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カエロウ

「かなり急な山道ですね」


 後ろから付いてくるコオリノさんが、弱音のような台詞を吐く。


「10分くらいで着きますよ。それまでずっとこんな感じですが」


 道というより急な斜面の獣道。


「別の、幾分なだらかな道もあるんですがね。時間が倍くらい掛かる。俺達はいつもこの道」


 子供の頃には当たり前の道だったが、確かにちょっとばかり息が上がる。

 身体的には今の方が出来上がっているはずなのだが、やはり子供というものは計り知れない生き物だ。

 特に、遊びの時間中に関しては。


「よく、こんな草だらけの中の道を見分けられますね。迷ったりしませんか?」


 コオリノさんが尋ねてきた。


「カン、て奴ですかね」


 そう言って「はは」っと軽く笑う。

 コオリノさんからの返事は無い。

 かなり息が上がってしまったんだろう。

 無理も無い。

 大体、こんな事、大人のやることじゃない。

 夜の夜中に男と女。

 秘密基地にデートだあ?


『大のオトナが』


 何か、思い出しそうになる。


『大の大人が』


 そんなことを、つい最近誰かが言ってなかったか?


『秘密基地だあ?』


そうだよ。


『今からかあ?二次会は?』


 あれ?

 なんで、俺は二次会に行かなかったんだっけ?


『俺は行っても良いぜ』


 あれ?お前、杉村だよな。


『じゃあ、二次会キャンセルかあ?』


 お前、……樫井。


『ったく、大の大人が夜の夜中に酒呑んだ勢いで秘密基地とは、酔狂だねぇ酒だけに』


『ダイノオトナ』と言ったのは樫井、だ。


 俺達、最初から秘密基地に行く予定だったじゃ無いか。

 話が・おかしく。ないか。

 最初から、最初から、最初から最初からさいしょから


「コオリノさん!」


 振り向きざまに彼女を呼ぶ。

 コオリノさんは無表情のまま少し離れた場所に立っていた。


「コオリノさん。杉村と樫井も秘密基地に行くって言ってなかったですか?」


 今、この場で、真実を語れるのは、コオリノさんしかいない。


「どうしたんですか?」


 コオリノさんが冷たい笑いを浮かべながら口を開く。


「行きましょう。もうすぐ着くんでしょう?秘密基地」


 そう言うとコオリノさんはゆっくりと俺に近づいて来た。

 何かがおかしい、俺達は秘密基地に行くはずだったんだ。

 バーになんか行くはず無い。

 よしんばバーに寄り道したとしても、コオリノさんは俺と秘密基地の話題で盛り上がったと言っていた。

 怒って帰るほど羨ましかったなら、杉村と樫井はナゼ話に加わらなかったんだ?


『で、これからどうするね』


 思い出した。

 俺は秘密基地に行った。

 秘密基地は無くなっていた。

 更地になって俺達三人を迎えた。


『で、これからどうするね』


 更地の前で樫村がそう行って、俺は帰ろうと応えた。

 俺は走り出していた。

 何かがおかしい。

 コオリノがおかしい。

 とにかく走った。不思議と苦しさや辛さは無かった。

 子供の頃の奇跡の躯体が戻ったように軽かった。

 突然、身体が傾き、足を滑らせた事が解った。

 斜面を滑り落ちていく。

 障害物にぶつかり弾かれ、転がり、擦りむき、切り裂かれながら落ちてく。

 長い長い間滑り落ちて、ふと、身体が止まった。

 まだ、身体が動く。

 不思議なことに痛みも無い。

 ゆっくりと立ち上がり、足下を見て、俺はすべてを思い出した。

 俺の足下には、ズタズタになり横たわる俺の姿があった。

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