死際というもの
初投稿!!!!!!
どうぞよろしく!!!!!
私の世界は妹を軸に廻っていた。
私の地獄が始まったあの日から、すべてを妹から隠して偽り、母親のように優しく、父親のように厳しく、姉のようにかわいがり妹を育ててきた。妹がもう悲しまないように。
―ビデオカメラに満面の笑みを映した小学校の入学式―
―一瞬で終わった中学生時代の反抗期―
―アイロン片手に半泣きで助けを求めてきた高校時代の初デート―
―少し緊張気味だったお姫様を信頼出来る彼氏君のもとへ送り出した日―
―仕事の途中に突然の朗報。思わず職場を飛び出し会いに行った妊娠が発覚した日―
―飲み会の途中の電話で病院に駆けつけて出産に立ち会えた時―
―全然音沙汰なくて不意に遊びに行った日。自分の無力さを痛感した日―
目を閉じればいつだって鮮明に思い出せる私の大切な記憶。
「おねーちゃん!!!!目を開けて!!!おねーちゃん!!!!」
私を呼んでいる妹の悲痛な叫びが聞こえる。
重い重い瞼を上げれば視界いっぱいに映る妹家族。
耳に届く連鎖的なシャッター音やざわざわと人のうごめく音に人の話す声と交通整備の笛の音。
色んな情報が一気に私の意識を現実へと押し上げる。
そうして現実に還った私を、腹部と背中の異常なほどの熱さと鋭い痛みが歓迎し、手のひらから感じる生暖かさと広がる血だまりの中に無造作に置かれた冷たいナイフが現状を思い出させる。
「おい。さっさと歩け!!」
「はいはい。ったくいてぇな。」
声のするほうに顔を向ければパトカーに向かうそいつと目が合う。
ニヤリと三日月を浮かべたそいつに途方もない殺意が沸くが、それよりも妹にぎょっとする。
かわいい顔を歪め、ぼろぼろと大粒の涙を流している。
泣かないでと、そう伝えたくても二酸化炭素が吐き出されるだけ。
涙を拭ってあげたくも、手に上手に力が伝わらずに手が動かないまま。
泣いている妹に何もしてあげられない自分が憎い。このまま泣いているのを見ているだけなんて後悔しか残らないと、じわじわと溢れる血と痛みが強まるのを感じつつも無理を承知で腹から声を出す。たとえ自分が涙の原因だとしても、妹の涙は見たくない。
『…………わら、って。』
「今!?笑えるわけないじゃん!!!!おねーちゃんが、おねーちゃんが!!!!」
『わら、って。おねーちゃ、んのた、めに。ねぇ、おねがい。』
少し目を見開いた妹は涙をぬぐって笑顔を見せる。少しは笑っているが、笑いながらも涙はとどめなく落ち続け、しまいには顔を覆って嗚咽を漏らし始めてしまったが、少しでも笑顔が見れたことで無意識のうちに安心したのかどっと、襲ってくる眠気に耐える。
「救急隊です!!!おねーさん。分かりますか。救急隊ですよ!!!意識はありますか!!!」
「この出血量…危険だな。さっさと連れていくぞ。」
「12の3。よし、乗せろ!!!!」
「おねーちゃん!!!!」
「ご家族の方ですか?」
「妹です!!!」
「ねーね!!!いっちゃやー!!!」
「ねーねー!!!!」
「お義母さんに連絡お願い!?私はおねーちゃんに!」
眠気に抗う間にやいのやいのと自体は進んでいく。
救急車の扉が締められ、またしても霞み始めた狭い視界には坊と嬢を抱えた妹と救急隊員が映る。
泣きながらこちらに伸ばす小さな手をどうにか掴む。彼らの存在を感じられる最期だから。
『……なくな。ここに、いる。』
「ねーね!!!やー!!!」
「死んじゃやー!!!ねーねー!!!」
『ゲホッ……』
「血圧低下!!出血も止まりません!!」
「おねーちゃん!!!お願いだから動かないで!!」
末端からだんだん体温が下がってる気もする。
瞼は重いくてだんだん下がっていくし、頑張っても力が入らなくなった。
血も止まる気配がない。痛みも、もはや感じないし。
まぁつまりはそーゆーことなんだろ。だから私が死ぬって現実からこの子達の目を反らせたい。
『ねーは、ねるだけ、なくな。うたでも、うたうか?』
「ほんとに??ほんと??」
「やーだ!!!やー!!」
坊は少し落ち着いたが、嬢の方は小さいなりに察したのか。ずーっと泣きやまないままで全然力が入ってないだろう私の指を一生懸命掴んでいる。でも重かったんだろう。腕がゆっくりと落ちた。
「おねーちゃん!!!しっかりしてよ!!!」
「心拍数が低下しました!!!手も冷たくなってきてます!!!おねーさん!!!頑張って!!!」
だんだんと視界が狭まり完全な暗闇になっていく間、妹の顔をぼーっと見つめていた。
そしてだんだんとああ、置いていかれるのが私じゃなくて良かった。なんてずるい思考が現れ始める。私はきっと死にゆく相手が自分より大切な人であれば耐えられないだろうから。
私は弱いから。先に死んでしまうことにもはや安堵感すら覚えてしまう。
よく、おねーちゃんみたいに強くなりたいなんて言っていたが、当の私はこんなにも弱い。
だからこそこの先の坊と嬢の行く末を見る権利よりも私が先に死ねる権利を欲してしまった。
だからあの時咄嗟に動いた体が。これが最適解だったんだと、自分自身に言い聞かせながら、暗闇の中、深い闇の中へ意識を落とした。ごめんね
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