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コオリノマコト

「私の名前はコオリノマコト」


 女がそう名乗るのを聞いて俺は、はっとして彼女の姿をまじまじと見た。

 形の良い顎の線をした顔は、表面が剥いたゆで卵のようになめらかで、ベリーショートの黒髪ボブがよく似合っている。

 耳には短冊形をした玉虫色の……、多分、大きさから言ってピアスであろうアクセサリーが揺れていた。

 黒いワンピースでたたずむその姿は一見すると、葬儀帰りの若未亡人と言った雰囲気で、妙に艶めかしい。


「コオリ?あの冷たい奴か?」


「うーん、やっぱりそう思うよね。でも違う」


 彼女はそう言うと、人差し指を宙に躍らせながら言葉を続けた。


「炎とかの火という字に枝を折るとかの折るという字『火折』と書いて『コオリ』で、ノは乃木希典の乃ね」


 俺は顔をしかめる。


「火??火という字はコとは読まないだろ」


「読むよ。表外読みで。パソコン叩けばでてくるから」


 そう言われてみれば、コタツという字も火燵と書いたりすることを思い出した。

 それにまあ、人の名字だものな。

 ちょっと普通じゃ無いようなものであってもおかしくは無いか。

 あれ?

 それよりちょっと待てよ?

 そういえば、この女は誰だ?

 いや、『火折乃マコト』とは名乗っている。

 そういうことでは無くて、えーと、俺は何でこの女と一緒にここに居るんだっけ?

 事態を飲み込めず無言でいると、女は当惑気味の表情で俺を見ている。

 まてまて、慌てるな。

 とにかく、まずは思いだそう。

 

 ……そうだ。

 確か、俺は中学時代の同窓会に出るために田舎に帰ってきていたんだ。

 で、同窓会に出て、一次会の終わった後。

 2次会に出ずに仲の良かった樫井と杉村と3人で飲み直そうって事で街をうろついて。

 ありゃ?

 そういえば二人はどうした?

 俺は、二人の姿を探してせわしくあたりを見回した。


「どうしたの?」

 

そんな姿を見て、コオリノと名乗った女が尋ねてくる。


「いや」


 一呼吸置いて俺はコオリノさんに尋ね返す。


「俺、三人で飲んでたはずなんだけど、あと二人どこ行ったかと思って」


 コオリノさんは少し困った顔をして口を開いた。


「だから、帰ったって言ったじゃ無い。さっき。飲んでた店で貴方が酔い潰れて寝ている間に先に帰って、みなの支払いさせられて怒ってたじゃない」


 え?


「あれ?ひょっとして私のことも覚えてない?」


 コオリノさんはいたずらっぽく俺をのぞき込んだ。

 大体の状況は飲み込めました。

 しかし、大部分は謎のままだ。

 記憶が酩酊の彼方である以上、今、一番賢い行動は、おとなしく彼女に記憶の穴埋めを請う事だろう。

 少なくても彼女は酔い潰れて寝ていた俺のポケットから財布を抜き取り消えてしまうこと無く、今ここに俺と一緒にいてくれている。

 そういう人物なのだから。


「すまない。よく覚えていない。まず、アンタは何者だったかから教えてくれないか?」


「覚えてないなんてシンガイだなぁ、そこ、一番大事なとこ!」


 コオリノさんはそう言うと小さく笑って続けた。


「アナタ、私をナンパしたのよ?」 

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