと。大体一口大に切って2人前に分け、残りは袋へ入れ野菜室へ戻した。


 そこから一度椅子に座って伸びをして、3分程軋みの帰還まで休憩。床を打ち付ける音が聞こえたら即座に立ち上がり、あたかもずっと作業をしていたかのように見せた。


「ただいま戻りました!」

「よし。じゃあ盛り付け担当、頼んだぞ。フライパン熱いから気をつけろよ」

「はーい!!」


 鍋敷きを和葉の届く高さの机に置き、その上に卵1個分のスクランブルエッグとハム2枚が混ぜこぜになったものが入ったフライパン。まな板ごとキャベツも横に。和葉は少し大きなプレートをもってきては腕まくりをしている。


「手、洗えよ」

「さっき洗面台で洗ったー」

「あぁ、ならいっか」


 ご満悦に盛り付ける和葉から英気をもらいつつ、それで不注意のままトースターを開けたためか網に指が触れちょっと焼けた。

 二枚のこんがりしたパンを皿に1枚ずつ移し、和葉がバターやマーガリンをあまり好きではないので何もつけずにこれで完成。盛り付け班も丁度終わったようだった。


 居間に移動し、ちゃぶ台に皿を置いて腰かけては、左手にパンと右手にテレビのリモコンを取った。


「まずはいだだきますだよ。何回も言ってる」

「ごっ、ごめんなさい……」


 促されてしぶしぶ両手を合掌。


「いただきます」

「いただきますっ!!」


 やっとこさリモコンを手に取れた俺は、右上の緑の丸を押し、続けて数字の4も押した。正直この手の番組もあまり和葉に見せたくないとこはあるが、キッズ番組をつけると機嫌が悪くなるのでニュースをつけるのがベターな選択。ちなみに飯時にはどんな番組であれ、テレビをつけていないと俺の気が済まないのでつけない選択肢はない。まあ昔のニュースを見るのも案外楽しいもので、変な懐古になっていたりもする。


 パンの焦げ目になった端の方に歯を入れると、ザクッといい音が鳴った。焼き加減は我ながら完璧。和葉はパンの上にハムと塩まみれのスクランブルエッグをのせて、疑似サンドイッチを作っていた。


「木内さんはのせないのー?」

「後で箸で食うからな」

「えー、絶対こっちの方がおいしいよ」


「それは人によりけりだろ」

「ん? ああ……よりけりね。よりけりよりけり」

「人それぞれで考え方とか違うってことな」


 苦笑が漏れ出て、アットホームに心を置く。

 飯を食い終われば洗濯をして掃除をして布団を干す。買い物は昨日に済ませたので、午前の内にしておきたいのはこんなとこだろうか。


 転生して一週間ほどになり、何となく生活リズムも整ってきたが、いたたまれないのはこの状況。頼まれている家事の範囲をこなすだけで衣食住すべてが揃うというのは、なんだかまるでを膨らまされる。ここ一週間、毎朝これが過っては思考を放棄するのだった。

 「いや、ここに住むつもりではないから。全てを解決させればすぐに帰るつもりだから」を言い訳がましく反復させていた。


「あっ! そうだ」

「ん、どした?」

「木内さん! ひも!」

「っ!!?」


 ドガーン、バゴーン、ズガシャーン。


「今日縄跳びするんだけど、紐切れてるから直して」

「おっ、おうおう。了解了解」


 30年前の実家に旦那が寄生している事実を知ったとき、妻はなんと思うのだろうか。

 昨日、押切さんから渡されたこの「木内家の鍵」を握りしめ、本当にこれが元の時代に帰る手立てなのだろうかと不安に駆られた。




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