1-②
小鳥のさえずり、草木のざわめきが聞こえてくる。
顔面の穴という穴から出る体液に器官を刺激された俺は、痰の絡んだ咳により覚醒した。
長い夢を見ていたような感覚があったが、自分の状態を見るに意識を戻したのはものの数分だったのだろう。
「はあ゛ぁ、はあ゛ぁ、何だったんだ……、今の…………。……ていうか、ここどこだよ……」
辺りを見回すも木々生い茂る林の中。山道の雰囲気はない。
あの後、ガードレールを超えて山を転げ落ちてしまったのだろうか。
しかし自身の体をよく見ても目立った外傷は特になく、その転げ落ちたと思われる山も見渡す限りでは確認できなかった。
俺は裾で顔を拭い、汗だくである上着を一枚脱いだ。もう11月であるにも関わらず、照り付ける太陽が身を焦がす。
(あれ? 日なんて出てたか……?)
さっきの今だ、まだ正常な判断ができてないのだろう。とりあえず所持品の整理だけでもしておくことにした。
財布はポケットに入っていたが、スマホは多分車の中。こんな大事故、誰かが気付いて通報するに違いない。
「あいつらには悪いが今日は中止だなぁー……。とりあえず、スマホ見たら俺ってことはわかるだろうし、近くの交番行って助け待つのがベターかなぁ」
あの箱の正体や現在地など気にはなるが、平穏無事を願う俺はいったん近場に人気がないか探すことにした。
とは言ったものの、移動中考えるのはやはりあの気味が悪い箱。
アニメや漫画でしか見たことのないような装置だったが、いったい誰が何のためにあんなとこにほっぽっていたのだろうか。
嫌な予感がする。それこそアニメとかだとこういう場合、どこか別の世界に飛ばされて帰れないなんてこともあるはずだ。
と、思いとは裏腹に、少し進めば昔なじみの町が見えてきた。
ここは裏山みたいな場所なのだろうか、町の全貌を見下ろせる。
今時少し珍しい田んぼや畑が並ぶ町並みに、共鳴するようにノスタルジーを感じた。
当たり前だが見るからにここは日本。中世ヨーロッパ風でもなければ、剣と魔法が交差するファンタジー世界でもない。
「……にしても、あの山の下にこんな町なんてあったか? まぁ『異世界召喚!!』なんてことじゃないなら、ちょっと待ってりゃ助けが来るか」
そんな冗談も交えながら、俺は一刻も早くふもとに下りようと駆け足で山を下って行った。