6-③
入ってすぐに、彼がそうなのだろうと理解できるほどの既視感が確かにあった。俺は店員に「先に人待たせてるんで」と言い、確証はないが逡巡なくその席へと向かった。
顔を覗き込むように一礼すると、およそ同年代とは思えない肌ツヤをした頬をニッパリと上げ、快く向かい入れてくれた。
印象はさわやかと言ったところだろうか、電話越しからも感じられた人の良さに直面し、正直に拍子抜けではあった。
~昨日の夜~
『もしもし、押切 智光さんのお電話で間違いありませんでしょうか。わたくし、木内家事代行サービスの者なのですが』
『…………木内君? 木内君かい!? ひ、久しぶりだねぇ! 半年ぶりぐらいかな、まさかまた連絡をくれるとは思っていなかったよ』
『はぁ……はい』
『ああ、まぁ君が怒っているのもわかる。アレに関しては僕の責任だよ。でも、こうやって電話をかけてくれたってことは何かあったんだろう? 僕にできることがあれば何でも言ってくれ、助けになるよ』
『(めっちゃ喋んなこの人。で、アレってなんだろうか? 初対面なのに知人だから帳尻合わすの難しいぞ)えーと……僕は今、小清水さんの家で働かせてもらってるんですけど……』
『っ!! あぁそうか、君はまだ……。聖子のことだ、僕の友人ってだけで決めたのだろう。それは申し訳ないことをした。とんでもない仕打ちだ。ただ聖子もアレは知りもしないことなんだ。僕から言える立場でもないが、許してほしい』
『(だからアレってなんだよ!!)いや、それはいいんですけど、自分の立場としては……その、聖子さんのことをもっと教えてもらいたくてですね。それこそ、アレについても今一度』
『…………、そうだね、君にも知ってもらわなければいけないだろう。今度また会って話そう。電話越しに話すものでもない』
墓穴だけは掘ってはなるまいと思い、押切さんの出方を伺うだけあったが、それを察してか、ただおしゃべりなだけか、矢継ぎ早に言葉を投げかけてくる。
「改めて、久しぶり。半年だけだとあまり変わった様子はないね。佐々木や江越は元気にしているかい? あぁ、それともアレっきりでもう会ってもいないか」
またでた。アレだ。この佐々木や江越というやつともども共通の話題なのであろうが、現状なにも知らない俺からは、知ったかにて推察するしか他がなかった。押切 智光との関係性でさえも知り得ていないのだから、難易度は高いことこの上ない。
「し、しかし、僕も最近は会ってませんからね……」
「あぁ、まぁそうだよね。それに僕と会うのも久しぶりだけど、そんなに畏まらなくても大丈夫だよ。いつもどうりじゃないと僕もそわそわしてしまうよ」
「うぐっ、そう……そうかなぁ」
初対面がどうこう以前に、タメ口が慣れないことも当然であろう。彼から感じるその圧は、お義母さんのものとも違う、営業先で年下から叱咤されているあの感覚。この圧迫ヤサメン上司は一体何者なのか。
「じゃあ、あの……いきなり本題です……だけども、聖子さんはいつからあの様子なのか。聞いてもいいか」
そう言うと、押切さんはあっけにとられたかのような顔をし、少し頭を悩ませてから、なんともその言い分が淀んだようだった。
「君も意地悪だね。あの場にいたならなんとなく察しはついているだろう? 何度も言うがアレは確かに僕の責任だが、君もそれがわかっていて彼女に近づいたはずだ。そうに違いない」
しまった。と思ったが、こうなっては勢いでごまかすしかない。
「いや、なんもわかんないんで一から全部教えてほしいんですが!」
俺は鬼気迫るよう言った。
「……あー、そうかそうか、わかったよ。確証はあくまでも確証、その偏った考えで僕も彼女を理解してもらいたくないし、君にも知る権利はある話だ」
「じゃあお願いします」
「ああ、だがこれだけは先んじて言わせてほしい。この話をして、君がいかに彼女をどう思おうがそれは君の感性であって、彼女の役ではない。僕の一所存としては君には知ってほしくはない。それでも……いいなら」
「はい、じゃあお願いします」
「しかし、頑なだね君は」
呆れるようにため息をつくと、やれやれといった感じで苦笑を浮かべられてしまう。だが、彼がいう君は木内 叶芽であり、俺ではないのだ。
(もったいぶられたところで、なんだよ! 俺には!)
お疲れ様です。ここまでが6話です。
この回、反省会なかった。




