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第五十六話 マクシノール殿下への申し入れ

「クラデンティーヌさん、こんにちは。今日もよく来てくださった」


 マクシノール殿下は、わたしに声をかけた。


 しかし、どうにも儀礼的だ。


 マクシノール殿下に恋をしたわたしは、いきなり現実に戻されていく。


 そうなのだ。


 マクシノール殿下は、わたしに対して愛情をもっているわけではない。


 多分、あいさつが終わったら、帰ってほしいとまで思っている。


 今までのわたしも、マクシノール殿下のことをイケメンでいい男性とは思っていた。


 しかし、それよりも、マクシノール殿下の婚約者と言う立場を維持することの方が重要だった。


 このまま結婚まで進みたいとは思っていたものの、愛情はそれほど持ってはいなかったので、あいさつが終われば、すぐに帰るのが普通だった。


 今日は、それだけで終わりにするわけにはいかない。


「マクシノール殿下、今日もお招きありがとうございました」


 わたしはそう言って頭を下げた後、続ける。


「今日はマクシノール殿下に申し上げたいことがございます。少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」


 マクシノール殿下は驚いたようだった。


 こういうことをわたしに言われたことは始めてだったからなのだろう。


 やがて、マクシノール殿下は、


「話というのはなんでしょう? 時間はありますので、お聞かせください」


 と言った。


 柔らかい口調ではあるものの、どこか冷たさがある。


 しかし、わたしの話は聞いてくれそうだ。


「それでは話をさせていただきます」


 わたしはそう言った後、一回言葉を切った。


 そして、心を整えた後、続ける。


「わたしは先程、高熱で倒れたのですが、その後、自分のことを反省するようになりました。わたしは、今まで、残念ながら、わがままで自分のことしか考えることができない傲慢な女でした、わが公爵家においては、最初は財政赤字を減らすという意味もあったのですが、贅沢をしたいという自分の欲求に負けてしまい、重税と臨時税を取り立てて、領民を苦しませてしまいました、わたしは、このことを恥じ、税率をもとに戻し、臨時税の取り立てを止めるなどの改善を行いました。また、コルヴィシャルデ公爵家の立て直しを行う為のプロジェクトチームも設立いたしました。こうして、わたしは、今までの自分を捨て、生まれ変わろうと一生懸命努力をしております。そして、こうしたことを行っていくことによって、マクシノール殿下の妃としてふさわしい人間になろうと思っております。今日は、このことをお伝えしたかったのと、今まで、マクシノール殿下の妃になる人間としての自覚が足りなかったことをお詫びしなければならないと思い、お時間を取らせていただきました」


 わたしはそう言った後、マクシノール殿下に頭を下げた。


「頭を上げてください。クラデンティーヌさん」


 マクシノール殿下がそう言ったので、わたしは頭を上げた。


 マクシノール殿下は困惑しているようだ。


 しばらく考え込んだ後、マクシノール殿下は、


「クラデンティーヌさん、申し訳ありませんが、あなたの言うことはすぐに信じることはできません。確かに、最近、学校内で流れているあなたの噂は、『今までと違って、やさしくなっていて、思いやりがある女性になってきている』というものが増えてきています。今までは、『わがままで傲慢な女性』という噂ばかりで、閉口しているところはありました。このことを、わたしからあなたに言ったことは今までなかったと思います。それは、わたしがあなたについての噂を信じたくない気持ちが強かったからです。でも、あなたがここに来る度に、その傲慢さは感じずにはいられませんでした」


 と言った。


「面白い」


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