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漂着物

 繰り返す海波の音。

 その中で、男が話し始める。


「一週間ほど前にこの海岸で人間の片腕が発見されたのはご存知ですか?」


「ええ、勿論」


 その事件はかなりセンセーショナルにメディアを賑わせた。

 つい最近まで、警察の捜索で一帯が立ち入り規制されていたはずだ。


「あの片腕、腐敗と損傷が酷くて、まだ誰のものかも解ってないらしいですね」


 男が頷く。


「私が探しているのは、その腕の残りの部分です」 


「残り?」


 火折乃が尋ね返すと、男は小さく頷いて口を開く。


「どこでも良いんです。頭、身体、足……或いはその全部でも」


「なぜ?」


「え、ええ。」


ちょっと戸惑った風な様子を見せて、男が答える。


「あくまで、私がそう思っているだけなのですが、あの腕の持ち主が私の友人かも知れないのです」


「まあ!」


 火折乃は大げさに驚いたように口を手で覆って見せた。


「え?ナゼそう思われるのですか?まさか夢枕に立たれたとか?」


 男は火折乃の不躾な言葉に気を悪くした様子も無く、話し出す。


「釣りの好きな友人でした。半月ほど前にこの海岸近くに磯釣りをしに出かけて、行方不明になってしまったんです」


(ビンゴ!)


 火折乃が心の中で歓喜する。


「私も一緒に行くはずだったんです。ですが、どうしても抜けられない仕事が出来て。磯釣りは独りでは危険だからと止めたのですが……もっと強く止めるべきだった」


 男はそう言うと顔を伏せ唇を噛んだ。


「あの腕は発見が遅くて、虫や鳥に食われ、夏の日差しで腐敗して誰のものか解らなくなってしまった。だから、もし、まだこれから漂着するものがあるなら、少しでも早く見つけ出して警察に……そうすれば」


「なるほど、しかし、この辺の捜索はもう警察が行っているはずですが?」


「まだ、これから漂着するかも知れないじゃ無いですか!」


 男が叫ぶ。

 そんな男を見て、火折乃は小さくため息つき「でも、それではキリが無い」と言って目を伏せた。


「……ええ」


 男はそう言って下を向いてしまった。


「心配なのですね?」


火折乃が声をかける。


「……」


 男は俯いたまま頷く。


「ひょっとして」


 そう言って、火折乃が男の顔をのぞき込む。


「ひょっとして、そのご友人というのは恋人さんですか?」


 男はハッとしたように火折乃の瞳を見つめ返し、小さく首を振りながら答えた。


「確かに、相手は女性です。ただ、まだ、それほどの関係では……でも、いずれはと想っていた女性でした」



「なるほど」


 火折乃が大きく頷く。


「大変よくわかりました。心配だったでしょう、辛かったでしょう、私がきっと、貴方の悩みをすべて解決してご覧に入れます」


 火折乃はそう言うと、男の両腕をがっしりと掴み彼の身体を引き寄せた。

 次の瞬間。

 火折乃の笑顔がこの上も無く人を貶むものへと変わり口を開いた。


「つか、ま、え、、たぁ」


 その声は、聞いた者の背筋に地の底の冷水を浴びせるような、冷たく恐ろしい声だった。

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