第四十五話 方針の転換が必要
もともと細かい政務は、お父様もギョーネさんに任せてはいた。
コルヴィシャル公爵家を発展させるのであれば、最初に思っていたように、クラデンティーヌがどんどん仕切っていくことが必要だ。
でもクラデンティーヌはそれを放棄してしまった。
ギョーネさんの方から指示を仰いでくれば別だ。
その時は対応しなければいけないと思っていた。
しかし、増税と臨時税以外の指示は、こちらからしなくても、特に問題はないという認識を持っていた。
それにしてもギョーネさんという人は、家臣としては行き過ぎといえるほど言われたことに対して、忠実に動く人だ。
そして、感情というものを一切外に出すことはない。
若い頃はともかく、クラデンティーヌの物心がついてからは、ずっとその調子だった。
クラデンティーヌが、増税、臨時税のことを命じても、一切感情は動かさない。
反論をすることはなかった。
領民からの反発や、公爵家内からの反発があっても、全く動じることはなかった。
クラデンティーヌの指示を忠実に実行し続けていた。
クラデンティーヌが婚約破棄をされて、コルヴィシャルデ公爵家に戻ってからも、その方針に変わりはなかった。
その為、この公爵家の全体で反乱が発生した時は、クラデンティーヌと並んで、ギョーネさんも処断の対象になってしまった。
しかし、クラデンティーヌの前に処断をされることになったギョーネさんは、この時になっても感情を動かすことはなく、クラデンティーヌに対して何も言うことはなかった。
これだけ仕事を忠実にこなすことができる人だ。
クラデンティーヌが的確な指示を出していれば、クラデンティーヌの片腕として、コルヴィシャルデ公爵家の発展に十分貢献できる人材になっただろう。
そのことを認識するのは、転生してきたことを思い出してからだ。
転生一度目のわたしは、ゲームでのクラデンティーヌと同じように動き、全くそのことを認識することはできなかった。
今のわたしは、転生一度目の時、ギョーネさんを道ずれにしてしまって、申し訳ないと思っている。
何をやっていたのだろうと思わざるをえない。
クラデンティーヌは、領地経営についての才能を持っていたのにも関わらず、その才能を生かすことはなかった。
こうして、転生する前と今までの記憶がよみがえってくると、頭を抱えるほどの失敗を認識して、頭が痛くなってくる。
まずは領地にある屋敷に行かなくてはならない。
そこで、すぐにでも、増税と臨時税を取り立てるという政策を転換させなければならない。
とはいうものの、まず、そこに行くだけでも気が重い。
馬車で半日かかる距離。
今の季節だと、夜明けの後すぐに出発しても、着くのは昼過ぎ。
逆に、朝会議をして昼に領地の屋敷を出発すると、王都の屋敷に戻ってくることができるのは、夜に入り始めた頃。
着いたら、着いたらで、この屋敷にいる時よりも、窮屈な時間が待っている。
幼い頃から今までのわたしの対応がずっと悪かったせいか、屋敷にいる人間の多くは、わたしに対して怖れているような態度を取るし、中には慇懃無礼な態度を取る人もいる。
さすがにわたしに面と向かって言う人はいないが、歓迎する雰囲気ではないのは間違いないだろう。
一度領地に行った場合、行き帰りを入れると、最低二日間はこれにより自由がきかなくなる。
今回も、二日目の朝に会議を設定し、夜までには王都の屋敷に戻ってくるというハードなスケジュール。
領地に定住すれば、また状況は違ってくるけれども、学校があるので王都の屋敷に住まなければならず、どうしても、領地に行く方が従となる。
とはいうものの、今までのわたしは、王都の屋敷から離れるのは嫌だった。
自分が招いてしまったこととはいえ、領地の屋敷に行っても、歓迎されないのでは、疲れるだけでわたしの方には何のメリットもない。
領地の屋敷で。ずっと病床にあるお父様のお見舞いをするという目的も本来であれば持っている。
しかし、お父様のお見舞いをしても、気が滅入るだけだったし、疲れるだけだった。
しなければならないと思っても、気が乗ってこない。
その為、領地の屋敷に戻るのは休みの時だけで、長居をすることはなかった。
それどころか、もう九か月も領地には帰っていない。
これがこれまでのわたしの状況だ。
わたしはこの状況を変えていかなくてはならない。
わたしが方針を転換しても、すぐに人望が集まることはなく、怖れられる状況は続くだろう。
公爵家の人々と腹を割って話し合える時がくるのは、夢のまた夢かももしれない。
しかし、それでもわたしは一歩ずつ進んでいかなくてはならないのだ。
わたしは数日かけて準備をした後、領地内の屋敷に向かった。
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