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3-­③




「うーむ、完全に盲点だったなぁー……」


 揺らぐ地面に体力が侵され、鼓膜にセミが住み着く日中の頃合い。


 1人だけ長袖のスーツを装備した、ふくろ片手の場違いな男が肩を落として道路を歩く。


(そりゃあ長期間家空けんだから鍵かけとくに決まってるわな……)


 件の住所へ足を運んではみたものの、鍵の所在なんざ知っているわけもなく、鍵屋を呼べるわけもなく、俺はまったくの成果なしに帰宅していた。


(つーかあれ、ほんとに人住んでんのか? 今の時代なら違法建築の類いだろうよ)


 道から少し外れた場所に一瞬納屋かと見間違えたが、トタンで覆われたボロっちい一軒家がそこにはあった。


 蹴破れば簡単に侵入できてしまいそうな造りであるものの、俺にとってはあくまで人ん家。


 不審者まがいの行動に躊躇が働いてしまう。


(まあ、いつでも来れる距離だし緊急でなくとも別にいいのか? 役所行けば身分証とか戸籍表って貰えんのかな……)


 収穫自体はなかったが、この時代に長く居座るつもりが毛頭ない俺は割と楽観的に捉えることとしていた。


 お気楽思考のまま帰宅しているその道中、橋の上から川を呆然と眺めている少年が意気消沈と佇んでいるところに出くわす。


(あれ、あいつ)


「お、おーい、叶芽君……」


「うえ……おっさん……」


 早朝以来の邂逅にお互い気まずさを感じているあたり、同一人物であることを確信させられる。


(この様子、多分朝一のやつ引きずってんだろなぁ。こんなんでも俺と和葉の関係だし、このまま見捨てんのも嫌だし)


「えーと、なんか……へこんでたけどさ、朝のことまだ引きずってんのか?」


「お、おおん、そう……いや違うけど! ……つーかおっさん誰だよ、和葉と仲いいけど」


 当たり前だが幼馴染にとって俺の存在はあまりに怪しさ満点、懐疑の眼差しを向けられてしまう。


「あーあの、家政夫ってわかるか? 小清水家の家事手伝ってんだよ。(まだ2日目だけど)」


「ああ! それで! そうだったんだ……!! 和葉ん家、父ちゃんも母ちゃんもいないもんな!!」


「はぁ……、おい、そういうことあんまいうなよ」


「あ? なにがだよ」


 子供がいる立場だと尚更、こういう純真無垢なバカ正直はひどく頭を抱えさせられる。


「まあいいや、……で、その様子だとあの後和葉と和解もできなかったんだろ」


「うっ……うん、……いや! どうでもいいしっ!! あんなやつ!」


 俺は面倒そうにため息をついた後、宥めるように語りかけた。


「強がんな、俺はまあ……お前の味方っていうか、俺はお前と和葉を仲直りさせたいだけなんだよ」


「え~……なんでそんなことすんだよ」


「あいつの保護者みたいなもんだからだ。頼れる大人が誰もいない以上、和葉を支えるのは最終的にお前らなんだからさ……」


 方便を垂れつつ、俺は俺が自尊心おばけであることを知っている。


「お、おっさん……。そうか、おっさんは和葉のために……」


(和葉のためっていうか、お前のためっていうか、俺のためっていいますか……。とにかくお前ら2人は仲良くしてねぇと本人目線みるに堪えないんだよ)


 小2の純粋な眼差しに苦笑しながら目線をそらすが、純粋ゆえに方便も効果はてきめんであった。


「わかった、仲直りする!」


「おう、とりあえず謝りに行っとけ。素直にいけば許してくれるだろ」


「うん! …………、……っ、…………サンキューおっさん」


 はにかんでいるのか睨んでいるのか絶妙な表情だったが、さっとお礼を述べた後、すぐさま和葉の所へ駆けて行った。


 こうやって見るとけっこう可愛げがあるかもしれない。


「ぶん殴った方がいいとか思って悪かったな俺。……まあ、心配だから跡はつけさせてもらうけど」




 3話まだ続きます。

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