たみゃてばこ
ある日、あなたが外から帰ってくると、黒くて艶やかな箱が、ぽつりと部屋のまん中にあります。
重箱ほどのサイズの、漆塗りの箱。赤い紐で蝶々結びされた箱。
それはまるで…玉手箱によく似た箱です。
あなたはその見覚えの無い箱を不気味に思いながら、ゆっくりとその箱に近づきます。
箱が手に取れるほどの距離まで近づくと、じっ…とあなたはその箱を見つめ、人差し指でちょん、とその箱に触れてみます。
特に、反応はありません。
今度は、その箱をそっ…と持ち上げてみます。
爆発物だとまずいので、そっと…そおっと…持ち上げます。
その箱を持ち上げてみると、何も入っていないのか、箱だけの重さのように感じます。
あなたはそおっと箱を振ってみます。
…が、特に箱の中から音はしません。
箱への警戒心が薄れ、今度は好奇心があなたの心を襲います。
箱を結ぶ赤い紐がほどきたくなってきたあなた。
けれど、これが見たままの玉手箱だったなら、箱を開けた瞬間、不思議な煙に包まれて一気に老いた身体になる…とあなたは『浦島太郎』のお話を思い出します。
とはいえ、あれはおとぎ話。それはないだろうと思うのと同時に、浦島太郎のようにはならないが、もしかしたら、有毒なガスなどが入っているかもしれないと考えます。
「………」
あなたはいったん、箱を置き、開けるべきか否かを考えます。
そして。
────シュルッ…パカッ!
あなたは好奇心に負け、その箱の紐をほといてしまいます。
すると…
にゃー
にゃ~ん
にゃにゃーん
にゃぁお~ん!
にゃー
にゃー
にゃー
にゃー
にゃーにゃーにゃーにゃーと、白や黒、三毛猫にキジトラ、ハチワレにロシアンブルー。アメリカンショートヘアやマンチカンなど、さまざまな猫がその箱からいっせいに出てきて、あなたにすりすりもふもふします。
一瞬戸惑いはしますが、猫好きのあなたはその猫たちをもふもふふわふわなでなでして、デレデレします。
「かわいい」
という言葉と歓喜の絶叫が止まらなくなります(興奮のあまり、鼻血をふくかもしれません)。
もふもふ。
ふわふわ。
すりすりすりり。
猫たちは箱を開けたあなたに、めいっぱいすりすりもふもふします。
けど。
ピクッ
猫たちはいっせいに動きを止め、そして。
ドドドドド!!!!
あなたの方におちりを向けると、誰かに呼ばれたかのように、みなその箱へと戻ってゆきます。
猫たちが戻ってゆくと、カパッとその箱は勝手に蓋を閉じ、しゅるりとひとりでに赤い紐を結び直します。
「…………」
シン…と静まり返った、あなたの部屋。
勝手に閉じた、不思議な箱。
じっ…と、その箱を見つめ。
猫好きなあなたなら、きっと…
────シュルッ…パカッ!
※猫は気まぐれな生き物なので、開ける度に出てくるとは限りません。