第九話 まだまだ恋には遠いわたしたち
その一方で、わたしもグレゴノール殿下も、今まで、幼馴染として築き上げてきた関係を壊したくないという気持ちもあった。
幼馴染から恋人どうしに関係を変化させることを、心の奥底では怖いことだと思っていたようだ。
もしそれがうまくいかない場合、それこそ形だけの結婚になってしまう可能性がある。
入学後四年が経っても、表面上は、グレゴノール殿下と楽しくやっていた。
でも、夜一人になった時は、
「グレゴノール殿下との関係はこれでいいのだろうか?」
「幼馴染のままだと、いずれは結婚したとしても、心は疎遠になってしまう」
「グレゴノール殿下のことは好き。でも恋をしているかと言われると、違う気がする」
「だからと言って、このままの状態でいるわけにもいかない」
「わたしにとって、グレゴノール殿下は幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた大切な人」
「グレゴノール殿下はこのままでは、『第二夫人』という形で他の人に奪われてしまう」
「そのような状態になった時、笑顔で祝福することはできない気がする」
「思い切ってわたしの方から『グレゴノール殿下に恋をしています』と言うべきでは?」
「わたしが思い切ってそう言えば、わたしの恋愛感情は高まっていく。そして、グレゴノール殿下の方の恋愛感情が高まっていき、本物の恋人どうしになっていけるのでは……」
と思うことが、だんだん増えてきていた。
しかし、わたしの方から、
「グレゴノール殿下に恋をしています」
というのは、とても勇気のいることだった。
わたしのことを、少しでも異性として扱ってくれる様子があるのであれば、言いやすかったのだけど……。
そういう様子はないままだった。
グレゴノール殿下は、異性に対する興味がないわけではなかったようだ。
それならば、わたしを異性として意識してくれてもいいのでは、と思う。
その間にも、わたしと親しくなりたいという男子がでてきていた。
グレゴノール殿下は、相変わらず何も言わないどころか、微笑みで応えている。
告白ではないとはいっても、異性と親しくするのだから、少しは意識してもらってもいいと思うのだけれど……。
わたしは複雑な気分になっていた。
それは、わたしの心の中で、グレゴノール殿下と付き合い、恋人どうしにまで関係を発展させていきたいという気持ちが、少しずつ強くなってきたからだと思う。
わたしとグレゴノール殿下は入学して五年目を迎えた。
五年目になってからも、仲良くやっていけるものと思っていた。
四年目からグレゴノール殿下に対しては、ていねいな言葉を使うようになっていたので、軽口の叩き合いをすることはなくなっていた。
グレゴノール殿下の方は、もともとわたし以外の人たちには、ていねいな言葉を使ってきた。
ただ、わたしに対しては幼馴染ということで、打ち解けた言葉を使ってきた。
でも、わたしに影響されたのか、わたしに対しても、少していねいな言葉を使うようになってきた。
軽口を叩き合うことが結構好きだったので、そういうものがなくなってくると少し寂しいものがどうしてもある。
しかし、仲の良さは相変わらずだった。
ただ、一緒に過ごす時間はそれ以前よりも少なくなっていく。
わたしは王太子妃にふさわしい女性になる為、より細かい教育を受けるようになっていた。
グレゴノール殿下の方も王太子にふさわしい人物になる為、同じようにより細かい教育を受けるようになっている。
学校が終わった後も、休日も、二人は忙しい。
身につけなければいけないことがとにかく多いのだ。
しかし、一緒に過ごす時間が少なくなったのは、それだけが理由ではなかった。
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