1-③
「なあ、今日俺んち来ない!? 兄貴がサターン買ったんだけどさ!」
「はあ? せっかく3人いんだから、外で遊ぼうぜ!」
「そうだよっ!! それにサターンってなにがあんだよ!?」
「昨日さっ! 兄貴がやってたんだけどさっ! なんかよくわかんないけど女の人が脱ぐゲームでさっ!! おっぱいが丸見えだったんだよ!!!」
「っ!!? ま、マジかよ……。じゃ、じゃあお前んち集合だな、これは……」
「えぇ。なにがおもろいんだよ、それのー!」
そんな会話で駆けていく子供たちの背中を眺めながら、俺は町を練り歩いていた。
(サターンってことは……脱雀か? 今時、実機で遊ぶなんて殊勝なキッズだな)
なんて思いながらそんなことはどうでもよく、俺はこの町にある違和感を感じていた。
帰巣本能とでも言うべきか、町に入ってから向かうべき場所がなんとなくわかるのだ。俺はこの町に来たことがある?
更に、気候も何かがおかしい。いくら温暖化とはいえ11月後半の気温ではない。
道行く人々は半袖半パン、女子高生も見えてしまいそうなぐらい短くしたスカートにルーズソックスという平成初期ギャル使用。
昨日は肌寒さすら感じたのに、このスーツではあまりに暑すぎる。
(なんだろうこの違和感は……。なんでサターンなんだ? 11月でなんでこんなに暑い? それに、この町に特別感じるようなノスタルジーは一体……)
「いってえ!!」
思考中の脳みそに変声期前の少年の声が響く。
考え事をしながら歩いていたがあまり、道行く少年を蹴飛ばしてしまっていた。
「わ、悪いっ!! 大丈夫か少年!」
「うぅ、いいよ。大丈夫……。俺も前見てなかったし……。家ここだし……俺」
そう言いながら少年は目の前の家を指さす。
少年が指さす方を見上げるも、俺はまず真っ先に目を疑った。
そこは、俺が1番好きにしてもいい場所だった。10数年前にした改築の面影はまったくない、まさしく幼少期の実家そのもの。
「なんで……、ここに……」
「おいコラおっさんっ!! なに人んちの前突っ立ってんだよ!! 宗教勧誘ならお断りだぞ、サリン野郎っ!!!」
「あ、かーちゃん」
(……かーちゃんっ!!??)
車から顔を出す30代ぐらいの女性の呼び声と同時に、少年は俺を無視してドタドタと車に乗り込んでいった。
「かーちゃん、俺寿司。寿司食いたい」
「はあ? んなもん無理だっての。『ショウリン軒』行くだけなんだから、適当な定食でいいんだよ」
「えええーーーー!! …………慣れないことして炊飯器壊したのかーちゃんなのに」
「ふっ、ふ~~~~ん!! 聞こえましぇんよ~だっ!! ……刺身ならつけていいからそれで我慢しろい……」
そんな親子が小競り合いする中、発進して行った車を呆然と見送る。
「…………いや。いやいやいやいやいや、いや」
俺は記憶力はいい方だ。ましてや自分の親の顔なんて忘れるはずもない。
ほうれい線は無く、身長も高いしスタイルもいい(母基準)が、あれは間違いなく俺のかーちゃん。
だとすると、あの子供は……。
「これはあれか? アイルビーなんとか的な……、ラベンダーの香り的な……、こんな華もねえおっさんに駆けさせたっていうのか……?」
俺はひどく困窮した。
が、しかし、一気に現実へ引き戻されたと言うべきか、ふと目線を上げるとそこには我が愛娘の姿があった。
「っ!! 一香!」
詰まりかけた息が安堵になり、そのまま娘へと駆け寄っていく。
俺は家族と実家に帰ってきているだけで、さっきの親子はただのそっくりさんで、一連の事案は全て夢。きっとそうに違いない。
「一香っ! どうしたんだよ、こんなとこに一人でさぁ! 母さんはどこに────」
そこまで声に出したタイミングで、俺はとんでもない思い違いをしていることに気が付いてしまった。
「おじさん……、誰ですか……?」