7-⑥
日が赤く染まり始めたあたりで解散となった。帰路に就く最中、感情の右往左往に自分で嫌気がさしてきて、どっと疲れを実感したところで家に着いた。
「あっ! おかえりなさい!!!」
「ああ和葉。悪いな、先に帰ってたのか」
「うううん、大丈夫。でね! 今日、みっちゃん……佐藤 美智子ちゃんと、飯山 篠ちゃんと、遊んだんだけど、鬼ごっこで1回も捕まらなかった!!」
「おお! まじか、すげーじゃん! じゃあ夜飯のコーンソテーに目玉焼きものせてやろう」
「うぇあ! やたー」
手を洗ってうがいをして、飯を作って、食べて、風呂を沸かして、洗濯物を畳みながらゆっくりと、俺は和葉に確認をするように聞く。
「なぁ和葉」
「ん? なあに」
「和葉……お母さんのこと好きか?」
和葉は、少しだけ言葉にするのを悩んだ様子で、照れくさそうに言った。
「…………怖いけど……、嫌いじゃないし、……好き」
「うん、知ってるよ」
小学生の時に、同じことを聞かれて同じ返答ができただろうか。もし、一香が人の道を外れたとして、世界中が敵意にまみれたとしても、俺達は最後まで味方であり続けるだろう。俺のかーちゃんも、俺が味方であることには変わりない。あの人はすでに荒くれものみたいな性格だけども。
俺は幸せの中で大人になれたのだ。大人になって子を持って、初めて得た感情を、和葉はこの時からずっと、大人になってもあった。
「でもね、私……ほんとに好きでいていいのかなぁ?」
「なに言ってんだ。それでいて、お前は幸せなんだろ。気持ちってのは、あんま難しくなくていいんだよ」
「うん、そっか……!」
改めて歪である。親から子へ、子から親へ、正しい循環が成されているにも関わらず、どうしてこうもままならない。このボタンの掛け違いは正さなければならない歪みだ。そしてそれが、俺の使命だ。
「……木内さん。あんまり難しく考えなくていいの? このモヤモヤって」
「ん、まぁ向ける相手にもよるけどな」
「じゃあさ、じゃあさ、木内さんは?」
「俺か? 俺なんて一番気ぃ使わなくていい相手だろ」
「そう!? じゃあさ、あのさ……」
和葉は、体を捻り軸足を向け、息を大きく吸った。
「私! 木内さんのことも好きだよ!」
その一言が引き金だったように思う。時折ピーと鼻息は鳴らしたが、言葉を失い、膝をついた。
そういえば、風呂のお湯を止めていなかった気がする。今頃浴槽から溢れ出ていることだ。台風の影響だろうか、最近は夜になると風が強く、木々が激しく揺れている。静寂だが、タイルの隙間を縫って流れる水音も、木々の騒めきも、そんな微々たる音は聞こえないはずなのに、聞こえる。
力強く、それでいて飴細工を扱うように繊細に、抱きしめる。
「木内さん……泣いてるの?」
「……! だ、誰も死んでないし、どこも痛くないし、これはよだれだから!!」
「汚いっ!」
「だから、だからもう少しだけ、こうさせてくれ……」
これ以上、踏み込めば帰れなくなる。甘えだとも不要だともわかってはいるが、それでも今は、同情をしていたい。俺にとっては、どんな姿であれ、彼女は彼女なのだ。
「うん……。私も抱っこされるの、気持ちいいから」
本当にお疲れ様です。ここまでが7話になります。
激長反省会、活導報告にあります。




