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4-­③






『ただいまー……』


(なんて言っても、誰かいるわけじゃないけど……)


 うだるような暑さの中、自宅の戸を開けるが蒸せかえるのはこっちの方だ。


 ボールプールと見紛う廊下に敷き詰められているのはゴミ袋の山、異臭を放っているのはわかるが私はもう慣れた。


『あぁ、またお弁当の容器そのままだし。せめて捨てるぐらいはしなさいよ……』


 部活動後のシャワーも浴びずに母親の尻ぬぐい、自分でも何をさせられているのかわからない。


 ため息を吐くことで気を紛らわせるしかない。学校鞄とコンビニの袋を少しあるスペースへと置き、まずは後処理へと向かう。


 が、ふと横目に、ゴミが床に散乱しているために扉が開けっ放しになっている脱衣所、洗面台が眼前に入り込んできた。


『……あれ? 私って、こんな顔……だったけ……』


 痩せこけているわけではなく、不健康そうなわけでもない。


 しかし、眉間によったしわと真っ黒な眼球がなるその容姿から、彷彿とさせられたそれに鳥肌が立つ。


 鼓動が波打ってきた。私は恐らく鏡の中に吸い込まれてしまったのだろうか。視界にはぐるぐるが蔓延っている。一瞬に、そしてすべてが、なんだかもう、どうでも よくなって きた……………………………………。







  ピンポーン


 と、間の悪いことに呼び鈴を鳴らされ、そんな疑問に浸るる猶予もなくなってしまう。


 よろめきながらも玄関まで着し、チェーンロック越しに戸を開けた。


『はーい……、どちら様です……か……』


『すみません、○○県警の者です』


 そこから数日間、私の記憶は曖昧にしか残っていない。




『ねぇ聞いた? 小清水さんのお母さん、警察に捕まったらしいよ』


『え! やばっ! あの目付き悪い人だよね、お母さんって』


(はぁ……、聞こえてるよ……)


 放課後、騒々しい教室の一角。

 机に突っ伏していようとも自分への敵意だけはしっかり耳に入ってしまう。


『薬やってたらしいよ』『そんなのほんとにやってる人いるんだ』『気持ち悪いよね』『小清水さんもやってるんじゃない?』『近寄らないでいとこ』『もうあの子無視しちゃおうよ』『あ! それいいかも』


 荘厳なオーケストラでさえ今の私には雑音にしか感じないだろう。聞きたくない。帰って寝たい。もう……いやかも。


 とにかく逃げたい一心でおもむろに椅子から立ち上がると、教室中の視線の交わりが一点になった。


(あああああ、もういいや……帰ろ………………、部活…………も、いいや、1日休んでも大丈夫……だよね……)


 歩けば世界が滲む。悲壮感だけが支えになる。


『か……』


 明日になればすべてが終わることを願望に、今日はもう寝てしまおう。


『か……は……』


 うるさい。もう、うるさ……。


『和葉!!』


『……っ!!?』


 突然に右手首を掴まれ心拍数が上昇するも、見知った顔が目に映り冷静を装える。


『叶芽君……、何? 私もう帰るんだけど……』


『あの! 俺の母ちゃんは多分……そういうの気にしないだろうし、2人も3人も変わらんし……その…………』


『……?』


『うちで飯とか食ってかないか?』


『……………………』


 思考が飛び、目が点になり、それでも何か暖かく。


『うん。行く、……行きたい』



『つっても俺が作れるの肉じゃがとかだけど』


『え、叶芽君って料理できるんだ』


『うち片親だからさ、割と作ってんだよ』


 久しぶりの邂逅でもあれ、気を許せるのは彼だからなのだろう。


『別に今日だけじゃなくて、いつでも、来ていいからな』


『うん、…………うん』


 まだ暑さの残る初秋、私の中でもう蒸せかえる事はない。





「うわー、木内さんこんなのも作れるんだ!!」


「はぁ……、はぁ……、ただの肉じゃがだぞ……これ」


 息を切らしながらも家事を完遂した俺は、額を拭いながら夕食の席に着く。


「お前……、よく2人しかいないのに、はないちもんめ3時間もできんな」


「2人じゃないよ!! ポツとプーコもいたもん!!」


「んあ? ああ……、ぬいぐるみな」


「ポーツぅ! プーコぉ!」


「へいへい」


(なんだこのアットホーム感……)


 一生浸っていたいとも思うこの空間だが、やはりこのままではダメだ。

 俺にはしゃんとしていてもらわないと2人の物語が続かない。


(そろそろ本格的に算段つけてかないと、あの最善がそのままになっても仕方ないからな)




 4話続きます。でも次蛇足です。

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