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35歳の俺と7歳の嫁  作者: mixnunu
ぶたさん
31/66

番外②




 黄ばみの山がピクリと動く。そのピクリが好奇心のものだと勘違いした和葉は、見逃さんとばかりに畳みかけた。


「お母さんは会ったことないけど、孫、案外可愛いでしょ。家族写真だけどさ、印刷したのあるから置いていこうか?」


 齟齬が生じたのは、和葉は母親に嫌われていると思っていたことである。もし、娘が幸せであることに腹を立てたとしても、家族以外のなにかが母親にとっての支えになるのであれば、それで絆せると思っていた。それが当てつけになると気付きもしなかったのだ。

 親の心子知らずとはよく言ったものだが、こんな幼稚ともなる他我だと思ってもいなければ、それが証明されることもない。


 だが、目的そのものは達成した。黄ばみの山から這いずり出てきたのは、痩せこけていて、これでいて愛想も悪ければミイラや怪異の類いであったが、和葉はそれを満足げに見下ろしては喜々とした。


「やっぱ孫は気になるんでしょ。この写真ね、先月だったかな? 3人で水族館に行ってきた時の──」


 そこから先を遮ったのは布の塊だった。枕が真横を通り過ぎるだけで、当たったところで殺傷力は皆無に等しかったが、それでも和葉の心を折るには十二分であった。


「出てって……、出てって……!」


 その時に初めて、絆せるだとか絆せないだとか、そういう次元の話ではないことを知った。母はとっくの昔に壊れていたのだ。もぬけの殻に語りかけていたのは自己満足でしかなく、その自己満足によってたった今とどめを刺した。

 どうであれ母は母だ。この顔が、怒りでも悲しみでも妬みでもない、それでいてまったくの拒絶であることは瞬時に理解できた。


 31にもなって、こんなにも感情が揺さぶられたのは、やはり母の前だからであろうか。これ以上は少しの刺激でも大粒の涙が溢れてしまう。

 今しがた母でなくなった彼女にそんな腑抜けな姿を見せてなるものかと、なんとか歯を食いしばっては、逃げ出したかった。最後に、それでも最後は笑顔で、別れを告げた。


「ママ、ごめんね」


 廊下を駆けていく音が聞こえる。玄関を開閉する音が聞こえる。10年は洗ってないであろうこのシーツに、新しいシミがいくつも出来上がっていっては、大きくなるたび、もうなにも考えられなくなる。


「なんで……あんたがぁ……」



 玄関前に座り込んでは大きな吐息を吐き出した。これはダメだ。取り繕うことができない感情で、娘と義母の前で出してはいけないと思い、蓋をするべく、近くの公園で吐き出すことにした。

 立ち上がってもよれよれで、それでも歩いてしまおうと前を見ると、思いとは裏腹に彼がいた。


「叶芽くん……、待っててくれたの?」

「ああ、ん。なんとなく」


 察しがいいのか悪いのか。頭では1人にしてほしいが巡っていくが、本能はそうともいってられない。傍にいてほしかった。


「あ、あのさ……」

「とりあえず、公園でも行くか。正月だし誰もいねえだろ」

「……! ……こういう時、カッコイイのずるいと思う」

「ずるいってなんだよ」


 いつものやり取りにも懐かしさが介入しつつ、それによって上書きされていく。照れくさそうにする彼を見て、多分大丈夫だと思えた。言い聞かせているわけでもなく、彼の隣ならそう思える。


「大丈夫、お義母さんに挨拶もまだだもん。早く行かないと」

「……、なあ和葉」

「ん? なあに」

「気負うのはいいけど、あんま自分だけで解決を急ぐなよ。俺もいるからな」


 大丈夫。この暖かさなら大丈夫。


「何? 今日カッコイイ押し売りデーのつもり?」

「茶化すな急に。もう心配してやんねーぞ」

「あはは」


 雲1つない晴天に、全てが溶けて消え入りそうなこの感覚だけが、真実であればいいなと、思ってしまう。



「あらおかえり。今一香に野球拳仕込んでたところよ」


 熱のこもったリビングで、半裸の娘と真っ赤な義母がキレキレでフラフラな踊りをしながら、自信に満ち溢れたキメ顔をしていた。なんだこれは。


「ごめん。あいつほっといてほんとごめん」

「う~~ん……、うん」




 お疲れ様です。ここまでが番外編です。

 番外にも反省はある。活動報告へGO!!!

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