7-⑤
後悔だとか、自責だとかを言ってはいるが、要は自分が生んだ悪意からビビって逃げたということだ。こいつは。
お義母さんは家族として求められたいがために嫌われようとしている。手段と目的が入れ替わってもぬけの殻になったまま、その殻を切りつけては、痛みも、快楽も得られず、それ故の虚ろ。
これが真実なのであれば、昨日は嫌なことを考えてしまった。ただの勘違いにばつが悪い。
「1回、お義……聖子さんが和葉ちゃんを高圧的に追い詰めていたことがあって、その時強めに反論しちゃったんだけど、今思えば悪いことしましたね……」
「え? 何がだい? それは悪いのは聖子だろう」
(うっせ、だまれ、ボケ)
もし……もし父親に何かしらのやむをえない事情があり、それで家庭を離れているなどであれば、解決に骨を折る覚悟はあった。解決して、家族3人で生きる。それが元の時代に帰る上での最善だと、和葉に、あんな顔をもう二度とさせてなるものかと。
「しかし家事サービスだもんなぁ。そんなことをしていたんだね。木内君はまだあのぼろい納屋に住んでいるのかい?」
「いや、聖子さんが家に居ていいって言うんで。ただその本人はまったく帰ってこないんで、ほとんど娘さんと2人だけど」
「……ふーん、そうかい」
しかしこの体たらくだ。俺も人の親である以上、子供は血縁が面倒を見るべきだという考えはふわっとはあるが、この水面をなぞる程度の責任をしたやつに和葉を任せることはできない。
こんなことなら俺が出るとこまで出張っていってやる。未来も守って、和葉も救う。妥協なんてない。それこそが家族に向けるエゴってもんだろう。虚ろの相手は、俺が請け負うんだ。
「君には昔から尻拭いばかりさせているね。和葉もああ見えて聖子似なところがあるから、苦労するだろう」
俺は「はぁ」と適当な相槌をかます。
今日の何よりの収穫は和葉のことだ。結婚して、長年ともにいる信頼があり、その上で俺は小清水家の闇を教えられていない。正直、最初は俺らの信頼はそんなものかとショックは受けたが、何故それをひた隠しにしていたのか、それが明確になった。
こいつの責任逃れの言い訳から得られた収穫は豊作だ。そうと思うようにしなければ、多分引っ叩いている。
「聖子もね、素直なやつだからさ。もしかしたら君になら……ね?」
(で、こいつはさっきから何を喋ってんだ。中身なさすぎて頭にまったく入らんぞ)
などと悪態の念を飛ばしていたりしたところ、押切さんの目が突然ギラッと輝き、息を吐き出した。
「人殺しの兵器を作り上げた人間は殺人の罪に問われるのか。法律とかではなく、もっと単純な話としてだ」
「はい?」
「僕はね、殺人ではないと思うんだよ。使う人間がいて初めて、人を、殺す。作ることは罪ではないと」
「…………」
「そして僕は知らなかった。これは、力のある責任知らずの外野が言うから成り立つのだ。僕は、その立場の人間だと思っていた」
閉じそうになった瞼がばっちり固定される。彼は話を続けた。
「……僕が、君に責任を押し付けているのは重々わかっている。僕は逃げ出した臆病者だ。2人からどう思われていようと、それでも、和葉と、聖子には幸せになってほしい。今でも愛しているは嘘くさいから、幸せに」
その瞬間に、感情が沈下していくのを感じた。俺の中にあるどす黒い何かは、もう意味をなしていなかった。
例えば……人を、助ける人間はいい人だと思う。世間一般的に。しかし、不良が人を助えていい人だと思われることに腹を立てる人間がいる。今までの愚行がそれで帳消しになるわけないだろうという意見だ。まぁ、俺もそっちの考え方だしわかる。
だがそれは、情報として処理した場合での話であって、同様のことが眼前で行われれば限りではないだろう。現に目の前にいる、こうべを垂らす灰にまみれた醜悪さが、俺にはとても、美しく見えた。
「俺は元々はそのつもりだったんだ。頼まれたからするわけじゃない。頭、あげてください」
「僕が、特に君には、それはできないよ」
「あー……、3人は家族でいてほしいだとか、そんな無責任なことは言わない。でも、聖子さんはまだあんたのことを愛してんだ。それはわかってんだろ」
俺はなけなしの語彙で張り上げる。
「飯でも食いに行ってください。3人で。何とかはしますから」
数秒間上を見上げ、首を下ろし、歪んだ口元から小さな「うん……」が聞こえてくる。彼に難があろうと、その1言は、俺にとってお義父さんと呼ぶに足る。
「でも、そうか。そのつもりで聖子がねぇ。木内君なら安心だよ」
「……? 何の話で?」
「好き、なんだろう」
「っ!!?」
突然の図星だった。7歳児の我が子が好きな35歳の親友だなんて思われたら死ぬ。社会的に死ぬ。
「だ、誰が……誰を……?」
「君が、聖子を」
(そっちじゃねぇ!!)
まだ……、つ、続きます……。




